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【大阪府】あらゆるものを接着します! 「ボンド木工用」でお馴染みの、老舗接着剤メーカーの今と未来

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年1月18日に掲載した記事の再掲載です。

コニシ株式会社
経営企画室 リーダー 中谷光宏

あらゆるものを接着します!
「ボンド木工用」でお馴染みの、
老舗接着剤メーカーの今と未来
―大阪府― コニシ株式会社

赤のキャップ、黄色い容器の「ボンド木工用」を使用したことがあるのではないでしょうか。この「ボンド木工用」を製造販売しているのが大阪・道修町を拠点とする老舗メーカー「コニシ」です。創業はなんと1870年! もともとは洋酒を製造していたこの企業が今ではアンコールワットの遺跡修復を行うまでに変貌。その興味深い事業内容や今後の展望などについて経営企画室リーダーの中谷光宏さんにお話を伺いました。

主力商品は「ボンド木工用」じゃないの!?

――赤いキャップに黄色い容器の「ボンド木工用」は誰でも知っている商品ですね。なぜ、日本の隅々にまでこの製品が広く知られるようになったのでしょう?

中谷リーダー ありがとうございます。弊社の「ボンド木工用」は1957年にリリースされましたが、文具として小学生の皆さんに広く使ってもらえるようになり、認知が定着したのだと考えています。当時から弊社は他メーカーと比較し、文具の流通ルートに強いという特徴を持っていたことや、赤と黄色という記憶に残りやすいパッケージによって、メジャーな商品となっていったのだとあらためて感じていますね。

おかげさまで現在、「ボンド木工用シリーズ」の市場シェアは7、8割といったところです。

――コニシの主力商品は「ボンド木工用」ということになりますか?

中谷リーダー 商品としては確かによく知られているのですが、実は「ボンド木工用」のように工作などに使用されるタイプの接着剤は、弊社ボンド製品全体の売上においては10~15%程度なんです。一口に接着剤と言っても弊社が販売している種類はおよそ5,000種類以上。そのうち一般消費者向けの商品の売上は先ほど申し上げたように10~15%程度です。一方、内装用、外装用といった家を建てる時に使用する住宅関連用接着剤の売上は40%程度と、この分野は弊社の強みになっているんです。そのほか、マンションやビルなどを補修する際に使用される土木建設分野向けの接着剤やシーリング材、また様々なメーカーさんが自社製品を作る際に接着剤を使用する産業資材分野でも広く使われています。

また、スマートフォン、自動車、トイレットペーパーの紙管といった多様な業界でそれぞれに必要な接着剤があり、このように各業界のニーズに応えてきた結果、商品がどんどんと増え、今では5,000種類以上もの接着剤を作るようになったということです。私もコニシに入社した時、接着剤にはこんなにも種類があるのかと驚いたほどなんです。

――私たちの身の回りでは様々な接着剤が活躍してくれているんですね。

中谷リーダー はい。高速道路や橋、トンネルなどコンクリートの建造物は頑丈だというイメージが強いですが、長年、使用しているともちろん様々な部分が劣化してきます。コンクリートのひび割れには接着剤を注入して強度を戻しますし、高速道路の橋梁などは強力な接着剤によって表面の強度を上げるといった工事が必要です。接着剤は、ものとものの間に隠れてしまって見えないのですが、生活のあらゆる場面で、密かに活躍しているということですね。

個別の要望にお応えし、接着剤を開発します!

――これまで様々な業界、企業から求められる接着剤を個別に開発してきたということですか?

中谷リーダー すべてがそうではありませんが、お客様に寄り添った商品開発はとても多いですね。もう少し硬化スピードを速くしてほしいとか、逆に遅くしてほしいとか、様々なご要望をいただいています。粘性を上げてほしいというニーズもありますね。

――なるほど、面白いですね。硬化を速くしてほしいというニーズは理解できますが、硬化を遅くしてほしいというニーズもあるのですね。

中谷リーダー はい、そうなんです。たとえば接着面積がとても大きい場合、接着剤を全体に塗るまでに時間がかかりますから、最初に接着剤を塗った部分が先に固まってしまいます。そうすると、その部分は接着できずに硬化不良が起きてしまいますよね。ですからゆっくりと接着してくれる剤が必要となるわけです。また、天井に水のような液体タイプの接着剤を使用すると垂れてきてしまうので、粘性を上げて下に落ちてこない工夫が必要なんです。

そのほか、気温が高いと接着剤は速く固まりやすいので、夏場のように気温が高い時は速く固まり、逆に気温が低い冬場は遅く固まってしまう、ということでは作業に影響がでるケースもあるでしょう。ですからシーズン毎に固まるスピードが異なる接着剤を必要とする分野もあるんです。またハウスメーカーさんですと、使った時は速く強力に固まってほしいけど、リフォームなどで解体する時もあるので剥がしやすくもしてほしいというニーズもあって、このような細かいご要望にひとつ、ひとつ、お応えしていくわけです。

――近年、ユニークな要望に応えて開発された商品は何かありますか?

