「配偶者が働けなくなった」を想定した「保険」選びがカギ
ライフスタイル別に「保険」&「投資」を見直してみた ~片働き夫婦編~
何らかの理由で夫婦のどちらかが働けない場合、貯蓄以外にも「保険」「投資」といった備えが必要になるだろう。とはいえ、使えるお金のすべてをつぎ込むのは不安もある。ファイナンシャルプランナーの川部紀子さんに、ポイントとなる考え方を聞いた。
「保険や投資は、やろうと思えば際限なくお金をかけられるものです。ただし、何かあった際にすぐ換金できるよう、貯蓄は備えておきたいので、月々の貯蓄額を確保したうえで、保険や投資にかけるお金を導き出すようにしましょう」
貯蓄をしたうえでの余裕資金を「保険」や「投資」に回すことが、大前提といえそうだ。では、具体的にはどのような商品を備えていくといいのだろうか。
フルタイムで働けない場合は「死亡保険」加入を検討
「まず、保険から考えてみましょう。人命にかかわる保険は、『死亡保険』『医療保険』『がん保険』の3つに分けて考えるのがおすすめです。1つ目の『死亡保険』の必要性は、夫婦の働き方や子どもの有無、自宅の種類が大きく関係します」(川部さん・以下同)
この記事では、夫婦のどちらかが正社員、もう片方がパートまたは専業主婦(夫)の家庭を想定して、川部さんに保険&投資の考え方を教えてもらう。
●子どもがいない場合
「仮に正社員の側が亡くなった場合、遺族が高収入でなければ通常は遺族厚生年金が支給されますが、万が一のことがあったその後もフルタイムで働くことができず、十分な収入を得られない可能性があれば、正社員の側が『死亡保険』に加入しておいた方がいいでしょう。このようなケースでは、一括で数百万~数千万円出るものよりも、月々10万円ずつ保険金が下りるタイプを契約すると、日々の生活費として使いやすくなります」
パートまたは専業主婦(夫)の側が亡くなるケースは、正社員で働き続けることができれば生活費に困ることはないため、「死亡保険」はなくても問題ないだろう。
葬式代を「死亡保険」でまかなうという考え方もあるが、月々の貯蓄で足りる可能性も高いため、そこは保険に頼らなくてもいいといえそうだ。
●子どもがいる場合
「子ども(※)がいる家庭だと、正社員の側の死後は遺族厚生年金+遺族基礎年金が受給できるので、生活費として使えるでしょう。ただ、遺族年金だけでは生活費に足りないことも多いので、パートまたは専業主婦(夫)の側がフルタイムで働けない場合は、正社員の側が『死亡保険』に入っていると安心です。月々10万円ずつ保険金が下りるタイプだと、遺族年金と合わせて生活費とできるでしょう」
※18歳未満の年度末までの子(障害のある子は20歳未満)
子どもの教育費は、保険とは別に備えておけると、さらに安心感が増すといえそうだ。
「教育費は、『保険』で備える必要はありません。大学入学時点で大きくかかる費用を目標に、積み立てていきましょう。子どもが18歳になるまでに夫婦のどちらかが亡くなる可能性は低く、保険の利率も魅力とはいえないので、教育費は預貯金や個人向け国債などの手堅いもので確保しておけるといいでしょう」
●持ち家の場合
「住宅ローンを組んで家を建てた場合、ほとんどの住宅ローンには『団体信用生命保険(団信)』がついていて、夫婦のうちローンの契約者となっている方が亡くなると、『団信』によって住宅ローンの残高がゼロになります。つまり、配偶者の死後は住居費がかからないのです。住居費のために『死亡保険』を備えるといったことはしなくてもいいでしょう」
●賃貸の場合
「賃貸住宅に住んでいる場合は、配偶者の死後も家賃が発生します。もし、それまで住んでいた家の家賃が捻出できないようであれば、支払える額の家に引っ越せば問題ないので、『死亡保険』で家賃を支払い続けることは考えなくていいでしょう。月々の貯蓄で葬式や引っ越しに備えることができれば、『死亡保険』に頼る必要はありません」
●事実婚の場合
「事実婚の場合、住民票の続柄の欄に『未届』と記載する届出をしていれば、配偶者が亡くなった際に遺族年金を受け取れる可能性があります。ただし、保険の場合は、会社によっては事実婚だと『死亡保険』の受取人になれない場合があります。『死亡保険』に加入する場合は、事前に保険会社に確認しましょう」
片方が正社員であれば「医療保険」は最低限でOK
2つ目の「医療保険」は、夫婦それぞれどのように考えていくといいのだろうか。
●正社員で働いている側の「医療保険」
「会社員・公務員であれば、病気やケガで療養を余儀なくされた場合に、給与のおおよそ3分の2が最大1年6カ月分支給される傷病手当金という制度があります。もし、療養が1年6カ月を超える場合は、障害認定の可能性が出てくるため、障害年金が受け取れるかもしれません。保険は公的保障制度を補うものと考えると、大掛かりな『医療保険』は必要ないといえます」
ただし、「医療保険」に加入しなくてもいいかというと、そうとも言えない。その理由は、入院、手術をするとなれば、日々の生活費以外の支出が発生するから。公益財団法人生命保険文化センターが発表している「令和元年度『生活保障に関する調査』(令和元年12月発行)」によると、入院にかかる費用や日数は以下のようになっている。
●入院時の1日あたりの自己負担費用
5000円未満 10.6%
5000~7000円未満 7.6%
7000~1万円未満 11.1%
1万~1万5000円未満 24.2%
1万5000~2万円未満 9.0%
2万~3万円未満 12.8%
3万~4万円以上 8.7%
4万円以上 16.0%
※調査対象は過去5年間に入院し、自己負担費用を支払った人(高額療養費制度を利用した人+利用しなかった人(適用外を含む))
