東証市場再編

全国上場会社の旅

【長崎県】皆が好きなちゃんぽん店は、社員満足度も高水準。全員参加型の経営で、柔軟に大胆に変革を続ける

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年2月4日に掲載した記事の再掲載です。

株式会社リンガーハット
代表取締役社長兼CEO 佐々野諸延

皆が好きなちゃんぽん店は、社員満足度も高水準。
全員参加型の経営で、柔軟に大胆に変革を続ける
―長崎県― 株式会社リンガーハット

今年、創業60周年を迎えるリンガーハット。1962年に長崎でとんかつ屋としてスタートし、「長崎ちゃんぽん」を主力商品に加えると、破竹の勢いで全国区にその名を押し上げていきました。長きにわたりトップブランドを維持してきた経営の根幹は何なのか。株式会社リンガーハット代表取締役社長兼CEOの佐々野諸延さんに伺いました。

とんかつ屋からちゃんぽんのチェーン展開へ

――とんかつ屋さんからの創業とは知りませんでした。

佐々野社長 リンガーハットの創業者米濵豪とその兄弟(現 名誉会長米濵和英を含む)はもともと鳥取出身ですが、商売をするため長崎の地に根を張り、とんかつ屋を始めたのが1962年、これが弊社の創業になります。

――どういう経緯でちゃんぽんのチェーン展開を始められたのですか。

佐々野社長 外食チェーンという考え方が日本に入ってきた頃、札幌ラーメン屋さんが長崎に出店しました。最初は物珍しさからお客さんが入っていたのですが、九州はとんこつ味なので、札幌ラーメンの味が合わず早々に撤退されました。その時、「長崎はやはりちゃんぽんだ」と目をつけ、1974年に第1号店を長崎に出店し、そこから九州一円にチェーン展開するようになったのです。

――全国展開はいつ頃からですか。

佐々野社長 1979年に 埼玉県与野市に出店しました。私が入社した1983年には、東京都内で20店舗もありませんでした。関東でちゃんぽんの味が認知されるようになったのは、1990年代に入って200店舗を超えたあたりからです。

その後、各地で店舗展開を進め、今では全国で事業を営んでいる当社ですが、当社を育ててくれた長崎には常に恩返しをしたいと思っています。五島列島のクエや対馬のアナゴ、県内産の野菜を通信販売したり、長崎発祥の卓袱(しっぽく)料理のお店を展開したりと、長崎の食文化を楽しんでいただけるような取り組みを行っています。

ピンチも創意工夫でチャンスに変える

――2005年には500店舗を達成していますが、リーマンショックで飲食業は大打撃を受けました。このときロードサイド店を閉めて、ショッピングセンターに大量出店する大胆な転換を行いました。なぜそれが可能だったのでしょうか。

佐々野社長 もともと私たちの調理は、中華鍋を使ってコックさんが数人分をまとめて作っていました。しかし、この方法では1人前を作るのに早くても6分くらいかかります。味にばらつきも出るし、コックさんが重い中華鍋を振り続けるので、腱鞘炎になってしまうという問題もありました。

これを解決するため、IHヒーターを使って小鍋で1人前ずつ煮込む調理法を考えました。自動の鍋送り機を独自に開発して、調理のプロセスの無駄を徹底的に省いて最短2分でちゃんぽんが作れるニュー・オペレーション・システムを組み上げたのです。

このシステムの完成で、短時間でたくさんの注文がこなせるようになり、席数の多いショッピングセンターのフードコートへの出店が可能になりました。売上規模に合わせて機材も導入できますから、多店舗展開も容易になり、売上もロードサイド店に比べて倍増しました。

――調理のオペレーションを完全に変えてリーマンショックを乗り切ったのですね。

佐々野社長 それでもリーマンショック後は、デフレによる低価格競争もあり、創業以来の多額の負債を負っていました。そのようなピンチの中でも、どうしたらお客様に喜んでいただけるかを考えて行ったのが野菜の国産化です。

「日本の野菜を食べるプロジェクト」を立ち上げて、2009年にはグループ全店舗で野菜国産化100%を達成しました。工場の設備など10億円の費用がかかりましたが、健康意識が高い女性の支持を得て翌年の業績はV字回復したのです。”野菜が美味しい”というブランドを作るきっかけにもなった大きな変革でした。

――様々な工夫で危機を乗り越えていらっしゃいますが、昨今のコロナ禍においてはどのような対応を取られていますか。

佐々野社長 フードコートの座席数が半分程度となってしまい、今もお客様はコロナ前に比べて6割から7割程度しか戻ってきていません。一方で、ロードサイド店がテイクアウト需要の高まりで好調になり、売上が2019年度比で100%を超えている店舗もでてきました。

そこでテイクアウト専用に伸びにくい麺や保温性が高い容器を開発し、モバイルオーダーも利用できるようにして家庭で楽しんでいただける工夫をしています。ご自宅で手軽に楽しめるように、ワンコインで買える商品も発売しているところです。

また冷凍食品も好調で、コロナ禍の中で売上が40%ほど伸びています。もともとリンガーフーズという子会社があって、自社工場で製造した冷凍食品を中心に外販を行ってきたことが功を奏しました。冷凍食品事業は今後さらに拡大していきます。

――海外にも店舗を持っているとお聞きしました。

佐々野社長 ハワイ、タイ、カンボジアで直営店舗を展開しています。国によって食文化は異なりますので、現地では何が売れているのかをしっかりと把握したうえで、メニューのアレンジを行っています。日本は少子高齢化が進んでいますから、コロナ禍が落ち着けば、海外展開、特にアジアへの進出も積極的に行っていきたいと思っています。

