市場関係者メッセージ
市場区分再編で海外の企業や投資家から選ばれる市場に
※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年3月16日に掲載した記事の再掲載です。
近藤裕文
株式会社サイバーエージェント・キャピタル 代表取締役社長
――貴社の事業概要(投資対象、投資規模等)について、簡単にご紹介ください。
近藤氏 株式会社サイバーエージェント・キャピタル(以下「CAC」)は日本のベンチャーキャピタルとして、国内にとどまらず世界7カ国9拠点を構え、米国のサンフランシスコや、中国の北京・上海・深セン、インドネシア、ベトナム、タイなど、グローバルに展開しています。その目的は、CACとして現地に拠点を持つことで、当地のコミュニティに深く関わり、より身近な存在として現地企業を支援することができるような環境を作り出すことにあります。
投資対象としては、主にシードからアーリーステージのポテンシャルの高いインターネット関連ビジネスで、ユニコーン企業にまで成長した企業にも多く投資をしており、ユニコーン創出ベンチャーキャピタルとして活躍しております。これまで累計6本のファンドを運用しており、日本で3本(総額約134億円)、中国で1本(総額約19億円)、東南アジアで2本(総額約30億円)となっており、今後は地域の広がりや投資額の増加が見込まれます。
直近の取り組みとして、2020年に投資チーム以外にグロースチームを創設し、投資先の事業開発をハンズオン支援する体制を強化しました。これにより、投資することだけでなく、投資先の人材面も含めた支援に本格的にコミットすることが可能となり、より全面的な支援が可能となりました。
――近年の国内外のスタートアップの事業環境、資金調達環境等について、ご所感をお聞かせください。
近藤氏 ベンチャーキャピタルとして国内だけでなく東南アジアの有力企業にも投資をしてきた経験から感じることは、投資先の新興国においてIPOマーケットが徐々に整備されてきているということです。例えばCACのベトナムの投資先企業の1社も、一昨年、現地の証券取引所に上場を果たしました。これまでの10年は東南アジア企業のエグジットといえば地元の財閥系企業によるM&Aが主流でしたが、近年は国内で上場企業となり活躍するという流れがあると感じています。
日本国内ではベンチャーキャピタルのファンド残高が7,000億円にまで成長しており、DX化の促進や成長支援を目的に多くの資金が集まっています。
CACの過去の投資先(決済ビジネスのスタートアップ企業)も約3,000億円クラスのユニコーンとなって、米国メガスタートアップに買収されたことがありましたが、このように日本のスタートアップが海外のGAFAMクラスの大型テック企業からM&Aの対象として選ばれるようになってきたことを非常に嬉しく思っています。
――2022年4月4日に始まる「グロース市場」に対するご期待を伺えますでしょうか。
近藤氏 東証マザーズが1999年に開設され、これまで累計800社ほどの会社がマザーズに上場してきたと思います。ベンチャーマーケットとしてマザーズは、スタートアップのエコシステムの構築に大きく貢献してきており、そのエコシステムの一員として非常に感謝しております。
ここ最近におけるマザーズ上場企業の初値時価総額は中央値ベースで130億円程だと思いますが、それは米国スタートアップでいうとシリーズBよりも少し手前くらいだと思います。
マザーズは、このようなステージで上場可能とすることで、社会からの信用力を獲得し、資本市場にデビューして厳しい株主と対峙することなど、多くの学びある経験を早期に体験できる機会を提供してきたといえます。その点は、日本のスタートアップエコシステムに大きな影響を与え、市場開設からおよそ23年間、色褪せずにマザーズが提供してきたバリューだと感じています。同時に、マザーズから東証一部に市場変更した会社も数多く存在しますが、そのような環境が存在したからこそ、日本でもメガベンチャーが育ったのではないかと感じています。
この4月からスタートする新市場区分の素晴らしい点は、2つあると思います。1点目はこれまでマザーズが果たしてきたベンチャーマーケットとしての機能をグロース市場として残したということ。そして2点目はグロース市場とプライム市場との差別化をより一層明確にしたということだと思います。グロース市場に上場した企業がグロース市場の企業であり続けるというよりも、プライム市場に上場できるような企業を育てるべく、今後もCACとして投資をしていくつもりです。
また上場はそれ自体が資金調達以外にもいろいろな波及効果をもたらすものです。私たちの投資先企業の1社で、IPOをしたある企業の社長は、「上場できていたからこそ、大きな成長の機会となるM&Aの話に乗ることができた」とおっしゃっていました。この会社は上場後、しっかり証券市場で評価されていて、高いバリュエーション(時価総額)となっていました。そして上場後にある企業を買収したわけですが、それは上場していたからこそ、その会社の評価が可視化されたものであって、もし未上場だったら有望なM&Aの話は舞い込んでこなかったといえるでしょう。
―― 近年は、海外のスタートアップ企業が東証へ上場するケースが、少しずつ出てきていますが、その中で取引所が果たすべき役割は何でしょうか。
近藤氏 取引所が果たすべき役割というよりも、エコシステムの一員としてともに歩んでいってほしいという想いの方が強いです。
CACでは定期的に有望な起業家と投資家をつなぐピッチイベントである「Monthly Pitch」を主催していますが、これまで日本だけでなく、東南アジアでも開催した実績があります。その東南アジアで開催したときに、東証の上場推進部の方から東南アジアのスタートアップ企業に対して、東証への上場についてプレゼンテーションをしてもらったことがあります。そのMonthly Pitchで、東証のプレゼンテーションを聞いた東南アジアの起業家たちは、皆、口をそろえて「東証への上場を果たして、上場企業の社長になりたい」と目を輝かせていました。
CACとして、もっともっとそういう会社と日本を繋いでいきたいと思っています。実際、東南アジアの資本市場(IPO環境)の整備は進んではいるものの、まだまだ時間かかる部分は多いので、東証のグロース市場に、そうした有望企業がデビューする日を楽しみにしております。
―― 最後にメッセージをお願いいたします。
近藤氏 CACでは引き続き国内海外問わず積極的な投資を行っていきます。東証の新市場区分に移行後も、グロース市場から将来的にプライム市場に進み海外投資家との接点を増やしていくようなスタートアップ企業への投資を増やしていきたいと考えています。
近藤裕文
株式会社サイバーエージェント・キャピタル 代表取締役社長
2003年、サイバーエージェントに入社。広告代理店部門でデジタルマーケティング業務に従事。
2006年、博報堂とサイバーのジョイントベンチャーCA/Hの設立参画、アイスタイルとサイバーのジョイントベンチャー、新規事業の責任者などを経験し、2012年、サイバーエージェント・メディア局長へ就任。
2013年12月サイバーエージェント・ベンチャーズ(現サイバーエージェント・キャピタル)取締役に就任。
2018年10月、サイバーエージェント・キャピタル代表取締役、サイバーエージェント投資戦略本部長(藤田ファンド)に就任。現在国内外の責任者として投資判断に関わっている。