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【長野県】エリンギ、マイタケ、ブナシメジ・・・日本に、世界に、おいしく健康なきのこ文化を届ける「きのこ総合企業」

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※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年3月10日に掲載した記事の再掲載です。

ホクト株式会社
代表取締役社長 水野雅義

エリンギ、マイタケ、ブナシメジ・・・
日本に、世界に、おいしく健康なきのこ文化を届ける「きのこ総合企業」
―長野県― ホクト株式会社

「おいし~いきのこはホ・ク・ト♪」という歌に合わせて可愛らしいきのこたちが踊るテレビCMがはじまったのは2002年のこと。これによって、長野県できのこを製造・販売するホクト株式会社は全国のお茶の間に周知されるようになりました。祖業は包装資材の販売であったホクトが、きのこ栽培に取り組み始めるようになった経緯、そしておいしいきのこの開発を進め、今や海外市場に挑戦するようになった成長の軌跡を代表取締役社長の水野雅義さんに伺いました。

きのこが主役のおいしいレシピを提案

――CMでエリンギ、マイタケ、ブナシメジが刷り込まれていますが、やはり人気があるのですか。

水野社長 当社の主力商品は、その3種類です。一番生産量が多いのはブナシメジで2020年度の国内シェアは33.6%、普通のブナシメジの傘は薄コゲ茶色ですが、当社オリジナルの真っ白な「ブナピー」も含みます。国内シェアが一番高いのはエリンギで47.3%、マイタケは24.8%です。

きのこを使った加工品事業もしており、2013年に子会社化した株式会社アーデンでレトルト食品などを製造しています。大きくカットしたきのこがゴロゴロ入った「ホクトのエリンギ まるごと使った菌活・贅沢カレー」、シリーズでマイタケもあり人気です。自社のオンラインショップで販売していますが、昨年10月に発売した「信州産 まいたけポタージュ~豆乳仕立て~」もおすすめです。今後は、加工食品のラインアップを更に充実させていく予定です。

――きのこは低カロリーのイメージがありますが、ズバリ、魅力を教えてください。

水野社長 低カロリーで噛む回数を増やすとされる食物繊維が豊富ですから、ダイエットにぴったりの健康食材です。コロナ禍で、みなさんが「免疫」に注目するようになりましたが、きのこにも含まれているβグルカンという食物繊維の一種が免疫維持に役立つという研究論文も発表されています。

きのこは、“菌そのもの”だけを食べることができる唯一の食材です。豊富な食物繊維が腸内の老廃物の排出を助け、腸内細菌のエサとなって腸を整えるのに役立ちます。腸には免疫細胞の約7割が存在するといわれているんですよ。わたしたちは「きのこで菌活」による健康作りを推奨していますが、きのこを毎日食べて健康管理をしていただきたいですね。

――御社のホームページ「きのこらぼ」には、いろいろなレシピが紹介されていますね。

水野社長 以前は「きのこ=鍋」という印象で、実際、秋冬の売り上げに比べると、春夏は大幅に落ち込むので、どうやって食べてもらうかを真剣に考えていました。有名レストランのシェフや料理研究家の方々にご協力いただき、きのこを使った料理を教えていただいています。個人的には一献傾けながら、エリンギを網焼きして、醤油を垂らして食べるのが好きですね。家族の中でお酒を嗜むのは私だけなので、なかなかそういう機会がないのですけど(笑)。

運に導かれ、きのこの研究開発・生産へ

――創業時は食品包装資材の販売をされていたのですね。

水野社長 創業した頃は今のようなプラスチック製品はなくて、紙袋や経木(きょうぎ)などの包装資材を扱っていました。経木はスギやヒノキを紙のように薄く加工したもので、当時はそれを包装材として肉を包んだり、家庭ではおにぎりを包んだりしていたんですよ。

ターニングポイントは、1964年の新潟地震でした。長野県は元々きのこの栽培農家さんが多いのですが、地震で栽培用のガラス瓶がたくさん割れてしまい、「割れないきのこの瓶ができないか」と当時社長だった私の父に相談があったのだそうです。それで、ポリプロピレンの栽培容器を開発し、製造販売するようになったのが、当社ときのことの出会いです。

――そこから、きのこの研究開発・生産をされるようになったのはどうしてでしょうか。

水野社長 それが農家さんに評価されて、きのこ栽培用資材のトップメーカーになりました。しかし、ポリプロピレンの栽培容器はなかなか壊れませんので、継続的に売上が立つわけではないのです。どうしたらこの容器の売り上げを伸ばせるのかと考えた結果、栽培農家さんの生産量増加の手助けをしようということになりました。それで、1983年にバイオテクノロジーを駆使した新品種の開発、新しい栽培素材・栽培技術の開発をする「きのこ総合研究所」を設立しました。

そして、3年後に「白いエノキタケ」の開発に成功しました。エノキタケといえば、当時は天然の茶褐色が普通でしたから、これは画期的でした。この新開発の菌を栽培農家さんに販売して、それを研究開発費にまわしていくというのが事業モデルでした。

