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【佐賀県】「手当ての文化」を世界に広めたい――グローバル化を進める久光製薬の挑戦

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年3月4日に掲載した記事の再掲載です。

久光製薬株式会社
常務取締役執行役員 髙尾信一郎

「手当ての文化」を世界に広めたい
グローバル化を進める久光製薬の挑戦
―佐賀県― 久光製薬株式会社

1847年に佐賀県で創業。「世界の人々のQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)向上を目指す」という経営理念を掲げ、「サロンパス®」をはじめとする主力商品を生み出し続けてきた久光製薬株式会社。近年では欧米、アジアなどへのグローバル展開を積極的に進めており、新たな事業にも注目が集まっています。常務取締役執行役員の髙尾信一郎さんに、企業のこれまでの歴史や現在注力している分野、今後の展開などについて伺いました。

江戸時代、“田代売薬”で知られた創業の地

――江戸時代、弘化4(1847)年に佐賀県田代で創業されました。医薬品メーカーとして、非常に長い歴史をお持ちですね。

高尾常務 当社の創業地である佐賀県田代は、かつては九州の交通の要所であり、長崎街道の起点でした。当時の長崎は蘭学が盛んで、宿場町である田代には西洋の薬が入りやすかったため、家庭に薬を運ぶ配置売薬(ばいやく)業が盛んになりました。当社の前身である「小松屋」も、江戸後期に売薬業を始め、田代にやってくる行商人に薬を販売したという歴史的な経緯があります。

地方の小さな一企業から「全国ブランドの久光製薬」となったのは、長い歴史の中で佐賀県鳥栖市をはじめとする各市のご協力を得てきたからこそ。地元に恩返しをしたいという思いから、当社は様々な地域交流に努めてきました。

田代売薬の歴史を紹介する「中冨記念くすり博物館」の設立や、地元関係者や茶道愛好家の方々をお迎えし伝統文化に触れることができる「お茶会」、様々な著名人を講師として招く「久光製薬鳥栖市民講座®」などを開催するほか、佐賀を本拠地とする女子バレーボールチーム「久光スプリングス®」も運営しています。

企業努力で改良を重ねた大ヒット商品「サロンパス®

――創業以来、主力商品である「サロンパス®」をはじめ、様々なヒット商品を生み出してきました。

高尾常務 1907年に、ごま油に鉛丹(えんたん)を混ぜ合わせて和紙に伸ばした「朝日万金膏®(まんきんこう)」という、当社初の貼付(ちょうふ)剤を発売しました。水仕事でしもやけやあかぎれに悩む多くの方々に愛用されていましたが、「皮膚に黒い跡が残るので改良してほしい」「匂いが気になる」「貼るのに手間がかかる」といった声も多くありました。

こうした欠点を解消するべく開発に尽力し、1934年に製品化したのが「サロンパス®」です。跡も残らず、そのまま体のいろいろな部位に貼ることができるサロンパス®は、おかげさまで今に続くロングセラー商品になりました。

サロンパス®を使用する方のQOLを改善するために、痛みを抑えるための工夫や皮膚への負担軽減など、現在に至るまで様々な改善を重ねてきました。その過程では、大きな失敗も経験しています。「はがす時に痛い」という問題を改善するために開発した商品が、発売後「はがれやすい」と返品を余儀なくされました。この失敗を深く反省してさらに改善を続け、現在のサロンパス®は、粘着力がありながらも、はがしてもほとんど痛みがないものになっています。

――サロンパス®には競合商品も多く存在しますが、どう差別化されてきたのでしょうか。

高尾常務 「お客様に喜ばれる良い商品を作りたい」という思いで企業努力を重ねてきたことに尽きます。「貼っていることに気付かれたくない」との声を元に、目立たない薄い肌色や、香りを抑えた商品を開発しました。

また、サロンパス®の角は丸みをもたせた“丸かど®”で、衣服などでこすれてもはがれにくい形状になっています。また、「エコ&コンパクト」パッケージにすることで、紙の使用量削減に取り組んでいます。こうした改良を重ねることで基本コストは高くなっていますが、その分質を高め、差別化につながっていると思います。また、当社は研究開発・製造・販売が密に連携しているため、お客様のご要望に対して素早い判断や対応が可能になっています。

