厚生労働省に聞く「公的年金シミュレーター」誕生秘話・前編

「公的年金シミュレーター」開発のカギは、広報の専門家の意見と一般の方の視点

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2022年4月、厚生労働省が提供する「公的年金シミュレーター」の試験運用が開始。「ねんきん定期便」に記載されている二次元コードを読み取ると、将来受給可能な年金額をサクッと試算できるツールだ。

公的年金シミュレーターhttps://nenkin-shisan.mhlw.go.jp/

直感的に操作できるUIで、さまざまな働き方を想定した試算ができる「公的年金シミュレーター」だが、どのような道のりを経て誕生したのだろうか。厚生労働省年金局の的羽俊弥さん、菊地英明さん、新藤壮一郎さんに、開発の経緯について聞いた。

広報のプロと議論を重ねてできあがった「公的年金シミュレーター」

――「公的年金シミュレーター」は、いつ頃から開発がスタートしたのでしょうか?

菊地「具体的に動き出したのは、2020年7月です。村井英樹内閣総理大臣補佐官が所属されていた国民起点プロジェクトチームにおいて『ねんきん定期便』の見直しを行われた際に、老後の公的年金と私的年金、貯蓄を組み合わせて活用するためのツールをつくりたいという話をいただき、厚生労働省の年金広報検討会においてご議論いただいた後、開発に着手しました。

その中心となったのが、私たちも所属している年金広報検討会です。自治体広報アドバイザーの佐久間智之さんやPRプロデューサーの殿村美樹さんなど、広報やマーケティングに特化したメンバーで構成された会で議論を重ねながら、国内外の知見を組み合わせて、『公的年金シミュレーター』の開発が進められました」

――動き出しから形になるまでは、スムーズに進んだのですか?

菊地「当初の予定からサービス開始は2022年4月と設定されていたので、スケジュールだけで見れば順調に進んできました。ただ、現在の形になるまでには、さまざまな試行錯誤がありましたね。画面の上半分を固定し、下半分だけを動かして入力をする見せ方は当初から考えていたのですが、実は上半分のグラフの部分が円グラフの予定だったんです。海外機関とともに行った検証の結果、現在の面積グラフになったのです(※ 編集部追記:詳細は後編にて)。

また、収入を入力する欄も給与と賞与で分けていたのですが、検討会で『給与と賞与で分けて覚えている人はほとんどいないから、年収でまとめた方が入力しやすい』というご意見をいただき、現在のように年収でまとめる形になりました。なるべく入力項目を絞り、わかりやすい塩梅で年金の試算結果を出す。そのバランスが難しかったですね」

――できあがったシミュレーターは直感的に操作できて、ストレスなく利用できました。

菊地「当時の年金局長に開発の進捗を報告するたびに、『しっかりいいものをつくってくれよ』という言葉をもらっていて、我々としてもモチベーションが上がりましたね。その結果を皆さんに受け取ってもらえていたら、うれしいです」

実証実験から見えてきた「誰でも使いやすいモノ」

――情報の表示の部分以外に、調整に苦労した部分はありましたか?

菊地「言葉の表現ですね。年金に関する用語はもちろんですが、操作に関しても、いかにわかりやすく伝えるかを意識しました」

的羽「情報を正確にきちんと伝えようとすると、文字量が増えたり表現が難しくなったりしがちなんですよね。そこを極力シンプルにわかりやすくするのが、年金広報検討会の使命のひとつでもあるので、丁寧に考えていった記憶があります」

菊地「そのために、プロトタイプができた2021年12月から実証実験を行いました。数人のユーザーさんに試していただき、使いにくかった部分、操作に困った部分などを、一人につき2時間ほどかけて聞いていったんです。

当時は、サイト上に『グラフで試算しましょう。自動入力が可能です。』としか記載していなかったので、次にどう行動すればいいかわからないユーザーさんが多くいました。現在はそこを改善して、『スクロールして働き方・暮らし方をご入力ください。』と記載しています」

――「スクロールして入力」と書かれていれば、次に何をすればいいかわかりますよね。

菊地「そうですよね。ユーザーテストでは、ユーザーさんの年金の知識だけではなくITリテラシーを重視していました。スマートフォンをあまり使ったことがない人がどのくらい使えるかが、カギだったからです。ユーザーさんに試してもらったことで見えてきた部分も、たくさんありましたね。

我々開発側の人間は年金制度やWeb画面の仕組みをわかってしまっているので、金制度がよく分からない方やIT機器の操作が苦手な人の気持ちがわからなくなるんですよね。だから、ある程度つくったら、初めて利用する人に操作してもらって、そのフィードバックをもとに初心に戻ってブラッシュアップしていく。この作業の大切さを、改めて実感しました」

アクセス数は公開4か月で約67万件、1週間ごとに5万~6万件増

――4月に試験運用を始めてから、利用率はどのように推移していますか?

菊地「トップページのアクセス数と試算ページのアクセス数が徐々に近くなっていて、これは、操作の途中で離脱してしまう人が減ってきていることを意味しています。また、アクセス数は1週間ごとに5万~6万件ずつ純増し、公開4か月で約67万件。2022年4月以降に発行された『ねんきん定期便』が対象となっているので、順次手元に届いた方が『公的年金シミュレーター』の存在を知って、試算しているのだと思います」

的羽「『ねんきん定期便』の二次元コードを読み取っていただくと、過去のご自身の加入記録を踏まえた試算ページに遷移する仕組みになっているので、より個々の状況に応じた将来が見えてくると考えています」

菊地「なので、重要なのは『ねんきん定期便』を見ていただくことでもあるんですよね。『ねんきん定期便』が届いたら捨てないが一歩目、開封するが二歩目、内容を理解して二次元コードを活用して試算するが三歩目。このステップを踏んでもらえるように工夫していくことが、今後の課題といえるかもしれません。

ちなみに、『公的年金シミュレーター』の利用にあたって、IDやパスワードの登録などは必要ありません。個人情報を入力する必要もないので、気軽に試していただきやすいのではないかと思っています。まずは使ってみていただけるとうれしいです」

年金に関しても操作に関しても、“いかにわかりやすく伝えるか”を重視して開発された「公的年金シミュレーター」。後編では、さらに“伝えること”の重要性について、深掘りしていこう。

(取材・文/有竹亮介(verb) 撮影/森カズシゲ)

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