ところが、ある農家さんが「この白いエノキタケは、うちで偶発的にできたものだ」と主張しはじめたんですね。最後は裁判にまでなったのですが、当時はDNA鑑定がありませんでしたので敗訴してしまいました。そうなると、「今後、新しい菌を開発しても同じようなことが起こるかもしれない」という声が上がるようになりました。栽培農家さんの高齢化や後継者問題もありましたので、「きのこ栽培のノウハウもあるし、自分たちでつくってしまおう」と、きのこ栽培に着手したのが1989年でした。

その後、きのこ栽培を軸に全国的に事業展開をして、結果的にここまで会社を成長させることができたのですから、運不運というのはわからないものですね。

生産工場「きのこセンター」を全国、そして海外に展開

――きのこセンターが国内に34箇所ありますが、初めて県外に開設されたのは福岡なんですね。

水野社長 きのこ生産工場を「きのこセンター」と呼んでいますが、最初から最後まで清潔な屋内で栽培するので、温度や湿度の管理、衛生管理がしやすく、寒い北海道でも暑いマレーシアでも、どんな気候の場所でも高品質で安全なきのこが生産できます。もちろん農薬も一切使用していません。

大規模な生産工場をつくる計画が持ち上がったとき、地元の農家さんとの一件がありましたから、長野から離れたところにつくったほうがいいということになりました。全国規模で販売するにしても、消費地に近いところに工場をつくったほうが、輸送コストなどを考えると効率がいいわけです。県内や近県に小さな工場をつくりつつも、大規模工場を1989年に福岡県、1995年に北海道、1997年に香川県に開設しました。

現在は長野県内に多くの工場がありますが、これは、きのこは「長野県産」だというイメージが強いからです。特に東京の取引先さんからは、近くの工場から出荷すると「どうして長野県産じゃないの?」と言われるので、そこはやはり要望に応えようということです。

――きのこ総合研究所の役割を教えてください。

水野社長 研究所では、新しいきのこの開発とともに、既存のきのこの品種改良を行っています。目指すきのこは、「食べておいしい」と「見た目がよい」ということですが、さらに「ある程度の収量がとれる」というのも重要です。研究所で開発された新品種は、研究所内で繰り返し栽培特性を評価する試験を行い、さらに全国にあるきのこセンターで安定的に生産できるかどうかチェックしたうえで本格導入されます。このように、商品化まではいくつものハードルがあります。

近年注目を集めている成分に「エルゴチオネイン」がありますが、これは主にきのこなどの菌類が生成できる成分で、肌老化の予防、認知症予防などが期待されています。当社が開発した「霜降りひらたけ」にも多く含まれています。こうした健康機能性も含め、きのこに関する総合的な研究開発に取り組んでいます。

――現在、アメリカ、台湾、マレーシアにも生産工場がありますね。

水野社長 国内の人口減で消費量が減っていくことを見越して、2006年にカリフォルニアに進出しました。食文化の異なる国に進出したので苦労もありましたが、アジア系の食品スーパーに卸したり、非アジア系の飲食店で使ってもらえるように営業したりして、外食から徐々にきのこに親しんでいただけるようになりました。

台湾の工場は2011年に開設しました。東京の仲卸の方に「ブナピーを台湾で売ってみたい」と言われて出荷してみたところ評判が良かったので、それなら新鮮なきのこを食べていただこうと現地で生産しようということになりました。台湾がうまくいったので、食文化的にアジア圏のほうが受け入れてもらいやすいのだろうと、マレーシアにも進出しました。マレーシアの生産工場から、シンガポール、インドネシア、タイ、ベトナムにも出荷をしています。

サステナビリティに取り組みつつ世界へ

――地域貢献やサステナビリティ活動にも積極的に取り組んでいらっしゃると伺いました。

水野社長 きのこの生産拠点のある地域に対して貢献をしていきたいと考えています。子どもたちの食育という意味で工場見学、地域の活性化や人材育成の取り組みとして、長野県内のサッカー、野球、バスケットボール、ゴルフ、バドミントンなど、スポーツチームや選手のスポンサーもしています。長野県民文化会館のネーミングライツを取得して、「ホクト文化ホール」とするなど、文化芸術方面での地域社会への貢献も行っています。

生産工場では太陽光発電をはじめており、今後はそれを増やしていく予定です。また、きのこの培地はトウモロコシの芯を粉砕したコーンコブミールや米ぬか、ふすまなど植物由来の原料を使用しているのですが、使用済み培地を果樹や野菜、家庭菜園等の肥料として使ってもらっています。作物の成育にもよいと嬉しい反応があるので、広く展開していきたいと考えています。

――きのこは環境にもやさしい食材なんですね。最後に、今後のビジョンを教えてください。

水野社長 きのこの研究開発、生産、販売を一貫して行っている会社は、世界的にも珍しいと思います。日本唯一の「きのこ総合企業」として、まずは「ホクトのきのこはいいね!」と喜んでいただけるように研究開発を進めることです。台湾、東南アジア、アメリカは、それぞれ第2工場や第3工場をつくる計画がありますし、ヨーロッパへの進出も考えています。きのこは健康食材だと内外に広く伝え、ホクトの安心・安全でおいしいきのこを世界の食卓に届けたいと思います。

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