東証ETFのキーパーソンに聞く

アセットマネジメントOneが思うETF市場のこれまでとこれから・後編

ETF市場を広げるカギは「業界全体の頑張り」と「投資家の小さな一歩」アセマネOne・浜田氏

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「One ETF」というブランドを立ち上げ、現在までに9本のETFを東証に上場しているアセットマネジメントOne。その発起人となり、ETF事業に深く携わっているのが、投資信託営業本部シニアエグゼクティブの浜田好浩さん。

これまでの経験を聞いた前編に引き続き、後編では日本のETF市場の現状と投資に対する考え方について伺った。

まだまだ投資家に届いていない「ETFの魅力」


――浜田さんは公募投資信託とETF、それぞれの業務に携わっていますが、考え方は異なるものですか?

「公募投信は証券会社など販売会社に販売してもらう商品なので、販売会社がターゲットとしている投資家のニーズを反映することが求められます。そこを考えていない商品だと、販売会社に採用してもらえないからです。

一方、ETFは上場さえすれば、すべての証券会社で取り扱ってもらえるので、非常にアクセスが広い商品です。これは公募投信にはない強みですよね。株式と同じ位置付けにありながら分散投資ができるという点は、かなりの武器になると考えています」

――確かに、間口が広いですよね。2015年にETF事業に参入してから、マーケットをどう捉えていますか?

「日本の投資家はなぜETFを買わないのだろう、と思います。日本のETFの市場規模は、2021年4月末で約60兆円。そのうち50兆円が日銀の買い入れで、残り10兆円も多くが機関投資家で占められていて、個人投資家はわずかです。もちろんETFの認知は以前よりも高まっていると感じますが、積極的な活用はされていないんですよね」

――なぜ、個人投資家の間で広がらないのでしょう?

「これにはいろいろな要素があると思います。ひとつはお金を運用するにあたって、誰かに相談しながら決めたいという個人投資家が多いことがあるのではないでしょうか。

投資に関するリテラシーが高いとは言えない日本では、投資をしようと思ったら、販売会社などで相談するのが一般的だと思います。しかしながらETFの商品特性上、販売会社が積極的にETFを薦めることはないでしょう。これはETFが公募の投資信託とは異なり、販売会社に信託報酬をお支払いする仕組みがないからです。そういう背景もあり、日本人がETFに投資するという選択肢は、限りなく小さくなってしまいますよね。

裏を返せば、ETFの商品性を理解し、選択肢に気付けば、活用しようと考える人は増えるはずなんです。例えば、インデックスファンドを買いたいと考えている投資家がいて、よりコストの低い手段を求めているとすれば、自然とETFを選ぶことになる。アクセスしやすい、コストが低いといったETFの魅力が伝わって、『ETFって便利だよ』という会話がされるようになれば、自ずと市場も広がっていくと思います」

――投資家という受け手である私たちも、知識をインプットしていかなければいけませんね。

「『東証マネ部!』含め、さまざまなメディアでETFの特性や魅力を発信してくれていますが、我々運用会社も、ETFを世の中に広めていく努力が必要と思います。こうした活動が業界全体で活発化して、投資家に情報が届いていくと、ETFも盛り上がっていくのでしょうね」

今後のカギは「証券口座を開く」という一歩


――認知度を上げることは、活用を促す意味でも重要な課題といえそうですね。

「そうだと思います。ほかにも、ETFが広く活用されていない要因のひとつとして、『買い方がわからない』という方が多いこともあるでしょう。投資信託から投資を始めた方は、ETFをどこで買えばいいかわからないんですよね。銀行でも買える投資信託と違い、ETFは証券会社でしか買えませんから。証券会社なら基本的にどこでも買えるアクセスの良さがある一方、証券会社のみでしか買えないチャネルの狭さは、ETFの難しさでもあります」

――投資経験が少ない人からすると、ハードルが高いと感じてしまうかもしれませんね。何が変わると、この状況が変わっていくでしょう?

「ひとつ思っているのは、証券会社に口座を開いて株式や投資信託、ETFの取引を行うことは、銀行口座を開くのと同じくらい重要かつ普通なことになっていくのではないかということです。

これからの日本は、自分で資産形成をして資産を増やしていかないといけない時代になると感じています。『賃金が伸びない』といわれ続けた約20年間、資産を増やした方の多くは、勤労だけではなく投資で増やしているんですよね。幾多の価格変動があっても、粘り強くコツコツ投資を続けたから資産を増やせたのだと思います。

その事実に気付くことができたなら、投資を始めるのは自然なことで、証券口座を開くことはとても重要な一歩だと思います。コロナ禍で爆発的にネット証券の口座数が伸びたのは、一人で家にいて内省する時間が増え、投資を含めた資産形成の大切さに気付いた人が増えたからではないでしょうか」

――社会の状況や自分の置かれた環境に目を向ける時間ができましたよね。そして、証券口座を開くという一歩を踏み出すと、金融商品についても興味が湧いてきます。

「そうなんです。そして、金融商品に関心が湧いてくれば、ETFという商品の存在にも気付いていけるはず。もちろん金融業界全体でも魅力的な商品をつくり、届けていく努力が必要だと思いますし、皆さんにもその一歩を踏み出してほしいですね」

投資は「少額でも続けること」が大切


――30年にわたって投資信託に携わり、ETFの企画も行ってきた浜田さんですが、投資に対してはどのような考え方を持っていらっしゃいますか?

「私自身、投資の中心はパッシブ商品が多く、これを中長期に保有しようと考えております。前編でもお話ししましたが、『中長期的に見ると、コストの低いパッシブファンドの方がアクティブファンドよりも好成績を収めやすい』といった研究があるのも事実です。もちろんアクティブファンドの中にも中長期的にコスト控除後でパッシブを凌駕するリターンを上げるものもありますが、これを見極めるのはなかなか容易ではありません。金融庁の言う『長期・積立・分散』をパッシブ商品で実践していくのも、資産形成のひとつの有効な方法と考えています」

――最後になりますが、読者の皆さんにメッセージをいただけますか。

「ぜひ、投資をしましょう。このひと言に尽きますね。まだ投資経験が浅かった頃、ファンドマネージャーの先輩からこう言われたんです。『素人は株価が下がると地の底まで下がると思うし、上がると空の上まで上がると思ってるけど、そんなことはない。下がったものは上がるし、上がったものは下がる』って。その言葉のとおりで、永久に下がり続けることも上がり続けることもないのが、投資なんです。

また、時間を味方につければ、ある程度のリスクは避けられます。結果的に投資をしていたことで、金利0.002%の定期預金よりはるかにお金が増えたねということになるケースがほとんどなので、たとえ値が下がっても諦めずに続けてほしいです。分散投資を行うETFや投資信託であれば、組み入れ資産が全部破綻しない限りゼロにはなりませんし、途中でやめてしまうと、その後でマーケットが回復しても取り戻せませんから。

投資は、『不労所得』と呼ばれることがあります。確かに体を動かして汗をかいてはいないかもしれませんが、知識を蓄えて、敏感に情報を仕入れて、頭を働かせたからこそ、リターンが得られるのです。それは労働に対して支払われる給与と同じ価値があると思います。自分の将来のためにも、堂々と投資を行い、資産形成に役立ててほしいですね」

浜田さんが話してくれたとおり、投資の第一歩を踏み出し、途中でやめずに続けていくことが、将来の自分のためになっていくだろう。そのためのツールのひとつとして、ETFがある。改めて、ラインナップをチェックするところから始めてみてはいかがだろうか。

(取材・文/有竹亮介(verb) 撮影/森カズシゲ)

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