中谷リーダー そうですね、「ボンド 裁ほう上手」は面白い商品かと思います。とあるお客様から、最近の家庭にはミシンもないし、手芸が苦手というお母さんが増えているというお話をいただいたことで開発が実現した経緯があります。

「針、糸いらずの布用接着剤」をコンセプトにこれまでミシンを使用していたような場面で使える接着剤です。布を貼り合わせるということに加え、洗濯しても剥がれない、貼った後でも布の風合いを損なわないという部分がポイントです。裁縫の代わりに接着剤を使うということで、生活の中における既成概念を変えた商品ですね。

洋酒がなぜ接着剤に?ダイナミックな事業展開変貌の歴史

――創業が1870年ととても歴史のある企業ですが、合成接着剤「ボンド」の販売開始は1952年です。なぜ、接着剤に着目するようになったのですか?

中谷リーダー 創業の地となった大阪の道修町(どしょうまち)は古くから薬の町として知られ、弊社も薬を扱う事業からスタートしたんです。その後、洋酒は薬の一種と広く認知されていたこともあって、洋酒製造やビール製造も始めるようになります。こうして飲料用のアルコールを製造するようになり、やがて工業用アルコールの製造販売に着手し、戦後あたりまでは化学薬品を広く扱う問屋業が主な事業となっていきました。

そんな中、問屋業のみでは今後発展ができないという危惧から、将来性のある自社製品の開発をめざし、接着剤の研究者がコニシに入社したこともあり、ボンドを作っていこうという流れになっていったんです。当時は、接着剤の将来性に疑問を抱き反対する社員も多かったようですが、戦後の復興などもあって家具や建具、建物の建造などに接着剤が必要とされるようになり、弊社の商品が少しずつ広まっていきました。

――創業から現在まで、変わらず道修町を本拠地としていますが、この地域には強い愛着がありますよね。

中谷リーダー はい、もちろんです。弊社は1870年に創業し、1903年には旧本社が完成しましたが、現在、国の「重要文化財」に指定されているこの旧本社は、薬の町・道修町の象徴として親しまれ、「旧小西家住宅」として広く知られています。いわゆる商家として愛されたこの建物は、会社の発展とともに歩み続け、1994年までは本社として、その後も関係会社の事務所として大切に使用し、2020年のコニシ創業150周年を記念し「旧小西家住宅史料館」としてリニューアルしました。空襲や地震にも耐えながら大切に残してきたこの建物を通じ、地域の方々とつながることができるのは私たちにとっても嬉しいこと。この建物を見ていただく、感じていただくことが弊社にとって最大の地域貢献なのかなと思っています。

もちろんこれからも地域とのつながりを大切にしながら、道修町を代表する企業として成長していきたいと考えています。

アンコールワットの遺跡もコニシが接着!

――2022年4月からスタートする新市場区分ですが、プライム市場の上場企業としてのグローバルな事業展開について教えて下さい。

中谷リーダー 弊社の連結売上高において海外比率は6%程度であり、グローバルな展開はコニシにとって大きな課題です。現状、展開しているのは、中国、ベトナム、インドネシアなどが主だった地域で、東南アジアを中心に事業を拡大しています。今後は土木建設などの分野はもちろん、自動車や電材用などの工業用接着剤を海外で広く展開していこうと模索しているところですね。特に、電気自動車は成長分野でコニシの接着剤が広範囲で使用されることを期待しています。これまで使われていた接着剤にとって代わり、コニシの接着剤を使ってもらえるよう、新たな機能を追加していくことがとても重要です。

――海外での展開といえば、世界遺産として知られるアンコールワットの遺跡保全にもコニシの接着剤が活躍しているそうですね。

中谷リーダー はい、そうなんです。約27年前、アンコールワットの遺跡を修復したいということで関係団体の方から相談を受けたことが始まりでした。砕けた石像をどう違和感がないようなかたちで修復していくかといった課題でしたが、どのような接着剤が最適か、どのようにつなぎ合わせていけば良いのかといったポイントをひとつひとつクリアしていき、現在でもこの遺跡修復に支援させていただいております。建物や石像を接着、修復するということは、歴史や文化を繋ぐということでもあって、コニシとしても高いモチベーションと使命感を感じて行っている取り組みですね。

これからのコニシ。社会を支えるために

――昨今注目が集まるサステナビリティ(持続可能性)の観点から、環境負荷軽減などの取り組みはいかがでしょうか?

中谷リーダー 歴史的に化学薬品を扱ってきたこともあって、環境負荷にまつわる意識は非常に高いという自負があります。逆に、環境負荷への意識が低ければ150年以上も事業を続けるのは難しかったかもしれません。シックハウス症候群の弊害などでも知られるように、ただ接着できればいいということでもなく、使用される人や使用環境を熟慮した上で最適な接着剤を提案することが大切だと考えています。人や環境に対して危険な物質は使わない、という当たり前の意識を私たちは古くから重視しています。

――最後に、これからコニシの事業はどう展開していくのか、その構想を教えてください。

中谷リーダー 現在、化学品や塗料、自動車分野などの化成品事業、社会インフラを支える土木建設工事事業、そしてボンド事業と、3つの柱で展開している弊社ですが、これからは4本目の柱を模索し、これを軌道に乗せるということが直近の課題だと考えています。

まだ具体的にはご説明しづらいですが、これまでの接着剤開発の知見を活かしながらも、接着剤だけには囚われない商品の開発です。基礎研究も含めて新事業開発につながるよう、研究開発本部に材料科学研究所というセクションも設置しました。こうした研究拠点を中心に、5年先、10年先を見据えて、新しい素材づくり、新事業開発につながる研究を推進しています。他社ができないこと、考えもしないようなことにチャレンジして、広く社会に貢献できればと強く思いますね。

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