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本格緩和は2024年? 中国のゼロコロナ政策の行方

提供元:東洋証券

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中国の厳しい「ゼロコロナ政策」が当面は継続する見通しだ。同政策は経済や景気の下押し圧力になっており、株式市場でもネガティブ材料視されているが、政府側は医療崩壊を危惧しており、共存論(ウィズ・コロナ)など次の一手に踏み込めない状況にある。ただ、いつかは見直しや緩和に動くもの。そのポイントの一つになるワクチン接種から今後の展開を占ってみる。

意外と知られていないゼロ政策の内実

まず、「ゼロコロナ」という言葉。中国では「零容認」「零感染」などと称されるが、必ずしも明確な定義があるわけではない。現地の状況や対策を踏まえて言えば、「大規模なPCR検査」「徹底的な隔離」「厳格な水際対策」がコロナ封じ込めの3本柱だ。

このゼロコロナという政策あるいは概念は、2021年後半頃から「動態清零(ダイナミックゼロ)」という言葉に置き換えられるようになった。中国衛生当局は21年12月、「動態清零」と「零感染」の違いを初めて明確にしたが、それによると、前者は「感染源の積極的発見」「有効的な患者手当て」「重症化防止」「重症者と死亡者の減少」などと定義される。ゼロ感染を目指すというよりは、感染者が出た場合でも迅速なPCR検査や隔離を行い、封じ込めと感染拡大防止により注力する方策と理解できよう。

ちなみに、中国ではネガティブ感がある言葉は優しいニュアンスに変えられることがよくある。ロックダウン(都市封鎖)を指す「封城」という表現は、最近では「静態管理」と言い換えられている。その内実は変わらないのだが。

ゼロ政策脱却のヒントは、新型コロナ対策の専門家チームが挙げていた流行収束の四つの具体的条件だ。これは22年3月に提示されたもので、(1)ウイルスの弱毒化と発病率・感染力の低下、(2)ワクチンの効果向上、(3)特効薬の登場、(4)他国の感染状況の収まり、となる。これは他国・地域と概ね同じ考えだろう。(1)と(4)は多少他力本願的だが、(2)と(3)は積極的な取り組みである。

中国では21年3月頃からワクチン接種が大々的に行われてきた。国産ワクチンへのこだわりが強く、2回接種の「シノバック」と「シノファーム」(いずれも不活化タイプ)、1回接種の「カンシノ」(遺伝子組み換え型)が主に使われている(米ファイザーなど海外製ワクチンの接種は皆無)。もっとも、接種後の抗体検査で「陽性」が出ない場合も多く、その効果のほどは疑問視されてきた。

中国内でもメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの待望論があり、各社が開発・臨床試験を進めている。これまでなかなか成果が見られなかったのだが、9月29日に人民網(人民日報のネット版)が「中国が開発した初の新型コロナウイルスのmRNAワクチンがインドネシアで認可された」と報じた。雲南沃森生物技術(ワルバックス・バイオテクノロジー、300142)などが開発し、摂氏2~8度で保存可能という触れ込みだ。

実は、ファイザー製は中国の復星医薬集団が中国で独占的に生産・販売する権利を取得済みだが、1年以上が経過しても承認には至っていない。香港やマカオではファイザーを接種できるのに、中国大陸では不可というちぐはぐな状況だ。モデルナも中国進出を試みていたが、フィナンシャル・タイムズ(FT)によると「中国側が技術移転を対中販売の前提条件としたため」協議が決裂したという。いずれにせよ、中国の貧弱なコールドチェーンでは低温輸送・保管に難があり、導入のハードルは元々高いともされている。

足元で接種激減、待たれるmRNAワクチンの導入

さて、足元の状況を見ると、中国ではワクチン接種回数が激減している。月間接種回数は、昨夏は4億~5億回の時もあり、今年も3月までは1億回以上をキープしていた。ただその後は急にペースが落ち、8月は910万回、9月は413万回にとどまった。背景には、接種の一巡(打ち尽くし)、PCR検査優先という社会的雰囲気などがあると思われる。

もう一つ考えられるのは、現状を打破する“ゲームチェンジャー”としてのmRNAワクチンの導入を前に、接種回数をコントロールしているという説だ。前述の国産mRNAワクチンも間もなく中国国内で認可される可能性がある。また、これまで頑なに拒んできた(ように見える)ファイザーやモデルナのワクチンを導入する機運が高まってきてもおかしくはないだろう。

こうなると現行政策からの脱却の道筋が見えてきそうだが、長い道のりになるのも事実。仮に、22年年末から来春にかけてmRNAワクチンの接種を開始し、人口の90%程度の接種完了まで8~12カ月と見積もれば、本格緩和は24年以降にずれ込む可能性もある。やや悲観的なシナリオかもしれないが、現状に鑑みるとこのような結論も出てきてしまう。

一方、ゼロ政策の看板は掲げ続けるものの、同時にその内容の微修正も行っていくだろう。そもそもの話だが、中国では現在、コロナに感染していなくても隔離施設に強制的に連れていかれるのである。細かくなってしまい恐縮だが、(1)コロナ感染者は医療機関などに強制移送され治癒後は7日間の在宅健康観察、(2)無症状感染者は「方艙医院」(仮設病院)で最低7日間の集中隔離、(3)濃厚接触者は「集中隔離7日間+在宅健康観察3日間」、(4)濃厚接触者の濃厚接触者(二次接触者)は「在宅医学観察7日間」、などとなっている。さらには、(5)海外からの入国者は「集中隔離7日間+自宅健康観察3日間」、というのもある。この10日間はもちろん部屋のドアからすら出られない。

これらの規定は今年6月に改定された「新型肺炎防控方案(第九版)」によるもの。厳しい内容に見えるが、これでもだいぶ緩和された方だ。今後は、例えば「無症状感染者の自宅療養容認」「海外からの入国者の隔離期間短縮」など少しずつ再改定していくのが現実的な解だろうか。十分とは言えない「小出しの緩和」になるだろうが、株式市場でもその都度好材料視されるかもしれない。ワクチン接種の進展と隔離規制などの緩和はセットで考えるべきことである。

世界がウィズ・コロナへ転換し、国や地域を跨ぐ移動を全面解禁し始めている中、中国のゼロコロナ政策は異様に見えるかもしれない。ただ、中国では、14億人という人口、不十分な医療体制などに加え、ここ3年近くで市民の間に根付いてしまった「コロナは悪」という観念などがあり、政策の急転換は混乱をもたらすだけという見方があるのも事実。中国の“国情”に鑑みると慎重に歩みを進めていくのが、唯一とは言えないまでも最善の方策と思われる。

(提供元:東洋証券)

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