自分の保有資産を診断するツール
株を買った後のアクションを後押し。SBI証券の「ポトフォる」
投資を始めた人がまずどんな株を買えばいいのか、その一歩目を手助けするサービスは増えてきた。しかし、初心者が大いに悩むポイントは他にもある。たとえば、買った株の「売り時」だ。果たしてこの株をいつまで持ち続けるべきなのか、いつ手放したらいいのか。初心者にとって本当に難しいのは、株の売り時だという見方もある。
そんな悩みを解決すべく、SBI証券から新しいサービスが出ている。「ポトフォる」というもので、自身がいま持っている銘柄を診断し、次の一手につながる提案をしてくれる。どういったサービスで、どんなメカニズムで診断を行うのか。開発したSBI証券 サービス開発部 サービス開発室長 兼 サービスプロデューサーの稲場浩紀氏に話を聞いた。
投資家の保有する銘柄について、A~Eでスコアを判定
「ポトフォる」は、2022年9月4日から提供開始されたサービスで、SBI証券の総合口座を開設している人なら誰でも無料で利用できる。具体的には、SBI証券のサイト内に「My資産」という、自分の現在保有している資産のポートフォリオや評価損益、資産推移などが見られるページがある。このページからポトフォるを利用できる。
では、ポトフォるとはどんなサービスなのだろうか。はじめに、ユーザーは今後の経済見通しに関する3~5個の質問に答える。たとえば今後、ドル円は円高と円安のどちらに向かうと思うか、あるいは原油価格や米国株は今後、上下どちらに動くと思うかなど。日本経済と関連の深い項目について、今後どう推移すると考えるのか、ユーザーの思い浮かべる経済シナリオを答えていく。
なお、この質問項目は「ライトモード」と「プロモード」の2種類があり、ライトモードでは3項目(ドル円・原油・米国株)の自身の予想、プロモードでは5項目(前述の3項目に加え、中国株・米国金利)の自身の予想を回答する。また、ライトモードの回答は2択(上がるか下がるか)だが、プロモードはより細かく5択で回答する。
そして、診断サービスとしての機能はここからだ。先の質問からユーザーの考える今後の経済シナリオがわかるので、そのシナリオに対し、現在保有している株(※現物の国内株式に限る)のスコアを出してくれる。
「お客さまが保有されている銘柄について、ご自身の予測する経済シナリオに合っているのか、それぞれA~Eで判定します。A判定なら持ち続ける、E判定なら手放すなどの判断につながるでしょう」(稲場氏、以下同)
加えて、ポトフォるでは現在のポートフォリオに対するリバランスプランも提案。予想する経済シナリオをふまえ、どんな業種の銘柄を何%保有すればよいかグラフで示す形だ。ユーザーはそれを見て、現在の保有銘柄で削る業種や増やす業種、新たに追加する業種を考えられる。
「なお、ポトフォるでは個別企業の銘柄を提案するのではなく、あくまで17に分類した業種で示します。また、その業種に合致するETFをレコメンドします」
17分類の業種は、野村アセットマネジメントが運用するNEXT FUNDS「TOPIX-17」の業種別ETFシリーズがもとになっており、ポトフォるでもこのETFシリーズおよび「NEXT FUNDS 東証銀行業株価指数連動型上場投信(1615)」の中からレコメンドする。
稲場氏は「ポトフォるの診断を判断材料の1つにしていただき、お客さまの次のアクションを後押しできればと思っています」という。
診断のメカニズムは? 投資の王道手法を活用
ここまで聞いて気になるのが、診断のメカニズムだ。どのような仕組みでA~Eの判定やリバランスの提案をしているのか。稲場氏はその仕組みをこう説明する。
「ポトフォるでは『相関係数』を活用して診断を行っています。具体的には、質問で聞いたドル円為替レートや原油価格などの項目について、過去5年間(60ヶ月)のマクロ指標をインプットし、その値動きと17業種のETFの値動きの相関係数を算出。これをもとにスコアを出しています」
相関係数とは、変化する2つの数の関係の強さを示すもので、投資の世界で長く使われてきた。例として、原油価格はエネルギー株と連動しやすく、原油価格が上がるとエネルギー株も上がることが多い。これは「相関係数が高い」となる。原油価格が上がったときに株価の下がりやすい業種も相関係数は高い。
こういった相関係数をもとに、診断を行う。仮にユーザーが最初の質問で「原油価格は上がる」と予測していれば、原油価格と相関係数が高く、株価の上がりやすい業種の銘柄は良好なスコアとなる。
「最近はAIを使った全自動のロボアドバイザーも多いですが、それらはお客さまにとって、なぜこの銘柄の株を購入したのかという根拠が分かりにくいこともあります。その点、ポトフォるは相関係数を使うので、根拠を明確に説明することが可能です。お客さまの納得感につながるのではないでしょうか。また、使ううちに為替や原油といった項目がどの業種に影響を与えやすいか、学びにもなると考えています」
開発理由の1つは「コロナ禍で投資を始めた人の苦悩」
このサービスを開発した稲場氏は、前職において、対面で顧客と接する証券会社にいた。そこからSBI証券へと移ったが、その中で1つの課題を感じていたという。そして、その課題がポトフォる誕生につながった。
「課題というのは、SBI証券のようなネット証券は、どうしてもお客さまとの距離が遠くなることです。前職では毎日のようにお客さまとお電話や対面でお話をし、資産状況の診断やご相談に乗る場面がありましたが、ネット証券ではそれが難しい。この課題を解決するために、保有資産を診断するサービスを提供できればと思いました」
さらに、コロナ禍で投資を始めた人は増えたが、その人たちが“いま置かれている状況”を考えると、よりこのサービスの必要性を感じたという。
「コロナ禍に入った2020年、2021年は、相場が右肩上がりで、投資を始めてから利益が出ている方も多いでしょう。しかし、その保有資産をいつ売るべきか悩んでいるケースも少なくありません」
さらに2022年は相場が荒れ気味で、初心者は保有株をどうすべきか難しい判断を迫られている。「すでに株は持っているけど、まだ経験が浅く、次のアクションがわからないという投資家の後押しになればと思ったのです」
こういった初心者向けのサービスであるため、スコア判定もなるべく分かりやすく、視覚的に理解できるようにしたという。また、前半の質問についても、回答のページから参考情報や補足データを閲覧できるなど、まだ知識の十分でないユーザーも学べる設計になっている。
「現在、ポトフォるは日本株のみが対象ですが、今後は米国株なども含めて診断できるようにしたいですね。また、業種だけでなく『AI(人工知能)』や『EV(電気自動車)』など、投資テーマごとのスコア判定もできればと思います」
なお、ユーザーが最初に答える質問については、その回答自体が、いま個人投資家がどんな先行きを予測しているのか、現状を表す有用なデータになる。こういったものの有効活用も考えているようだ。
買った株をどうすれば良いのかわからない――。投資初心者なら避けては通れない悩みに対して、ポトフォるは次のアクションを後押ししていく。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2022年10月現在の情報です