東証市場再編

全国上場会社の旅

【高知県】オンリーワンのインプラント工法で、 高知から「世界の建設を変える」ぜよ

TAGS.

※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2022年3月16日に掲載した記事の再掲載です。

株式会社技研製作所
代表取締役社長 森部慎之助

オンリーワンのインプラント工法®で、
高知から「世界の建設を変える」ぜよ
―高知県― 株式会社技研製作所

「無振動・無騒音」、「仮設レス・省スペース施工」をはじめ、他の杭打機にはない優位性を武器に世界中でソリューションを提供する技研製作所。“高知発”の圧入技術を駆使したインプラント工法は、自然災害に粘り強く耐えるインフラを構築する工法として広がっています。その提案は、一昨年にはオランダ・世界遺産の運河改修プロジェクト、昨年には月面での建設を視野に国土交通省が公募したプロジェクトで選ばれました。圧入技術、インプラント工法とは? 月でも実現できる杭打ちとは? 代表取締役社長の森部慎之助さんに伺いました。

“地球に支えてもらう”発想の転換

――「圧入」とはどのようなものですか。

森部社長 すでに地盤に打ち込んだ杭材をつかみ、その「引き抜き抵抗力」を利用して機械を安定させ、次の杭材を地盤に静荷重で押し込んでいく方法です。これを「圧入原理」と言います。いわば“地球に支えてもらう”状態で、油圧を使って杭を押し込んでいくので騒音や振動も起きません。この機械を杭圧入引抜機「サイレントパイラー®」と言います。

通常の杭打ちは、杭を叩き込んだり、振動で沈めたりするので振動や騒音が生じるほか、機械本体を自重によって安定させるため、重さ数十から100トン超の大型機械が必要です。でもサイレントパイラーは、スタンダードなモデルで幅1メートル・長さ2メートル・高さ2.5メートル程度とコンパクトですから重量も軽く、施工した杭上を自走できるため作業用の足場を仮設する必要もありません。狭いスペースで静かに精度高く杭打ちができる、非常に優位性の高い機械です。

強いて弱点を挙げるなら、サイズが小さく音や振動がないのであちこちで活躍している割には目立たない(笑)。先日は休日の散策中、東京証券取引所の近くを流れる日本橋川などで、水門の改修工事に使われているサイレントパイラーを何台か目にしましたが、静かに稼働していました。

――サイレントパイラーは御社のオリジナルなのですか?

森部社長 創業者の北村精男(代表取締役会長)の発明です。圧入に関する特許も数多く、圧入機の国内シェアは95%。世界40以上の国と地域で採用実績があり、世界シェアも9割を超えています。

東日本大震災で認知度が高まった「インプラント工法」

――装置が杭上を自走できるのはすごいですね。

森部社長 自走しながら、打った杭を支えに次の杭を打っていきます。杭を隙間なく並べていけば、護岸や擁壁といった土木構造物をつくることもできます。

――インプラント工法とはどんな工法ですか?

森部社長 インプラント工法は、工場生産された杭材を圧入し、地球と一体化した粘り強いインプラント構造物を構築する工法です。これは歯のインプラント治療と原理が同じであることから「インプラント工法」と呼んでいます。一方、地盤に置いたコンクリートの重みで外力に抵抗する構造を「フーチング構造」といい、これまで多くのインフラがこの構造で造られてきました。歯で例えるとインプラント構造®は「『天然の歯』形式」、フーチング構造は「『総入れ歯』形式」。その粘り強さの違いは明白です。

インプラント工法の優位性が浸透するきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災です。フーチング構造の堤防が地震や津波で崩壊、流失した中、インプラント構造の連続壁はほぼ無傷で残っていました。震災以前からその粘り強さを訴えていた私たちは、従来構造の脆弱さにあらためて危機感を抱き、被災地の国の出先機関や自治体、さらにはコンサルタントなどに優位性のあるインプラント工法の提案を行っていったのです。ただ、被災地でのインプラント工法の認知度はゼロでしたから、話を聞いてもらうだけでも苦労しました。

最初に国直轄事業として採用されたのは地元高知でした。南海トラフ巨大地震対策の堤防改良工事でインプラント工法が採用され、認知度が格段に上がる一つの契機となりました。宮城県、岩手県などの被災地でも災害復旧工事としてどんどん採用が進むようになり、いまでは発注者やコンサルタントも「インプラント工法」という言葉を使うようになるなど認知度の高まりを実感出来るようになりました。

――インフラ事業で新しい技術を採用してもらうのは大変ですね。

森部社長 私は高知県庁の職員だったのでよくわかるのですが、役所が関わる事業では、まず実績が問われます。公共事業を担う業者も扱い慣れた在来工法を選びますから、前例のない新しい技術はなかなか受け入れてもらえません。新しい技術を開発する私たちは、常に「前例主義の克服」がテーマなのです。私たちは全国に先駆けて高知県と高知大学と一緒に防災技術の産学官共同研究を行い成果も出していましたので、そうした取り組みも多くの発注者への説得力を高めるきっかけになりました。

震災から10年で、東北の防潮堤などで108件、インフラ事業全体では1,100件、インプラント工法は採用されました。その適用範囲も広がっており、港湾の岸壁や地すべり抑止杭、高速道の拡幅工事などでも採用されています。今後、インフラの長寿命化や更新がピークを迎えると考えており、国内はもとより海外でもさらに需要は伸びていくと予想しています。

