マネ部的トレンドワード

未来の食に対する救世主

追いかける立場の日本が「フードテック」で持つ強みとは

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未来の産業につながるトレンドについて深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。フードテック編の1回目となる本記事では、フードテックがどんなものなのか、また、世界の中で日本はどんな立ち位置なのかを明らかにしたい。

環境問題などで未来の食料確保に不安が広がる中、その救世主として「フードテック」に期待が集まっている。フードテックとは、読んで字のごとく「食べ物×テクノロジー」のこと。農業や食品加工に最先端技術を持ち込むことで、いままでにない新たな食を作っていこうというものだ。

ここ数年で世界中の企業がフードテックに力を入れており、すでに商品化されたものもある。まさにいま熱い分野だ。そこで今回、この分野に詳しい日本総研 創発戦略センター エクスパートの三輪泰史氏に取材。フードテックの実態を聞いた。

多岐にわたるフードテック。すでに市販化されているケースも

はじめに、フードテックとはどんなものなのか明確にしたい。ひとくちに「食べ物×テクノロジー」と言っても、それによって生み出される食品はさまざまだ。三輪氏は、現時点でのフードテックの代表ジャンルとして、以下のようなものを挙げる。

・代替肉:大きく2つあり、1つは大豆などの植物性素材を使い、見た目や味わいを肉に近づけた「植物肉」。もう1つは、細胞培養によって作られた「培養肉」や「培養魚肉」
・昆虫食:これまでほとんど食べなかった昆虫を加工した食材
・藻類食品:藻類を加工した食材
・陸上養殖:人間が陸上の水槽で養殖した魚介類
・スマート農業:農業にテクノロジーを導入し生産性や効率化を図ること

これ以外にも、室内の機械設備で栽培を人工的に行う「植物工場」などもある。フードテックといっても非常に幅広いのが実態だ。

そして、この中で多くの人に馴染みがあるのは「代替肉」、なかでも「植物肉」だろう。なぜなら、すでに市販化が進んでいるからだ。三輪氏が説明する。

「大豆由来のタンパク質で作られた植物肉の商品は、スーパーなどに多数並んでおり、外食産業でも提供されています。植物肉の開発がいち早く進んだ理由として、宗教上の理由で肉が食べられない方や菜食主義者の方のニーズに応えるとともに、牛や豚などの飼育は環境負荷が高く、その対策として作られてきた背景もあります」

冒頭で述べたとおり、フードテックの注目度が増した大きな理由の1つに環境問題がある。たとえば牛は飼育する中で多くの温室効果ガスを排出するといわれる。また、近年の気候変動で魚介類を安定して獲れないケースも増えてきた。乱獲などの問題も絶えない。これらを解決する手段としてフードテックが注目されてきた。

そしてもう1つ、フードテックと密接に関わるのが「タンパク質危機」と言われる未来の食料課題である。

「タンパク質危機とは、世界的な人口増加により、2030年までにはタンパク質の需要と供給のバランスが崩れるという予測です。これまでどおり肉を中心にタンパク質を摂ろうとすると、厳しい状況になるかもしれません。特に、肉食に偏重している欧米では深刻な問題に。そこで、打開策として代替肉などのフードテックが研究されているのです」

代替肉だけでなく、昆虫食もタンパク質不足と関連するフードテックの1つ。昆虫の中には、コオロギをはじめ良質なタンパク質を保有する虫が多数いる。これらをテクノロジーによって食べられるように加工すれば、肉に替わるタンパク源になるというものだ。

なお、これ以外にフードテックが盛り上がる背景として「食料価格が近年高騰していることなども挙げられる」という。

日本は代替肉の先進国。大豆の加工技術が必ず生きる

こうして盛り上がりを見せるフードテックだが、日本の立ち位置はどんなものなのだろうか。たとえば日本とアメリカのフードテックに対する投資額を見ると「アメリカの方が1ケタほど投資額が多い」と三輪氏はいう。

「その違いが生まれた背景として、そもそもの市場の大きさに加え、アメリカは研究開発の活発化した時期が早かったことが挙げられます。また、フードテックの関連企業はスタートアップが多いのですが、アメリカは日本に比べてスタートアップが活躍しやすい国ということもあるでしょう。日本は追いかける立場にあり、ようやく官民ファンドやベンチャーキャピタルがこの分野のスタートアップに出資するケースが増えてきました」

ただ、日本が遅れているからといって、勝ち目がないわけではない。むしろ「日本には大きな強みがある」と三輪氏は考える。

「フードテックの中でも一番勢いがあるのは大豆タンパクを使った植物肉ですが、そもそも日本は大豆を加工して食べる文化が定着しています。たとえば“がんもどき”は、植物肉と同じ発想ですよね。もとは肉の代用品として作られた精進料理ですから。つまり、大豆などの加工技術が非常に高い。その蓄積は生きるのではないでしょうか」

そのほか、三輪氏は日本が強いフードテック分野として「陸上養殖」も挙げる。

「従来の海産物においても日本の養殖技術は高く、たとえば国産の養殖ホタテは世界的に有名です。日本人の味に対する評価は非常にシビアであり、その中で洗練された加工や養殖技術が育まれたのでしょう。これは陸上養殖でも今後生きるはずです」

ここまではフードテックの概要や日本の立ち位置を聞いてきたが、最後に、この分野が盛り上がることにより日本の産業にどんな影響を与えるのかも考えたい。三輪氏は、フードテックによって2つの産業が盛り上がると期待する。

「1つは食品加工業です。フードテックの食品は素材のままで提供するよりも、何かに加工して最終商品化するケースが増えるでしょう。たとえば代替肉の市販品も、ハンバーグやソーセージなどに加工されているケースが多くあります。だとすると、食品加工の分野は伸びると思います」

そしてもう1つ、三輪氏は「日本の農林水産業もフードテックによって盛り上がる」と考える。その例として、植物肉が普及すれば大豆の需要が増え、日本の農家にとって新しい「有望な作物」になる。すでに、大豆農家に対して植物肉に関する説明会を行うケースも増えているという。

ただし、大豆の需要が増えても、輸入品でまかなうことになれば日本の大豆農家が享受できるメリットは少ない。実際、日本の大豆の自給率は決して高くない。

「そこで日本政府の支援も必要になります。たとえば、輸入品は輸送時にCO2を排出するなど、環境負荷が高くなる可能性も。これはフードテックの主旨から外れます。それならば、商品ごとにかかった環境負荷を消費者にわかりやすく伝える表示制度などを設けて、国産で環境負荷の低いものを食べようという気運を官民一体で作っていくことが必要です」

そうなれば、日本の食品加工業から農林水産業まで好影響を及ぼす未来もあり得る。「つまり、フードテックは食品分野の川上から川下までを盛り上げる可能性を秘めているのです」と三輪氏は予見する。

私たちの「未来の食」を担うフードテック。今後、一体どのような発展をしていくのか。次回以降、実際にフードテックの取り組みを行う企業に取材し、その最前線を見ていきたい。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2022年10月現在の情報です

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