症状や副作用を軽減する、貼付剤の新たな可能性

――現在、特に力を入れている分野や注視している事業はありますか。

高尾常務 近年はESGへの取り組みの一環として、環境に配慮した商品開発や改良に取り組んでいます。例えば「のびのび®サロンシップ®フィット®10枚入」は、当社従来商品に比べて包材使用料を24%カットし、地球にやさしい「エコ&コンパクト」パッケージを実現しました。他にも商品の軽量化による使用後の廃棄物削減や、容器の改良によるプラスチック使用量削減などに努めています。

貼ることで皮膚から薬を送りこむ経皮薬物送達システム(TDDS/Transdermal Drug Delivery System)を用いた商品開発にも注力しています。TDDSは、適切な血中濃度を長時間維持できるだけでなく、経口薬の摂取が難しい子どもや高齢者などの患者さんにも簡便に投与でき、経口薬と比べて消化管などへの副作用を抑えられるメリットがあります。

TDDSで皮膚から薬を投与する場合、皮膚バリアー機能により薬物の分子量が大きいほど吸収が困難とされてきました。しかし「マイクロニードル」という非常に小さな複数の針がついた貼付剤を皮膚に貼ると、針が物理的に皮膚バリアーを破ることで分子量の大きい薬物でも吸収できるようになります。このマイクロニードル技術を駆使すれば、これまで注射として使われていた薬剤を貼付剤で投与することも可能になるため、商品化を目指して研究開発を進めているところです。

――貼付剤は、今後ますます用途が広がりそうですね。

高尾常務 はい。例えば当社が発売している経皮吸収型のパーキンソン病治療剤は、安定して皮膚から薬物が血中に入っていくため、手のふるえの症状などが安定化することが期待されます。今後は例えば「1週間に1度貼るだけ」といった貼付剤の開発で、患者さんのさらなるQOL向上に貢献できればと考えています。

国際競争力強化で、海外売上高比率50%以上を目指す

――近年では、グローバルな事業展開に力を入れておられます。

高尾常務 昨年策定した5カ年の第7期中期経営方針では、サロンパス®の海外展開強化などを通じて海外売上高比率を50%以上に高めることを目標にしています。新型コロナウイルス感染症拡大を機にインバウンド需要が大幅に減少しており、急激な外部環境の変化をカバーするためにも海外展開が重要だと考えています。

現在40カ国近くに当社の商品を輸出しており、ベトナムやインドネシア、ブラジルに製造工場を置いて安定した供給体制を構築しています。特にマーケットが大きいアメリカでは、サロンパス®の売上が日本を上回っていますが、サロンパス®の認知度はまだ50%程度。アメリカでは貼付剤よりも経口薬が根付いていますが、貼付剤ならではの胃腸への副作用軽減や、塗り薬のように手や服につかないことなどをアピールすれば、まだまだ伸びる余地があると考えています。スポーツイベントなどでのサンプリングの配布を通じて、さらなる啓発と認知度向上に努めていきます。

当社はアメリカにも研究開発の拠点(Noven Pharmaceuticals, Inc.)を設けています。現在は注意欠如・多動症(ADHD)の貼付剤を申請していますが、これはADHDの診断が多いアメリカだからこそ開発できた商品であり、経口薬の摂取が難しいADHDの子どもにも大いに役立つと考えています。現地のマーケットだからこそ開発できる貼付剤にも注力していければと思います。

――中期経営方針では『「手当て」の文化を、世界へ。』を使命に掲げられました。

高尾常務 子どもの頃、例えばおなかが痛くなった時に「大丈夫だよ」と母親にさすってもらった経験がある方も多いと思います。3世代同居が当たり前だった昔の日本では、おじいちゃんやおばあちゃんにお孫さんがサロンパス®を貼ってあげるという光景もよくありました。

当社は思いやりといたわりの「手当て」の文化を、世界中の人々に伝えるべく事業を積極的に展開していきます。これまでのような痛みのケアにとどまらず、どんな商品を提供すればもっと喜んでいただけるのか、より広い視野で考えてお客様のQOL向上を目指したいと思います。

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