東証市場再編

全国上場会社の旅

【静岡県】音・音楽を原点に培った技術と感性で音楽文化を世界に広げる

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年1月21日に掲載した記事の再掲載です。

ヤマハ株式会社
取締役 常務執行役 山畑聡

音・音楽を原点に培った技術と感性で
音楽文化を世界に広げる
―静岡県― ヤマハ株式会社

明治時代に静岡県浜松市で創業したヤマハ株式会社は、135年を経て、世界32の国・地域に49拠点を持つグローバル企業に成長しました。現在では、ピアノやギターなどの楽器の製造・販売、音楽教室の運営など、私たちが身近に知る事業のほかに、オーディオ、半導体、デジタルコミュニケーションツールなど多岐にわたる製品・サービスを展開しています。そうした事業内容の根底に流れるものは何なのか、そして長い歴史の中で培った技術を用いて、どのような未来を描いているのかを、取締役 常務執行役の山畑聡さんに伺いました。

多彩な事業の底流にあるのは「良い音で音楽を楽しむ」こと

――1887年、明治20年にご創業とのことですが、その経緯を教えて下さい。

山畑常務 創業者は山葉寅楠(やまはとらくす)という人物で、江戸時代末期に紀州徳川藩士で天文係をしていた父のもとに生まれました。父は天文暦数だけでなく土地測量、土木工事設計にも造詣が深かったようで、その仕事を見て育った寅楠は測量機器などに興味を持つようになったそうです。

寅楠は仕事を求めて大阪に出たそうですが、その時、時計に興味を持ち、長崎で時計の製造技術や修繕法を学んで、再び大阪に戻り、医療器具店の修理工として働きました。

そのような日々を送っていた寅楠に転機が訪れたのは、浜松の病院から依頼されて医療機器の修理にあたっていた時です。1887年に浜松尋常小学校に置いてあったアメリカ製オルガンの修理を頼まれた寅楠は、修理をしながら構造を学び、翌年にはオリジナルのオルガンを作ってしまったそうです。

――なぜオリジナルのオルガンを作ろうと思ったのでしょうか。

山畑常務 当時、日本の音楽教育はまだ黎明期で、これからオルガンが日本全国の学校に導入されると考えたようです。寅楠が修理したオルガンは米国製で、当時の価格は45円。修理をした寅楠はその構造を見て、自分なら3円で作れると言ったそうです。オルガンを安く作って普及させれば、国民に音楽教育が広まり、優秀な音楽人材が生まれるかも知れない。それは国益でもあるし、ひいては自分たちの商売にもつながると思ったようです。寅楠は1889年にオルガン製造を行う「合資会社 山葉風琴製造所」を設立し、総合楽器メーカーである今日のヤマハの礎を築きました。

――総合楽器メーカーであるのと同時に、音響機器や半導体製造など幅広い事業ポートフォリオを持っています。それらの事業領域を結びつける核は何でしょうか。

山畑常務 良い音で音楽を楽しんでいただくことです。良い材質とクラフトマンシップで作り出されるアコースティック系の楽器だけでなく、エレクトーンや電子ピアノなどの電子楽器も同じです。

なぜ私たちが半導体を製造しているのかというと、少しでも良い音を出せる半導体が必要だったからです。当時は外部調達が困難だったため、自社製造に踏み切りました。以前は自社工場生産だったのですが、今は外販が中心で、かつ、ファブレス化(自社で工場を持たず、他社に生産の委託を行うこと)をして、設計・開発を中心に行っています。

また音楽を楽しむという意味では、楽器演奏だけでなく音楽を聴くことも含まれますから、家庭用オーディオやコンサートホールなどの音響機器も手掛けていますし、車載用ブランドオーディオにも力を入れています。すでに中国の自動車メーカー複数社から受注しており、これからの成長分野として期待しています。

それと情報通信関連事業ですが、今申し上げたようなデジタル技術やネットワーク技術があるので、それらを活用してルーターや遠隔地会議システムを開発しています。総合楽器メーカーなのに、なぜ半導体や情報通信関連事業を手掛けているのか、と思われるかも知れませんが、その底流は同じなのです。

音楽の普及活動を通じて海外展開を強化

――ヤマハの楽器はアコースティック技術とデジタル技術の両面で高い評価を得ています。それらの技術を活用した商品、サービスがたくさんありますね。

星野さん ユニークな商品としては、弦が響くアコースティックピアノ本来の音の自動演奏が楽しめる『ディスクラビア』や、アコースティックピアノに消音機能を加えた『サイレントピアノ』、初心者でもリコーダーに似たやさしい指使いでサクソフォンのような音を奏でることができるカジュアル管楽器の『ヴェノーヴァ』などがあります。

また、デジタルと音の技術の融合によって、遠隔会議用システムの他、バンドメンバーが皆、異なる場所に居ても一緒に楽器演奏ができる『シンクルーム』や、スマホアプリのボタンをタップするだけで、離れた場所からでもスポーツの試合会場に声援を届けられる『リモートチアラー』なども開発しています。

