リタイア後のマネー事情

「遺贈」で残した財産にかかる相続税は2割増し!?

家族以外にも財産を残せる「遺贈」ってどんな方法?

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定年間近となり、老後の生活だけでなく終活も視野に入れ始めているという人もいるかもしれない。終活を行うにあたって考えるべき項目のひとつが、財産の残し方だろう。

財産は、法定相続人となる配偶者や子ども、親にのみ残されるわけではなく、「遺贈」という方法を使えば法定相続人以外の人や団体にも残すことができる。そこで「遺贈」について、ファイナンシャルプランナー兼社会保険労務士の川部紀子さんに教えてもらった。

財産の残し方は「贈与」「相続」「遺贈」の3つ

「まず、財産の残し方として、『贈与』『相続』『遺贈』の3つがあることを知っておきましょう」(川部さん・以下同)

●贈与
生きている間に、人や団体に財産を譲ること。贈与税が発生する。

●相続
亡くなった後に、相続人が財産を引き継ぐこと。相続税が発生する。法定相続人に当たるのは、被相続人(亡くなった人)の配偶者と血族(子ども、親、兄弟姉妹)。

●遺贈
生きている間に残した遺言をもとに、亡くなった後、法定相続人や法定相続人以外の人、団体に財産を譲ること。相続税が発生する。

「法定相続人に当たらない孫や甥っ子、姪っ子、子どもの配偶者、学校や法人などの団体に財産を残したい場合は、『遺贈』を行わなければいけません。その際に必要な遺言は、ただのメモでは法的効力が認められないので、法律で定められた方法で作成しましょう。自分で書くこともできますが、不備があると遺言として認められないので、公証人に依頼して作成する方が確実です」

「遺贈」で発生する税金は「相続税」だけではない?

「遺贈」には「贈る」という漢字が使われているため、贈与税が発生すると思ってしまいそうだが、実際に発生するのは相続税。法定相続人以外の人や団体は、法定相続人よりも税金が高くなるという。

「法定相続人以外の人や団体が『遺贈』で譲り受ける場合は、法定相続人に課せられる相続税の2割増しになります。受け取った財産から差し引かれるものなので、負債を背負うわけではありませんが、それなりの税金がかかると考えた方がいいかもしれません」

どの程度の税金が発生するのか、シミュレーションしてみよう。

□シミュレーションの条件
□シミュレーションの条件
被相続人:夫
法定相続人:妻、長男、長女
遺贈する相手:孫
相続財産:2億円
取得割合:妻5分の2、長男・長女・孫5分の1ずつ

(1)相続財産から基礎控除(法定相続人3人)を引く
2億円-(3000万円+600万円×3人)=1億5200万円

(2)法定相続分(孫は含めない)で分割し、税額を算出する
【法定相続分】
妻:1億5200万円×1/2=7600万円
長男・長女:1億5200万円×1/4=3800万円

【税額】
法定相続分1億円以下の税率:30%(控除額700万円)
法定相続分5000万円以下の税率:20%(控除額200万円)

妻:7600万円×30%-700万円=1580万円
長男・長女:3800万円×20%-200万円=560万円
相続税の総額:1580万円+560万円+560万円=2700万円

(3)取得割合に応じて相続税を配分する
妻:配偶者控除(※)適用で0円
長男・長女:2700万円×1/5=540万円
孫:2700万円×1/5×1.2=648万円

※被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは相続税がかからない制度
1)1億6000万円
2)配偶者の法定相続分相当額

【最終的な取得額】
妻:8000万円
長男・長女:各3460万円
孫:3352万円

このケースの場合、長男、長女が支払う相続税と、法定相続人ではない孫が支払う相続税で、100万円ほどの違いが出てきた。

「『遺贈』によって、法定相続人以外の人や団体が不動産を譲り受けた場合は、不動産取得税が発生します。法定相続人であれば、不動産取得税は発生しません。また、不動産の名義変更の際に発生する登録免許税は、法定相続人の場合は0.4%なのですが、法定相続人以外の人や団体だと2%になります。『遺贈』は、相続税以外にもかかる税金が多くなりやすいといえるのです」

残す財産が少なければ「贈与」で譲る方法も

「遺贈」は税負担が大きくなりやすいうえに、家族間のトラブルにもつながりかねないとのこと。

「法定相続人が譲り受ける財産は、遺留分(法律上保障された最低限度の遺産取得分)という形で確保されているものの、家族以外の人や団体に『遺贈』するとなると、家族としてはモヤッとしますよね。不要なトラブルを避けたいと考えるのであれば、亡くなった後ではなく生きている間に譲る方法も検討した方がいいでしょう」

生きている間に譲る「贈与」を考えるべきということだ。贈与税は、年間110万円までであれば課税されないため、100万円程度であれば「遺贈」よりも「贈与」の方が税負担を抑えられる。

「110万円以上譲りたい場合は、毎年100万円程度譲り、贈与税を回避する『暦年贈与』という方法がありますが、長く続けると相続税逃れを疑われてしまう可能性があります。あえて毎年115万円程度を送り、少ない贈与税を納めるという方法を検討してもいいでしょう。もし、数千万円を譲りたいということであれば、贈与税よりも相続税の方が税負担を抑えやすくなります。譲る財産の大きさや家族への影響なども踏まえて考え、『遺贈』を行う場合は、生きている間に家族に了承を得ておくことが大切といえるでしょう」

孫に財産を残したい場合や、特定の団体を支援したい場合などに利用できる「遺贈」。ただし、高い税金や家族トラブルなどにつながる可能性があることも意識すべきといえそうだ。財産の残し方は、冷静に判断していこう。
(有竹亮介/verb)

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