マネ部的トレンドワード

日本の代替肉を牽引

動物性原材料は一切ナシ。改良を重ね続けた「ゼロミート」が人気

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ゼロミートハンバーグのパワーサラダ

これから市場を盛り上げそうなトレンドについて深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。フードテック編の2回目となる本記事では、大塚食品の手がける代替肉の人気ブランド「ゼロミート」を取り上げる。

フードテックにはさまざまなカテゴリがあるが、いち早く世の中に浸透しているのが、肉の代わりに大豆を使った代替肉(植物肉)である。実際、スーパーなどで見かけたことのある人も多いだろう。

そして、日本の代替肉市場で存在感を示すのが「ゼロミート」だ。発売以来、何度も改良を重ねたというこのシリーズは、工業製品に使われてきたリバースエンジニアリングの考え方を用いて、味や食感を高めているという。ゼロミートの歩みについて、大塚食品の製品担当者から話を聞いた。

大手ファミレスチェーンでも、全店舗でメニューに採用

「ゼロミート」シリーズは、肉の代わりに大豆加工食品を使った商品群。2018年に発売され、2021年9月からは肉だけでなく、乳や卵、調味料に至るまで、動物性原材料を一切使用しない商品となった。


商品のラインナップは大きく4ジャンル。ハンバーグ、ソーセージ、ハム、そして2022年8月からは餃子も加わった。さらに各ジャンルにおいても、ハンバーグならデミグラスタイプやチーズインデミグラスタイプがあり、2022年8月からは、お好みでアレンジしやすいソース無しの鉄板焼きハンバーグプレーンタイプとチーズインタイプ(冷凍カテゴリー)が追加された。ソーセージも、通常のタイプとハーブソーセージタイプがある。

「こういった市販品のほか、ゼロミートはレストランなどの外食やお惣菜などの中食でも提供されています。たとえばデニーズでは、2021年にゼロミートを使ったメニューを30店舗ほどで試験導入。お客さまの反応も良く、2022年からは全店舗で『ゼロミートハンバーグのパワーサラダ』を提供しています」(大塚食品 製品担当者。以下同)

発売は2018年だが、もちろんその前から大塚食品ではこういった植物性食品の研究開発を進めていた。理由として「未来に向けた持続可能な食文化の必要性を感じていたからです」とのこと。その中で、人の健康にも、そして地球の環境にも良い食品を作ろうと考えていた。

「人の健康については、戦後、西洋の食文化が入る中で肥満や生活習慣病の問題が深刻化しました。また地球環境については、発展途上国でも肉の消費が増えるにつれ、畜産による環境への影響が深刻に。たとえば牛のゲップは多くの温室効果ガスを排出することで有名ですし、また、畜産には餌となる穀物や水が大量に必要です。これらの資源の危機も叫ばれています」

日本はそれほどでもないが、世界的には水資源の不足が問題となりつつある。こういった背景において「単純に『肉を食べるのをやめよう』というのではなく、新しい食の選択肢として、おいしくて健康にも環境にも良いものを作りたいという思いがありました」という。

改良に使われた「リバースエンジニアリング」とは

ゼロミートは、おいしさや食感に強くこだわり、何度も改良とリニューアルを繰り返してきた。大豆由来の特徴的な香りを抑えながら、ハンバーグのおいしい味や食感をどう出せるか、日進月歩で進化させていったという。

そういった改良のために取り入れた手法がある。工業製品で使われる「リバースエンジニアリング」だ。これは、既存の製品を一度分解して中身を分析し、その構造や仕組みを理解する手法だ。これをゼロミートにも生かしたという。

「ハンバーグの中身の組成(成分や要素の構造)を分析し、大豆でそれを再現するためにはどうすれば良いか考えたのです。一例として、脂肪酸組成と呼ばれる油の入り方を見て、ゼロミートで同じ組成ができるよう研究しました」

そのほか、顕微鏡でハンバーグを拡大し、細かな肉の形や肉と肉の隙間のでき方、弾力性などを確認。ゼロミートの出来上がりも似たものになるよう作っていった。こういった手法は、大塚食品でも初めてだったという。

一般的な肉のハンバーグ
ゼロミート

冒頭で述べたように、ゼロミートは2021年9月から動物性原材料不使用となった。とはいえ、卵や乳、動物性油脂を使わず味を高めるのは簡単ではない。たとえば卵なら、「加熱して程よく固まる特性は卵ならではであり、ハンバーグのまとまりを生むには非常に重要」とのこと。「卵を使わずハンバーグらしい食感や保形性を出すのは簡単ではなく、いろいろな知恵を絞りました」と、担当者は振り返る。

市場の伸び代は? 「JAS規格」も追い風に

そんな努力も作用したのか、ゼロミートに携わる中で、2020年頃から代替肉のニーズが急速に高まってきたことを感じたという。前述のデニーズの事例もその1つだろう。また、2018年頃は購買層が50代60代の女性中心だったが、ここ2年は20代、30代の購買も増えているとのこと。

では今後、代替肉の市場はどこまで伸びていくのだろう。簡単には予測できないが、担当者は1つの参考として、アメリカとの比較から“日本の伸び代”を口にする。

「アメリカの畜肉市場は約3.6兆円あり、対する代替肉の市場は約1900億円。5.3%ほどになっています。一方、日本は畜肉市場が約1.3兆円に対し、代替肉は約30億円。0.23%ほどです。アメリカはもともと肉の消費が多いので単純比較はできませんが、それでも日本はまだ伸びる余地があるのではないでしょうか」

ひと足先に代替肉が普及したアメリカに対し、日本はまだ“これから”のフェーズ。それを後押しするように、2022年2月には大豆ミート食品類のJAS規格(日本農林規格)も制定された。その中で、大豆たんぱく質含有率が10%以上であるなど、より厳しい規格となる「大豆ミート食品」を日本で初めて取得したのがゼロミートだった。

大塚食品が2022年2月に行ったアンケート調査によると、大豆ミートの認知率は75.4%、喫食経験率は24.8%だったという。この結果に対し、大塚食品では「知っているけれど、食べたことのない方はまだまだ多い現状」と課題感を示す。そして、食べたことのない理由として「おいしくなさそう」「どう調理していいかわからない」というイメージがあることを挙げる。

だからこそ、ひたすら味にこだわり、そして商品も、ハンバーグなど“調理の必要がない形”で提供しているという。もちろん、まだまだ進化は続くだろう。

日本でもにわかに脚光を浴び始めた代替肉。その市場を牽引するゼロミートは、関わる人たちのこだわりの結晶が詰まっている。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2022年10月現在の情報です

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