老後の安心感を得る秘訣は「貯蓄」「投資」に動き出すこと

ライフスタイル別に「保険」&「投資」を見直してみた ~自営業夫婦編~

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働き方は自由であるものの、公的保証制度の少ない個人事業主(フリーランス)は、いざというときのために「保険」や「投資」について考える機会も増えるだろう。ただ、どのような備えが必要か判断できず、保留にしてしまっている人も多いはずだ。

「保険や投資は、やろうと思えば際限なくお金をかけられるものです。ただし、何かあった際にすぐ換金できるよう、貯蓄は備えておきたいので、月々の貯蓄額を確保したうえで、保険や投資にかけるお金を導き出すようにしましょう」

そう教えてくれたのは、ファイナンシャルプランナーの川部紀子さん。貯蓄をしたうえでの余裕資金を「保険」や「投資」に回すことが大前提となりそうだが、具体的にはどのように備えていくといいのだろうか。その考え方を聞いた。

18歳未満の子どもがいたら「死亡保険」を検討

「保険は病気になった場合、亡くなった場合に備えるもので、『死亡保険』『医療保険』『がん保険』の3つに分けて考えるのがおすすめです。1つ目の『死亡保険』は、夫婦ともに個人事業主であったとしても、それぞれに収入があれば、過剰に備える必要はないでしょう。判断のポイントは家族構成と自宅の種類です」(川部さん・以下同)

この記事では、夫婦ともに個人事業主の家庭を想定して、川部さんに保険&投資の考え方を教えてもらう。

●子どもがいない場合
「夫婦ともに個人事業主で、それぞれに平均年収程度の収入を得られているのであれば、万が一片方が亡くなっても、生活に困ることはないと考えられます。そして、子どもがいないのであれば、教育費などは発生しないので、『死亡保険』は加入しなくても問題ないでしょう」

個人事業主で子どもがいない場合、遺族年金は受け取れない。ここは勘違いしないように注意が必要だ。また、葬式代などの突然の出費に対応できるよう、月々の貯蓄はしっかりしておいた方がいいだろう。

●子どもがいる場合
「事業の収入が平均年収程度あれば、生活に困ることはないでしょう。また、子ども(※)がいる家庭だと、配偶者の死後は遺族基礎年金が受給できます。少額ではありますが、生活費の足しになるでしょう。そのため、『死亡保険』は加入しないでも問題ないといえます」

※18歳未満の年度末までの子(障害のある子は20歳未満)

子どもの教育費に関しても、保険とは別に備えておく方が安心感が増すという。

「教育費は、『保険』で備える必要はありません。大学入学時点で大きくかかる費用を目標に、積み立てていきましょう。子どもが18歳になるまでに夫婦のどちらかが亡くなる可能性は低く、保険の利率も魅力とはいえないので、教育費は預貯金や個人向け国債などの手堅いもので確保しておけるといいでしょう」

●持ち家の場合
「住宅ローンを組んで家を建てた場合、ほとんどの住宅ローンには『団体信用生命保険(団信)』がついていて、夫婦のうちローンの契約者となっている方が亡くなると、『団信』によって住宅ローンの残高がゼロになります。つまり、配偶者の死後は住居費がかからないのです。住居費のために『死亡保険』を備えるといったことはしなくてもいいでしょう」

●賃貸の場合
「賃貸住宅に住んでいる場合は、配偶者の死後も家賃が発生します。もし、それまで住んでいた家の家賃が捻出できないようであれば、支払える額の家に引っ越せば問題ないので、『死亡保険』で家賃を支払い続けることは考えなくていいでしょう。月々の貯蓄で葬式や引っ越しに備えることができれば、『死亡保険』に頼る必要はありません」

●事実婚の場合
「事実婚の場合、保険会社によっては、住民票の続柄の欄に『未届』と記載していたとしても『死亡保険』の受取人になれないことがあります。『死亡保険』に加入する場合は、事前に保険会社に確認しましょう」

「医療保険」&「貯蓄」2つの備えでカバー

個人事業主は公的保証制度が少ないが、2つ目の「医療保険」はどのように考えていくといいだろうか。

「会社員・公務員であれば、病気やケガで療養を余儀なくされた場合に、給与のおおよそ3分の2が最大1年6カ月分支給される傷病手当金という制度があります。しかし、個人事業主は入院しても傷病手当金が出ませんし、仕事ができずに収入が途絶えることも考えられます。そのため、ある程度は備えておく方が安心でしょう」

では、どの程度の保険に入るといいのだろうか。その基準を考えるため、公益財団法人生命保険文化センターが発表している「令和元年度『生活保障に関する調査』(令和元年12月発行)」から、入院にかかる費用や日数を見てみよう。

