マネ部的トレンドワード

世界でも数少ない都市連動型メタバース

「バーチャル渋谷」で見えた、メタバースにおける日本の武器

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「バーチャル渋谷」©KDDI・au 5G/渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

いま話題のトレンドに注目する連載「マネ部的トレンドワード」。メタバース編の第4回となる本記事では、約2年前から行われている「バーチャル渋谷」を取り上げる。

有名キャラクターと、自身のアバターが一緒に渋谷の街を歩き、記念撮影を行う――。そんな世界が実現するのが「バーチャル渋谷」だ。KDDI、渋谷未来デザイン、渋谷区観光協会などが参画しており、自治体公認の都市連動型メタバースとしては日本初のプロジェクトである。

現実の渋谷を仮想空間に作り上げたバーチャル渋谷には、どんな価値があるのか。2年間の取り組みの内容や、そこで見えたキラーコンテンツについて、KDDI株式会社 事業創造本部​ ビジネス開発部 メタバースビジネスチームリーダー 川本大功氏に聞いていく。

きっかけはコロナ。渋谷に行けないなら自宅に渋谷を届けてしまおう

バーチャル渋谷は、最初からメタバースを念頭において生まれたわけではなかった。伏線となったのは、2019年に立ち上げられた「渋谷エンタメテック推進プロジェクト(現 渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト)」。5Gで渋谷の都市体験を拡張しようと、KDDI、渋谷未来デザイン、渋谷区観光協会を中心に作られたものだ。

当初は渋谷を訪れた人に対し、特定の場所でスマホのカメラをかざすとARのイベントが発生するなど、メタバースに限らない仕掛けを行っていたという。

©KDDI・au 5G/渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

流れが変わったのは2020年3月。新型コロナの到来である。ここで方向性を大きく転換し、バーチャル渋谷のプロジェクトが始まったのだった。

「外出自粛となり、渋谷から人の姿が消えました。メディアの渋谷に対する取り上げ方も『熱気のある街』から『外出自粛の象徴』に。このままでは、創造文化都市としての渋谷の役割が変わってしまうなと。そこで当時、渋谷に行けないなら自宅に渋谷を届けてしまおうと、バーチャル渋谷の取り組みが始まったのです」(川本氏、以下同)

こうして、メタバースのプラットフォームを運営するcluster社と渋谷の街を仮想空間に構築。スクランブル交差点をはじめ、象徴的な場所から作り上げた。なお、渋谷5Gエンターテインメントプロジェクトには、現在44社(2022年6月現在)が参画している。

以降、バーチャル渋谷を舞台にさまざまなイベントが開かれてきた。その象徴が、2020年から2年連続で開かれた「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス」だ。これまでに累計100万人近くが体験したという。

「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス 2021」©KDDI・au 5G/渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

「特に2年目の開催では、リアルとバーチャルの融合を重視。その1つとして、声優のMachicoさんがカラオケルームで一人カラオケをし、その声や体の動きを仮想空間のアバターが再現するバーチャルライブを実施。また、イベントでの“投げ銭”を公共福祉に利用するなど、リアルとのつながりを作ったのです」

そのほか、クリスマスにはバーチャル渋谷のスクランブル交差点に巨大クリスマスツリーを設置。2021年春には、スクランブル交差点地下にライブハウス“SHIBUYA UNDER SCRAMBLE powerd by au 5G”を作り、渋谷にゆかりある100組のバンドによるバーチャルライブを行った。

「SHIBUYA UNDER SCRAMBLE powered by au 5G」©KDDI・au 5G/渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

なお、本物のスクランブル交差点の地下も空洞になっているようで、その事実をもとに「地下に仮想のライブハウスを作るアイデアが生まれました」と川本氏は話す。

『名探偵コナン』のイベントで感じた、メタバースのキラーコンテンツ

バーチャル渋谷のほか、バーチャル大阪とバーチャル原宿も生まれており、これらを「都市連動型メタバース」と名付けている。大切なのは、実在する都市をただ代替するのではなく、あくまでリアルの都市でできる体験をバーチャルでさらに拡張すること。リアルの渋谷を、デジタルによって“もっと面白くする”。そんなイメージだろう。

世界的に見ても、このような都市連動型メタバースは少なく、間違いなく渋谷は先行事例だという。

「2年以上運営する中で、どんなイベントがこの空間で価値を持つのか、キラーコンテンツもわかってきました。その1つが、アバターによるインタラクション(交流・やりとり)です」

具体例として挙がったのが、バーチャル渋谷で行われた名探偵コナンのキャラクターとの交流。アバターとして参加するユーザーは、江戸川コナンと一緒に渋谷を回遊したり、記念撮影をしたりできる。喋りかけることも可能で、当日は本物の声優を務める高山みなみがリアルタイムで声やアバター操作を担当。ファンからすればアニメの世界に入り、“本物”のコナンと同じ空間でコミュニケーションができるといっていい。リアルではあり得ない、バーチャルゆえのインタラクションだ。

「メタバースなら自分自身でコナンがいる世界に入り、交流することができます。バーチャルなので、ファンと至近距離で話したり、一緒に歩いたりしても危険がないのは大きいですね」

人気キャラクターを多数抱える日本にとって、こういったインタラクションは大きな可能性がありそうだ。

全国の自治体でも、都市連動型メタバースの注目度は高いという。とはいえ、実在の街を題材にするだけに、決して簡単にできるものではない。注意点や調整が必要なこともある。

そこでKDDIや東急、みずほリサーチ&テクノロジーズ、渋谷未来デザインで組織する「バーチャルシティコンソーシアム」では、都市連動型メタバースをどう作り発展させていくか、そのポイントをまとめた「バーチャルシティガイドラインver.1」を策定した。

実在都市との連携や著作権の管理など、さまざまな提言がされているが、なかでも川本氏が伝えたいのは「何のために都市連動型メタバースを作るのか」という目的の明確化だ。

「仮想空間を作るのは手段であり、目的ではありません。実在都市を模した仮想空間を作っただけでは“劣化版の現実”になり、人が集まらないゴーストタウンになるリスクもあります。たとえば仮想空間によって、渋谷ならではのカオスを一層楽しめる、あるいは個人の渋谷の思い出を新しい形でデジタル化できるなど、実在の都市の延長戦にあることが重要ではないでしょうか」

そんな話をした後、川本氏は、バーチャル渋谷の今後について「実際にあるお店のバーチャル版が生まれたり、ユーザー自身がお店を空間内に作れたりという世界観を実現できれば」という。

さらにインタビューの締めくくり、川本氏に「メタバースによって進化するビジネス」があるとすればどんなものか聞くと、こんな答えが返ってきた。

「いろいろあると思います。たとえばアパレルなら、リアルで買った服と同じデザインのアバター用服がついてきたら、商品の付加価値が1つ上がるかもしれません。ハロウィーンフェスで行ったような、カラオケとバーチャルライブをつなぐのも同様。さまざまなコンテンツや商品の価値がアップデートされるでしょう」

メタバースといえば仮想空間が前提だが、しかしそれはリアルから完全に切り離された空間とは限らない。むしろ、リアルとつながることで体験価値は上がるかもしれない。バーチャル渋谷の取り組みは、そんな可能性を示唆している。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2022年8月現在の情報です

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