判断のポイントは「会社員の保障」と「退職金」

最近増えている「早期退職」ってあり? なし?

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大企業を中心に、早期退職を募っている事例をニュースなどで見かけることが増えた。40~50代のうちに退職金をもらって、新たな仕事や働き方を始めるのもいいかもしれない。

「早期退職の判断は、慎重に行った方がいいでしょう。なぜかというと、現在の日本は会社員であるメリットがかなり大きいからです」

そう教えてくれたのは、ファイナンシャルプランナー兼社会保険労務士の川部紀子さん。「会社員であるメリット」とは、どのようなことが挙げられるのだろうか。

制度や法律で守られている「会社員」

「早期退職を選択した後、フリーランスで働こうと考えている人は、会社員とフリーランス(個人事業主)の違いをきちんと把握することが大切です。会社員は、法律や制度でかなり守られています」(川部さん・以下同)

制度のひとつが、社会保険関連。例えば、病気やケガで働けなくなった際に給与の3分の2程度が1年半分支給される傷病手当金は会社員だけの制度で、個人事業主は支給されない。

「個人事業主には失業保険がないので、仕事がなくなった場合の保障はありません。年金も、個人事業主になると国民年金だけで、厚生年金はなくなるため、将来的に受け取る老齢年金が減ると考えられます」

労働基準法も、基本的には会社員が対象になるという。

「個人事業主になると残業という概念が消えるので、残業代はつきませんし、長時間労働という考え方もなくなります。もし、早期退職後に、勤めていた会社から仕事をもらう形で業務を継続した場合、会社員時代と違って何時間もかかる仕事を委託される可能性もあるでしょう。長時間労働という考え方がないので、過労死という判定もなくなります。また、会社に所属していないことから解雇という概念もないため、仕事がなくなっても文句はいえません」

それなりの覚悟がないと、早期退職してフリーランスになるという選択はできなそうだ。

「もし、フリーランスになって会社員時代と同等の手取りだったら、さまざまな保障がなくなる分、マイナスです。会社員時代より稼ぐ自信や気概があれば、早期退職してフリーランスになるのもひとつの道ですが、自営業になるという認識が持てなければきちんと考えて結論を出す方がいいでしょう」

中小企業でも平均1000万円程度の退職金が出ている

早期退職すると退職金を上乗せしてくれる会社もあるが、ここも注意が必要だという。

「日本の退職金制度は“給料後払い説”といわれることもあるように、長く働いた人ほど多く受け取れるもの。また、退職金の額は毎年一律で上がっていくわけではなく、50代までは微々たるもので、定年間近になると急激に増える会社が多いのです。そのため、早めに会社を退職してしまうと、あまりもらえません。早期退職で上乗せするといっても、その年齢で退職した場合の退職金にちょっと上乗せされる程度のところがほとんどでしょう」

ちなみに、退職金の平均額は以下のように出ている。

●大企業の平均退職金額(男性)/厚生労働省「令和元年賃金事情等総合調査」より
大学卒・満期勤続の場合 2289万5000円
高校卒・満期勤続の場合 1858万9000円

●中小企業の平均退職金額/東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」より
大学卒・満期勤続の場合 1118万9000円
高校卒・満期勤続の場合 1031万4000円

中小企業であっても、1000万円程度は出ているようだ。想定より多いと感じる人もいるのではないだろうか。

「会社は、設定した退職金額を労働基準監督署に届け出ており、その金額を引き下げたり退職金そのものをなくしたりすることは、法律上かなりハードルが高いのです。退職金がどの程度出るかを知っておくことは、老後資金を準備するうえでも重要なので、『うちの会社は退職金なんてない』と早計に判断せず、会社に確認した方がいいでしょう」

勤務先で「退職金のモデルケース」を確認

では、勤め先の退職金は、どのように確認するといいのだろうか。

「会社には退職金規程があり、従業員であれば誰でも自由に見られるようになっているはずです。計算式などがややこしくて理解できないようであれば、担当部署に『うちの会社のモデルケースの退職金はいくらですか?』と、聞いてみましょう。退職金を定めている会社は、新卒で入社して一般的に出世し、定年まで働いた場合の退職金のモデルを設けています」

そこで聞いたモデルケースの退職金額が想定よりも多ければ、老後資金の準備にも余裕が生まれるだろう。しかし、必ずしも多いとは限らない。

「法律上、退職金はゼロでも問題ないので、想定より少ないもしくは退職金自体がないという場合もあります。その場合は、自分で老後資金を備える必要が出てくるでしょう。月々の貯蓄や節約はもちろん、iDeCoやつみたてNISAを使う方法もありますし、収入を増やす方法を考えるのもいいでしょう」

退職金が多くても少なくても、将来的に受け取れる金額がわかると、今後の資金計画が立てやすくなるだろう。

「退職金が少ない人は老後資金の準備について具体的に考えるきっかけになるでしょうし、多い人は老後資金以外に使えるため、日々のお金の使い方も変わってくるでしょう。退職金はとても大きなお金なので、会社に確認することをおすすめします」

あらかじめある程度の退職金額がわかっていれば、早期退職の話が出てきた際にも冷静に判断できるだろう。自分や家族の将来のために、まずは会社に確認してみよう。
(有竹亮介/verb)

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