●入院時の1日あたりの自己負担費用
5000円未満 10.6%
5000~7000円未満 7.6%
7000~1万円未満 11.1%
1万~1万5000円未満 24.2%
1万5000~2万円未満 9.0%
2万~3万円未満 12.8%
3万~4万円以上 8.7%
4万円以上 16.0%
※調査対象は過去5年間に入院し、自己負担費用を支払った人(高額療養費制度を利用した人+利用しなかった人(適用外を含む))
※治療費・食事代・差額ベッド代に加え、交通費(見舞いに来る家族の交通費も含む)や衣類、日用品などを含む。高額療養費制度を利用した場合は利用後の金額

●入院時の入院日数
5日未満 20.9%
5~7日 27.3%
8~14日 27.1%
15~30日 15.7%
31~60日 5.3%
61日以上 3.6%
※調査対象は過去5年間に入院した人

「入院にかかる費用や日数は、想像より少ないと感じる人も多いのではないでしょうか。このデータから考えると、『医療保険』に加入するなら、入院・手術で保険金が下りるシンプルなタイプで、保険金は入院日額1万円、対象となる入院日数は60日など、ある程度の保障で問題ないといえます。もちろん不安であれば、入院日額や日数を増やす選択肢もありますが、その分保険料は上がっていきます」

個人事業主だからといって、「医療保険」をかけすぎるのはかえってデメリットがあるという。

「『医療保険』が最低限でいい理由は、病気やケガで入院・手術をする確率が、入院・手術をしない確率より低いからです。月々の保険料を最低限に抑え、余ったお金を貯蓄に回しておけば、その貯金は入院・手術をしなかったときに別の用途で利用できます。入院・手術をしたら、その費用に充てればいい。お金に柔軟性が生まれますよね」

「医療保険」を選ぶ際には、もう一つポイントがあるそう。

「『医療保険』は、掛け捨てのものを選びましょう。掛け捨ては損だと思って、解約返戻金のあるタイプを選びたくなる気持ちはわかるのですが、わざわざ高い保険料を払うよりも、その分を貯蓄していった方が、いざというときに使いやすいお金になります。貯蓄と保険は分けて考えましょう」

現役の間こそ加入を検討するべき「がん保険」

3つ目の「がん保険」は、どのように考えていくといいだろうか。

「がんの治療は金額が大きくなる可能性があるので、夫婦それぞれ『がん保険』に入っておくと安心です。ただし、さまざまな特約をつけるときりがないので、『がんと診断されたら保険金が下りる』といったシンプルなものでいいでしょう。保険金の額は、月々の保険料によって異なりますが、数百万~数千万円出るものであれば問題ないと思います」

人によっても考え方が異なる部分ではあるが、川部さんは「『がん保険』は一生涯保障でなくてもいい」と話す。

「例えば、働き盛りの30~40代でがんと診断されたら、高い治療費を払ってでも治したいと考えるでしょう。一方、70~80代で診断されたら、高度な治療は必要ないと思うかもしれません。その場合は、10年更新の『がん保険』に加入し、仕事を引退した後は更新しないという方法を選べます。将来の生活や働き方を想像して、加入期間を選んでみましょう」

老後に向けて「iDeCo」「つみたてNISA」を併用

投資に関して、個人事業主ならではの考え方などはあるのだろうか。

「個人事業主は、定年を迎えたからといって退職金がもらえるわけではありません。そのため、自分で退職金を準備する必要があるので、『iDeCo(個人型確定拠出年金)』を活用しましょう。60歳まで非課税で運用できるだけでなく、拠出額全額が所得控除になるという減税メリットもあります。生活費や子どもの教育費、月々の貯蓄との兼ね合いもありますが、可能であれば拠出額マックスで運用したいところです」

「iDeCo」をしてなお、余裕資金がある場合は、「つみたてNISA」の併用も考えたい。

「減税メリットもある『iDeCo』を優先して、そのうえでまだ投資できるお金があれば、『つみたてNISA』も始めましょう。『つみたてNISA』はいつでも払出しできます」

「iDeCo」「つみたてNISA」ともに、運用商品を選ぶ必要がある。利益が出ないと意味がないが、どの商品に投資をするといいだろうか。

「個人事業主の場合、『iDeCo』の拠出限度額は月額6万8000円と金額が大きいですし、退職金の要素も含むので、リスクを取りすぎるのは危険です。リターンもリスクも大きい株式型だけでなく、バランス型の投資信託などの守りの要素も含めながら、着実にお金を増やしていけるといいでしょう。『つみたてNISA』も同じ考え方で問題ありません」

会社員と比べると利用できる公的保証制度が少ない個人事業主は、ある程度先を見据えた備えが必要になりそうだ。「保険」にかけすぎないように注意しながら、「貯蓄」と「投資」を実践できる生活を維持できると、将来への安心感が出てくるだろう。
(有竹亮介/verb)

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