年金受給の前に知っておきたい「47万円」の壁

制度改正で「在職老齢年金」が使いやすくなったって本当?

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高齢者雇用安定法の改正により、70歳までの就業機会が確保されたことをはじめ、60歳を超えても働き続けやすい環境が整いつつある。では、働き続けた場合に年金を受け取れないかというと、そうではない。

ただし、働きながら年金を受け取る際には、注意点がある。ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士の川部紀子さんに、その注意点について教えてもらった。

「年金+給与」が47万円を超えたら年金カット

「会社に勤めて給与をもらっていると、収入額に応じて老齢年金が減らされる『在職老齢年金』という制度があります。ポイントは『給与をもらっていること』で、老齢厚生年金の被保険者として働いている年金受給者、つまり会社員が制度の対象です。また、減額となる年金は老齢厚生年金だけで、老齢基礎年金は含まれません」(川部さん・以下同)

年金も給与も両方もらえるなら働いた方がいいと思ったが、減らされてしまうことがあるとは…。具体的には、どの程度減額されてしまうのだろうか。

「年金を受け取っている会社員全員が、減額の対象になるわけではありません。基本月額(※1)と総報酬月額相当額(※2)の合計が基準額を超えた場合、年金の全部または一部がカットされます」

※1 加給年金を除いた特別支給の老齢厚生年金(退職共済年金)の月額
※2 直近1年間の給与に賞与を足して12で割った額

これまでは、65歳未満で働きながら年金を受け取る場合、基本月額によって基準額が「28万円」か「47万円」に振り分けられていた。しかし、2022年4月の制度改正により、基本月額に関係なく「47万円」に統一された。ちなみに、65歳以上は、以前から変わらず「47万円」が基準額となる。

「65歳未満の人の『在職老齢年金』の基準が緩和されたことで、年金がカットされにくくなりました。以前は、28万円以内に収めるために仕事をセーブする方も多かったのですが、これからはあまり気にせずに働けるでしょう」

「繰上げ受給」「繰下げ受給」は要注意

基準額が引き上げられたからといって、老齢年金を65歳以前に受け取り始める「繰上げ受給」は油断できないという。

「『繰上げ受給』をして、年金と給与の合計額が47万円を超えれば、当然『在職老齢年金』としてカットされます。『繰上げ受給』で減額された年金が、さらに減ってしまうので、年金額を計算したうえで検討しましょう」

『繰下げ受給』に関しても、見てみよう。65歳から年金を受け取ると、給与との合計が47万円を超えてしまう場合は、70歳以降まで『繰下げ受給』をすればいいと思うだろう。繰り下げれば年金がカットされないだけでなく、増額するならば問題ないはずだ。

「『繰下げ受給』も、注意が必要です。年金を受け取っていないとしても、ひと月の年金(本来の支給額)と給与の合計額が47万円を超えた場合、『在職老齢年金』でカットされた分の年金には増額率が適用されません。例えば、65歳からの5年間ずっと47万円を超え、年金月額10万円から3万円がカットされた状態で、70歳まで繰り下げたとします。この場合、受給開始後に7万円は42%増額するのですが、3万円は3万円のまま受け取る形となるのです」

基準額47万円を超える状態でも、「繰下げ受給」をすれば増額しないわけではないが、想定より増えない可能性があることは覚えておいた方がいいだろう。

「働き方」によって変わるメリット・デメリット

働きながらも年金はカットされたくないのであれば、“会社員”という働き方をやめるという選択肢が考えられる。

「『在職老齢年金』は厚生年金の制度なので、厚生年金に加入できない個人事業主やフリーランスは対象外となり、いくら働いても年金がカットされることはありません。最近は、業務委託という形で採用してくれる会社もあるので、年金受給のタイミングで勤めている会社に『業務委託での採用は可能か』と、聞いてみるといいでしょう」

とはいえ、年金がカットされる可能性があったとしても、会社員だからこそのメリットもあるとのこと。

「69歳まで被保険者として厚生年金保険料を払い続ければ、支払った分は70歳以降の年金額に反映されます。つまり、60代の10年分の保険料をきっちり納めて、老後に多く年金を受け取るという選択もできるのです。また、個人事業主になると、病気やケガで働けなくなった際の傷病手当金や労災保険、雇用保険の給付などがなくなりますが、会社員であればこれらの社会保険が付帯した状態で働けます。年末調整があるので、大半の人は確定申告の必要もありません。受け取る予定の年金額や貯金額、社会保険制度、現在の生活などを踏まえ、どの選択をするか考えてみましょう」

基準額の47万円を超えて年金がカットされたとしても、給与が減るわけではない。給与額を増やせば収入の絶対値は増えるため、今現在の年金は気にせず、バリバリ働くという選択もあるだろう。60歳以降の働き方を、真剣に考える時代になってきたといえそうだ。
(有竹亮介/verb)

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