――2021年8月に「モグベジ食堂」という新しいコンセプトも発表されましたね。

佐々野社長 リンガーハット・ブランドをもう1段、高めるためのリ・ブランディングです。リサーチをしたところ、やはりリンガーハットは野菜のイメージが非常に強い。そこで、もっと野菜を取り入れたメニュー作りを行い、野菜をもぐもぐ美味しく食べられる「モグベジ食堂」というコンセプトを考えました。

当社は、70以上の農家と個別に契約を結ぶことで野菜を調達しており、市場価格が大きく変動する中でも安定した購買が可能となっています。中には40年近く契約している農家もあり、安心感にもつながっています。

これからはちゃんぽんの枠を超えた野菜中心のメニュー開発を行って、野菜の健康と美味しさを訴求していきます。10年かけて、既存のリンガーハット・ブランドをモグベジ食堂・ブランドに変えていくくらいのブランド刷新を視野に入れています。

リンガーハット式アメーバ経営の実践

――開発力や変革力がとても強いと感じます。その強さの源はどこにあるのでしょうか。

佐々野社長 私たちは全員参加型の経営と、経営者意識を持つ人材を育成するために、京セラの稲盛名誉会長が提唱されているアメーバ経営を導入しています。そしてアメーバ経営をきちっとワークさせるためには企業理念がしっかりしていないといけませんから、米濵会長が大事にしてきた理念をとりまとめて、リンガーハットフィロソフィーを制定しました。

これを社員に浸透させるために、全社員が必ず毎日、フィロソフィーのひとつを読み上げて、それについてどう感じているのかを話しています。全社員を対象にしたフィロソフィーセミナーも開催して、そこでも参加者全員で語り合うようにしています。

――フィロソフィーには『心を高める』や『正しい判断をする』などいくつかありますが、佐々野社長がひとつ選ぶとしたら、どれを取り上げますか。

佐々野社長 私が常に心に留めているのは、『損得より善悪を優先する』です。自分の利益優先で物事を判断すると、隠蔽や偽装に手を出しかねません。そうならないよう、損得ではなく善悪で判断することを心がけていますし、その話をよくしています。

――自分の頭で考え、自分の言葉で語るのが参加型の第一歩ですね。

佐々野社長 今、力を入れているのは「月例会」で、毎月1回、本社、工場、各店舗において、社員だけでなくパートタイマーやアルバイトの人たちも全員が集まって、お客様のために自分たちは何ができるのかを考えてもらうようにしています。

月例会は店長主導ではなく、パートタイマーやアルバイトの方たちが中心になって、お客様においしいものを提供するためのチーム、良いサービスを提供するためのチーム、お店をきれいにするためのチームというように分かれて、今月は何をするかとテーマを決めて自発的に取り組んでいるんですよ。

――ひとりひとりの社員が主役という、まさにアメーバ経営ですね。

佐々野社長 先日、社員満足度を測定したところ88%という結果が出ました。私はまだまだだと思っていましたが、外食産業ではかなり高いと驚かれました。でも私は90%にしたいと思っています。

――88%は非常に高いですね。なぜ、それが実現できているのでしょうか。

佐々野社長 会長、社長、上の役職のものが威張らないからではないでしょうか。役員だから偉いという雰囲気はゼロで、とてもフラットな社風です。パートタイマーの方も、私と自由に話しますよ。目的はお客様に喜んでいただくことですから、同じ目線で目的に向かうことが、社員満足度の高さにつながっているのではないかと思います。

AI導入で思考の時間を増やす

――「おいしく健康的な食を提供する」という経営理念は、これからどう実践されていきますか。

佐々野社長 循環型社会を目指す上で、外食産業の果たす役割は非常に大きいと思っています。私たちは日本の農業とともに歩むことを考えていますし、フードロスをなくすため、生産ラインやシステムの見直し、野菜くずの肥料化などに取り組んでいます。

リサイクル率を2024年には50%にするという目標を掲げていましたが、ここ7、8年、弊社のリサイクル率はすでに60%を超えていて、2020年は64.8%まで上昇しています。そのほか、野菜栽培時の農薬を減らすための取り組みや、CO2削減に向けた取り組みも行っているところです。

あと子供たちに食の大切さや安全を伝えるために食育活動も行なっています。コロナ前は子供たちにお店まで来てもらい、厨房で調理して食べてもらう活動をしていましたが、今は子供たちの家に冷凍食品を送り、自宅のキッチンで作ってもらってその様子をリモートでつないで感想を話し合うということを行っています。

――ステイホームなど新しい生活様式が定着しつつありますが、今後の成長戦略をお聞かせください。

佐々野社長 ひとつは事業の多角化です。自粛生活で、冷凍食品などの外販事業が大きく伸びていますから、この需要に応えるために、生産ラインの増強、注文処理システムの改善を急ピッチで行っています。今、売上規模で20億円くらいですが、3年後に50億円まで増やす方針です。

もうひとつは経営効率で、シリコンバレーのベンチャーと売上予測のAIを開発中です。これができれば、売上予測の精度が上がり、材料の自動発注システムが機能するようになります。作業スケジュールの作成も自動でできますから飛躍的に効率が上がります。AIのレベルを上げるのは、人間の思考する時間をもっと増やしたいからなんですよ。

私たちは米濵会長に「10年後に生き残ることを考えろ」と常に言われてきました。経営陣は年に2回合宿して、10年後を考えるということをずっとやってきています。この問題意識の高さが我々の変革力の源であると、私は思っています。

 

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