※2021年1月末時点

技術開発と普及活動を両輪で進めた50年

――そもそもサイレントパイラーは、どのようにして生まれたのでしょうか。

森部社長 当社会長の北村は1967年に前身の「高知技研コンサルタント」を創業しました。当時の工事現場では杭打ち機の騒音や振動が近隣に多大な迷惑をかけていて、これをなんとかしなければと危機感を抱いていました。静かな杭打ち機を国内外で探したけれど実用的な機械が見つからず、ならば自分でつくろうと一念発起したのが開発の始まりでした。

北村の頭の中には、工事現場で見た「いったん打ち込んだ杭を引き抜くには非常に大きな力が必要」という光景があり、杭にまとわりつく地盤の引抜抵抗力を利用して杭を押し込むことができないかと考えていました。そこで地元で機械修理業などを営んでいた垣内商店(現・ 株式会社垣内)の故・垣内保夫氏をパートナーに研究を重ね、1975年にサイレントパイラーの1号機を完成させました。

――50年近くも前にサイレントパイラーはできていたのですね。

森部社長 この50年間は、圧入の技術開発と普及活動の歩みとも言えます。1号機完成からほどなく大阪、東京などに営業拠点を設けた当社は、1983年には初の海外工事をドイツで行うなど、国内外で圧入技術の普及に取り組んでいきました。

高知から世界へ! 情報発信基地を建設

――海外売上比率を現在の2割から7割まで引き上げるという意欲的な目標を公表されていますね。

森部社長 海外は建設をはじめ様々な文化の違いがあり、既得権益の壁を打ち破るのも大変です。ですが、圧入技術の優位性を正確に理解いただければ海外比率7割は必ず達成できる自信を持っています。実例で言えば、アフリカ西部のセネガルでは、日本のODAとして実施したダカール港の岸壁改修工事において、仮設レス施工で港の機能を止めずに工事を終えられたことがJICAや地元政府の皆さんからも高く評価されました。

また、オランダ・アムステルダム市が公募した世界遺産「アムステルダムの運河」の護岸改修に関わる審査において、圧入技術の優位性が高く評価されて同市のパートナーに選ばれました。今年から実証施工がスタートしますが、順調にいけば、改修対象になっている200㎞区間の護岸工事を継続的に受注できることになります。それに何よりもこのプロジェクトは、水管理で世界一の技術を誇るオランダが、新しい建設のイノベーションを試みる世界が注目する大型案件ですから、インプラント工法を一気に世界に広げるチャンスなのです。

――海外でプレゼンテーションを行って受注するのはすごいですね。

森部社長 私たちの技術はまだ知られていませんから、今は出かけて行って技術提案して採用に繋げていくしかないのです。現在は海外拠点(オランダ、ドイツ、シンガポール、米国、オーストラリア、中国)を中心に行っていますが、全ての地域に出かけていくのは効率が悪いので、興味があり圧入技術の優位性を理解したい方には来ていただこうと、実は高知に情報発信基地をつくっています。

高知空港に近い赤岡町にあるので「RED HILL 1967(レッド ヒル イチ キュー ロク ナナ)」と命名しました。敷地面積は36,000平方メートルで、サイレントパイラーやインプラント工法、インプラント構造物を実際のスケールで再現し、世界の杭打機を展示するミュージアムも併設しています。とにかく「百聞は一見にしかず」ですから、発注者や関係者、さらには一般の方々に私たちの技術や圧入原理の優位性を実感していただきたいです。

――ミュージアムは地元の子供たちも喜びそうですね。

森部社長 高知の本社で子供達の見学は実施していますが、このレッドヒルでも考えています。子供たちにも楽しんでもらいながら技研と圧入技術を知ってもらえたら嬉しいですね。

――圧入技術は、月面開発を見据えたプロジェクトに採用されましたね。

森部社長 国土交通省が『無人建設技術開発』の参加者を募っていましたので、サイレントパイラーのインプラント工法で応募したところ、技術研究開発対象として採択されました。圧入技術は重力に依存せず、杭の引抜抵抗力を利用しますから、重力が地球の6分の1の月でもコンパクトな機体で杭打ちが可能だと考えています。もともと北村会長は「月でも打てる」と言っていたのです。それがいよいよ現実に近づいてきて非常に楽しみです。

――月面開発において圧入技術が生かせる点はほかにどんなところがありますか

森部社長 月面開発には無人化技術が必須となります。当社の開発した「PPTシステム®」を用いれば、圧入中に取得できる各種データから地盤情報を推定し、自動運転を実現できます。また杭精度管理システム「インプラントNAVI®」を用いれば、施工中の杭の貫入深度、変位、傾斜データをリアルタイムに取得し、高精度な杭の施工品質管理等を実現できます。圧入技術は、杭打機のなかで最も無人化に近い技術だという自負があります。

 

――月面での杭打ちは世界中へのPRになりますね。

森部社長 ここで開発する技術は地球上でも私たちが進める「工法革命」を加速して、世界中のインフラ事業にもっと貢献するようになると考えています。単なる建設機械メーカーや基礎工事業者ではなく、世界の建設課題に対してソリューションを提案できるグローバルエンジニアリング企業としてプレゼンスを高めていきます。

用語解説

"※必須" indicates required fields

設問1※必須
現在、株式等(投信、ETF、REIT等も含む)に投資経験はありますか?
設問2※必須
この記事は参考になりましたか?
記事のご感想や今後読みたい記事のご要望などをお寄せください。
(200文字以内)

This site is protected by reCAPTCHA and the GooglePrivacy Policy and Terms of Service apply.

注目キーワード