マネ部的トレンドワード

日清食品HDと東京大学によるフードテック

「カップヌードル」生みの親の精神は、培養ステーキ肉に受け継がれている

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未来の市場を盛り上げそうなトレンドについて深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。フードテック編5回目の本記事では、日清食品ホールディングス(以下、日清食品HD)の「培養ステーキ肉」プロジェクトを紹介する。

いまや国民食となった日清食品の「カップヌードル」や「チキンラーメン」。これらを生み出した創業者・安藤百福は、戦後の食糧難の時代に「いつでも、簡単においしく食べられるものを作りたい」という思いで即席麺の開発に心血を注いだ。

その信念は、いまも同社の企業理念として生き続けている。「食創為世 (しょくそういせい)」。食を創り、世の為につくす。そんな思いが込められた言葉だ。

この精神は、同社が現在進行形で行うフードテック研究の原動力にもなっている。「培養肉」への取り組みだ。しかも、培養肉の中でも難易度の高い「培養ステーキ肉」に挑戦している。

取り組みの中身やその根底にある思いについて、日清食品グループ グローバルイノベーション研究センター 健康科学研究部の古橋麻衣氏に聞いた。

世界の主流から逸れても、培養ステーキ肉にこだわる理由

未来の「タンパク質危機」が叫ばれている。世界人口がこのまま増えれば、早くて2030年頃にはタンパク質の需要と供給のバランスが崩れるという。端的に言えば、肉をはじめ、タンパク質を含んだ食材が足りなくなるということだ。

その解決策として期待されているのが「培養肉」だ。牛などから細胞を抽出し、それを培養して肉にしていく。日清食品HDでも、培養肉の研究に取り組んでいる。

「培養肉の研究で主流となっているのは、増やした細胞を固めて肉にする方法。ミンチ肉のようなイメージです。しかし私たちが目指すのは、厚みを持ったステーキ肉を作ること。厚みを生むというステップが増える分、ハードルは高く開発の時間もかかりますが、肉本来の食感は“厚みを持った筋組織の立体構造”から生み出されます。消費者のニーズや、食べたい肉の姿をふまえて、こちらを目指すことにしました」

同社が培養ステーキ肉の研究を始めたのは2017年8月のこと。東京大学 大学院情報理工学系研究科の竹内昌治教授と研究グループを作って進めている。

では、どのように培養ステーキ肉を作るのか。大きくは2つのフェーズがあるという。1つは「細胞を増やす」フェーズ、もう1つが厚みとなる「組織を作るフェーズ」だ。

「やはり重要なのは組織を作るフェーズです。この際のポイントは、生体の筋肉と同じように、筋線維を一方向に揃えて培養すること。それが肉の食感や噛みごたえを生むと考えているからです。ミンチ肉のように固めた細胞肉は筋繊維の方向がバラバラであり、肉の食感を生みにくいといえます」

なお、培養肉の“厚さ”を出すには別の難しさもある。たとえば肉が厚くなると、培養に必要な栄養分が肉の中心部まで届きにくくなるという。こういった課題を乗り越えることが、培養ステーキ肉を実現するポイントになる。

「そのほか私たちがこだわっているのは、培養肉にも筋肉の収縮機能を持たせることです。たとえば生体の筋肉は、電気刺激を与えると収縮します。この収縮機能も肉の味わいに関係していると考えており、筋線維が揃い、かつ収縮機能を持つ培養ステーキ肉を作ろうとしています」

すでに「世界初」も達成。2025年までに掲げる目標とは

2017年から始まった研究は、すでに成果が出ている。まずは2019年3月、世界初となるサイコロステーキ状(1cm×0.8cm×0.7cm)の培養肉の作製に成功した。上述した収縮機能をも持っていたという。

ただし、この培養肉は研究用素材などが使われており、厳密には食べられないもの。しかし2022年3月、今度は「食べられる培養肉」の作製に成功した。

「食用可能な素材のみを使って培養肉を作製することに成功しました。厚さは0.1cmとまだまだ不十分ですが、横に広げるのは現在の技術で可能です。今回作ったものは約4.5cm×約2cm×約0.1cmのサイズとなっています」

取材当日、古橋氏の手元にあったのは、この実験で作製した培養肉の一部。現時点における、大切な研究の成果だ。

さらにこれからの目標として、2025年3月までに7cm×7cm×2cmの培養ステーキ肉作製を目指すという。

「今後のポイントは、まず技術面で肉の厚みを出していくこと。それと同時に、消費者の方に正しい情報を伝えていくことも重要です。培養肉の注目度は上がっていますが、アンケートで実際に食べてみたいかを聞くと、積極的に食べたい方はまだ3割ほどという結果も。消費者の方に培養肉の意義や安全性を伝え、魅力を感じていただくことも大切だと思っています」

そういったハードルを越えれば、私たちが食べる肉の選択肢が広がり、タンパク質危機などの打開策となり得る。日清食品HDが研究を重ねる原動力も、すべてはそこにある。

「お肉が好きな方はたくさんいます。だからこそ、食品メーカーとしてお肉を食べられない、手に取れない未来にはしたくありません。これまでどおり畜肉を食べたいという価値観も大事ですし、一方で培養肉や植物肉など、新しい選択肢も増やせればと思います」

日清食品HDが取り組む、培養ステーキ肉への挑戦。その根底には、新しい発想と技術によって世の中のために革新的な製品を生み出したいという思いがある。東大研究室で生き生きと語るメンバーの姿には、確かに創業者が唱えた「食創為世」の信念が宿っていた。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2022年11月現在の情報です

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