※治療費・食事代・差額ベッド代に加え、交通費(見舞いに来る家族の交通費も含む)や衣類、日用品などを含む。高額療養費制度を利用した場合は利用後の金額
●入院時の入院日数
5日未満 20.9%
5~7日 27.3%
8~14日 27.1%
15~30日 15.7%
31~60日 5.3%
61日以上 3.6%
※調査対象は過去5年間に入院した人
「費用や日数は意外と少ないものです。そのため、『医療保険』は、入院・手術で保険金が下りるシンプルなタイプで十分です。保険金は入院日額5000円、対象となる入院日数は60日など、最低限の保障で問題ないでしょう。もちろん不安であれば、入院日額や日数を増やしてもいいのですが、その分保険料は上がっていきます」
●パートまたは専業主婦(夫)の側の「医療保険」
「パートまたは専業主婦(夫)は、入院しても傷病手当金は出ません。ただ、それまで同様に配偶者の給与で生活していくことに変わりはないため、配偶者と同じく最低限の備えで問題ないでしょう。入院・手術で保険金が下りるシンプルなタイプで、入院日額5000円、対象となる入院日数は60日程度のものに加入しておくと安心です」
夫婦のどちらかが正社員であれば、入院したからといって収入が激減するわけではないため、過剰な備えは必要ないということだ。「医療保険」を選ぶ際には、もう一つポイントがあるそう。
「『医療保険』は、掛け捨てのものを選びましょう。掛け捨ては損だと思って、解約返戻金のあるタイプを選びたくなる気持ちはわかるのですが、わざわざ高い保険料を払うよりも、その分を貯蓄していった方が、いざというときに使いやすいお金になります。貯蓄と保険は分けて考えましょう」
現役の間こそ加入を検討するべき「がん保険」
3つ目の「がん保険」は、どのように考えていくといいだろうか。
「がんの治療は金額が大きくなる可能性があるので、夫婦それぞれ『がん保険』に入っておくと安心です。ただし、さまざまな特約をつけるときりがないので、『がんと診断されたら保険金が下りる』といったシンプルなものでいいでしょう。保険金の額は、月々の保険料によって異なりますが、数百万~数千万円出るものであれば問題ないと思います」
人によっても考え方が異なる部分ではあるが、川部さんは「『がん保険』は一生涯保障でなくてもいい」と話す。
「例えば、30~40代でがんと診断されたら、高い治療費を払ってでも治したいと考えるでしょう。一方、70~80代で診断されたら、高度な治療は必要ないと思うかもしれません。その場合は、10年更新の『がん保険』に加入し、正社員の側が退職した後は夫婦ともに更新しないという方法を選べます。将来の生活や働き方を想像して、加入期間を選んでみましょう」
夫婦それぞれ違う制度を活用して備えるべし
投資に関して、会社員と専業主婦(夫)で考え方に違いは出てくるのだろうか。
●会社員の場合
「日々の生活費や子どもの教育費、月々の貯蓄などを踏まえたうえで余裕資金があることが前提ですが、『企業型DC(企業型確定拠出年金)』のマッチング拠出または『iDeCo(個人型確定拠出年金)』を活用することをおすすめします。拠出額の上限マックスで積み立てられるとベストですが、無理のない範囲で設定しましょう」
基本は、手数料が会社負担となる「企業型DC」の活用を優先すべきとのこと。ただし、場合によっては「iDeCo」と「企業型DC」の併用も考えた方がいいそう。
「勤め先が『企業型DC』を導入していない、もしくは『企業型DC』が月々数千円など、掛金が小さいといった場合は、積極的に『iDeCo』の活用・併用を考えた方がいいでしょう。『iDeCo』は月々5000円から積み立てられるので、少額しか捻出できないとしても、続けることで将来の安心感につながります」
●パートまたは専業主婦(夫)の場合
「『iDeCo』の魅力の一つは、所得控除による減税です。控除できるだけの収入がないパートまたは専業主婦(夫)はその魅力が生かせないので、手数料がかからない『つみたてNISA』を優先的に利用した方がいいでしょう。『つみたてNISA』は月々数百円から積み立てられるので、収入が少なくても始めやすいといえます。こちらも無理のない範囲で拠出額を設定しましょう」
●リスクの取り方
「夫婦の考え方にもよりますが、一般的な生活水準を保つことを考えると、定年退職までに退職金と貯蓄や投資などの各種積み立てを合わせて3000万円(夫婦2人分)あれば、問題ないといえます。3000万円に達しそうであれば、『企業型DC』『iDeCo』『つみたてNISA』は株式の比率を高めて、多少リスクを取ってもいいでしょう。3000万円に達しそうにない場合は、バランス型の投資信託などを使って、リスクを抑えた方が安心です」
夫婦のどちらかがパートまたは専業主婦(夫)の場合は、正社員の側が働けなくなる可能性を考えて「保険」を備えると良さそうだ。「投資」は、夫婦それぞれに違う制度を活用し、老後に向けて備えていけるといいだろう。
(有竹亮介/verb)
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川部紀子
FP・社労士事務所川部商店代表、ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士。日本生命保険相互会社に8年間勤務し、営業の現場で約1000人の相談・プランニングに携わる。2004年、30歳の時に起業。個人レクチャー・講演の受講者は3万人を超えた。最新の著書に、貯蓄や投資の基礎知識を掲載した『得する会社員 損する会社員』がある。