米中間選挙結果の市場への影響は小さい
提供元:日興アセットマネジメント
<ここがポイント!>
■民主党の政策は市場に好まれず、実現可能性も低い
■共和党下院勝利による「ねじれ」の影響
■構造的な変化は見当たらない
民主党の政策は市場に好まれず、実現可能性も低い
米国の中間選挙の結果は、上院で民主党が過半数の議席を維持、下院は共和党が過半数の議席を奪取したものの、予想されていた地滑り的大勝利とはならなかった。結論から言えば、今回の選挙結果が今後の株式・債券市場を大きく動かすとは考えていない。
株式市場にとっては、共和党が強いほど良いと考える向きもある。民主党には、企業増税や自社株買い制限、金融所得課税強化などの考えを持つグループがあるため、民主党の力が強いほど株式市場にとっては良くないとの見方があるからだ。
しかし、このような政策は、上院も下院も民主党が過半数の議席を占め、大統領も民主党であるうちに実現しそうなものだが、現実には、この2年間、民主党内の意見共和党が下院で過半数の議席を占めたがまとまらず、実現していない。今回、ことから、実現の可能性は低いだろう。
ごく簡単に言えば、現時点で、民主党政権の政策の中には株式市場にとってネガティブな内容が含まれているが、今後も、これまで実現しなかった政策が通る可能性は低い。また、株式・債券市場は現時点ではインフレに敏感なので、民主党の財政拡大傾向を嫌う向きもある。
今回のインフレの背景は、トランプ前政権によるコロナ禍に対応するための財政拡大の影響が大きく、バイデン政権の追加的なレスキュープランの影響は相対的に小さいと思われる。また、インフレ対応が重要である点が明確になったことで、バイデン政権は財政拡大が進まないように注意を払っている。
共和党下院勝利による「ねじれ」の影響
一方、共和党が上院もしくは下院で過半数の議席を占めることになれば、現政権に対抗してしばしば「債務上限引き上げ法案」に反対するという政治ドラマが繰り広げられやすくなる。毎年この法案を通さなければ政府が国債を十分発行できず、連邦政府の一部が閉鎖される恐れが強まる。しばしば、野党(ここでは共和党)が通したい政策との取引条件に、これを利用しがちだ。
過去には、上下両院ともに野党が多数派となった場合、政治的な妥協が実現するまで、しばらく連邦政府が閉じられたことがあった。このことについて、メディアなどがひどく重要なことの様に報じることがあるが、連邦政府の一部の許認可が遅れる、一部の公務員が一時的な失業状態になるという程度で、経済的な影響は大きくない。
しかし、債務上限問題は財政に関わる国債発行のスケジュールなどに影響するため、特に債券市場は、しばらく神経質になることがある。ただし、ここでの問題は「ねじれ」による政策実行の遅れであり、下院だけが共和党多数派の場合は、さほど大きな問題にならないだろう。
共和党の勝利が市場に好影響を与えるとすれば、民主党から市場にネガティブな政策が出にくくなることや、選挙戦で「インフレを抑え込む」主張を行った共和党が、財政拡大リスクを強く抑え込むことである。民主党政権は、すでに学生ローン返済の一部免除といった財政出動を行っており、これが中期的なインフレ継続の可能性を高めている。
仮に、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げにもかかわらず、インフレを抑え込めなかった場合、共和党主導で別の財政拡大を抑制することでバランスが取られる、という期待も大きくはないが存在する。ただし、共和党が好む企業減税などが実行されることになれば(下院のみ過半数の議席を占める場合にその可能性は低いが)、逆にインフレを抑え込めなくなってしまうことには注意が必要である。
構造的な変化は見当たらない
結局のところ、下院で共和党が過半数の議席を占めたとはいえ、政策には硬軟両様があり、どちらにせよインフレや経済を大きく変えるとは思えない。それゆえ、株式や債券市場を大きく動かすとは考えていない。
本来、政治は、経済のより深い部分、つまり経済の「構造」に影響を与える可能性がある。例えば、大きな税制変更による企業行動の変化や規制緩和による事業機会の拡大、あるいは環境規制強化による企業の行動変化なども含まれる。
しかし、今回の中間選挙では、そのような政治的争点は明確ではなかった。インターネットのプラットフォーマーへの各種規制強化(プライバシー保護、安全保障配慮のデータ保護、課税強化など)は引き続き話題として残るが、選挙の争点とはいえなかった。インフレや女性の人工中絶権問題などが重大な争点となり、社会的な議論と二極化が深まった懸念があったものの、経済構造に関する変化は感じられない。
選挙結果に関わらず、株式・債券市場はインフレの推移や見通しに影響されて動いている。選挙戦ではインフレ問題が争点となったものの、市場の注目は、FRBの対応にある。
財政規律については、バイデン政権がインフレ対策としてある程度維持している。学生ローン返済の一部免除はインフレ要因となるが、FRBの利上げに伴う住宅や自動車などのローン金利の上昇が消費を抑え込み、インフレを抑制する効果の方が大きいとみられる。また、米ドル高が多国籍企業大手の利益水準を小さく見せているため、関連する雇用の過熱感は徐々に収まっていくとみている。
(日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト 神山直樹)
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