2021年4月には、うたロボ『チャーリー』を発売しました。これは弊社のボーカロイド技術と自動作曲技術などを活用し、ユーザーが話しかけるとメロディに乗せてチャーリーが返答してくれるもので、働く女性がメインターゲットです。

山畑常務 企業の使命は社会課題の解決にあります。創業者である山葉寅楠は、近代日本にようやく芽生え始めた音楽教育を広めるという課題を解決するためにオルガンを製造し、さらに国産ピアノの製造も手掛けてきました。

遠隔会議用システムや『シンクルーム』『リモートチアラー』などのデジタルコミュニケーションツールは、コロナ禍で失われかけた人々のコミュニケーションを維持するという社会的課題の解決に寄与できたと考えています。

『ディスクラビア』
『リモートチアラー』
『ヴェノーヴァ』
『シンクルーム』
『チャーリー』

――ヤマハブランドは日本だけでなく海外にも浸透しています。海外展開の戦略については、どのように考えていますか。

山畑常務 私どもの収益の大半は海外市場からもたらされています。楽器や音響機器などハード関連の地域別売上収益では83%が海外からのものであり、日本の占める比率は17%です。かつては日本、北米、欧州、中国・その他という4つのセグメントでそれぞれ4分の1ずつという比率でしたが、日本の売上が低下する一方、中国・その他の新興国の売上が伸びています。

たとえば、アコースティックピアノは中国がメインマーケットです。1980年代に日本国内でピアノが大変よく売れたのですが、それと同じ現象が今の中国で起きています。また電子ピアノや管楽器、ギターのマーケットもできつつあり、これからしばらくは中国の売上が大きく伸びるでしょう。

中国以外の新興国ではインドやアセアン諸国が有望市場です。国民1人あたりの所得が伸び、生活にゆとりが生まれることで、音楽に対する関心が高まりつつあります。また日本、欧米は成熟市場であり、安定成長に期待しています。

――32の国・地域、49拠点。まさにグローバル企業ですが、海外展開で重視していることは何ですか。

山畑常務 その国に深く入り込むことですね。たとえばヤマハ音楽教室は、日本国内だけでなく海外にも展開しており、45の国・地域で音楽の普及活動を行っています。

そのうえで、特に新興国については地元の音楽を尊重した製品作りを心がけています。同じ新興国でも、中国には西洋音楽が広く普及しているのですが、インドや中東は伝統音楽の人気が根強いのです。そのため、たとえばインドであればシタールという楽器の音源を搭載したポータブルキーボードを開発するなど、伝統音楽に貢献する製品作りを心掛けています。

成長のカギは「技術×感性」

――これからの成長戦略について教えてください。

山畑常務 これからの世の中は、デジタル技術の進歩によって世の中が大きく変わり、物質的な豊かさだけでなく、精神的な満足や本質が求められる時代になるでしょう。それは、音という感性に深く関わる部分と、それを支える技術を進化させてきた私たちにとって、大きなチャンスと捉えています。

売上成長に関しては、経済成長のポテンシャルが高い新興国により深くコミットしていきますし、たとえば楽器においてはギターのように、世界的に巨大なマーケットがあるなかで、弊社のシェアが低い分野についても積極的に開拓していきます。

また私たちは、総合楽器メーカーとして世界的に高いシェアを持っているので、プライスリーダーとして製品価格の適正化に取り組み、利益率を改善して次の成長へとつなげたいと考えています。

――昨今、国内外で企業や社会のサステナビリティが注目されていますが、御社は2010年にすでに「ヤマハグループサステナビリティ方針」を定めています。

山畑常務 企業理念として「私たちは、音・音楽を原点に培った技術と感性で、新たな感動と豊かな文化を世界の人々とともに創りつづけます」を掲げています。具体的な活動としては、音楽文化のサステナビリティに貢献するため、世界中で音楽教室事業を展開し、音楽の楽しさを広く普及させたり、新興国の学校教育に器楽教育を普及させたりする活動を行っています。

また、楽器メーカーとして環境への配慮も行っています。アコースティック楽器には木材が使用されますが、違法材の使用を回避するための精査を行うのとともに、希少材の保全活動なども行っています。こうしたサステナビリティ活動は、社会貢献になるのはもちろんですが、長いスパンで考えると、私たちのビジネスにもプラスの影響をもたらしてくれます。

――創業時以来、本社を置く静岡県浜松市にヤマハのミュージアムがあるそうですね。

山畑常務 2018年に浜松本社地区に「イノベーションセンター」という研究開発拠点を設立しました。その建物の1階部分に「イノベーションロード」という企業ミュージアムを設けています。

この施設では、これまでヤマハが製造してきた楽器、オーディオ製品などを展示しています。高級グランドピアノやギターなどの試奏もできますし、新技術や先進技術の体験もしていただけます。こうした施設を通じてヤマハだけでなく、ヤマハという会社を生み出した浜松を、より多くの人に知っていただけると嬉しいです。

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