「50歳以上は拠出限度額UP」「若年層には助成金あり」

iDeCoやNISAとは違う? 海外の「非課税制度」

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日本でも認知度が上がっているiDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DC(企業型確定拠出年金)、NISAといった「非課税制度」。投資で得た利益にかかる税金が一定の範囲内で非課税となるなどの税優遇制度で、老後資金やライフイベントのための資金をつくる手段として利用する人が徐々に増えてきている。

実は、これらの制度は海外の「非課税制度」をモデルにつくられていることを知っているだろうか。海外の制度の特徴や日本との違いを、大和総研金融調査部研究員の藤原翼さんに聞いた。

※この記事の情報はすべて2022年10月現在のものです。

米国の非課税制度の特徴は「キャッチアップ拠出」

日本の企業型DCのモデルとなったのが、アメリカの401(K)プラン。基本的には、日本の企業型DCと近しい制度だが、控除の規模が大きく異なるようだ。

●401(K)プラン/アメリカ
導入時期:1978年
対象者:プラン導入企業の従業員
拠出可能期間:退職まで
引出可能年齢:59.5歳以上(72歳までに引出開始義務)
拠出限度額:50歳未満 年間2万500ドル(企業拠出と従業員拠出の合計で6万1000ドル)
      50歳以上 年間2万7000ドル(企業拠出と従業員拠出の合計で6万7500ドル)

「日本の企業型DCの拠出限度額は多くても月額5万5000円ですが、401(K)プランは2022年10月現在で従業員は月額換算20万~25万円程度拠出できます(2021年末為替レート)。また、日本の企業型DCと大きく異なるのが、50歳から拠出限度額が上がる『キャッチアップ拠出』が設けられているところ。ある程度給与額が上昇することが想定され、かつ退職が迫っている50代から、老後資金を準備するスピードを上げられるように設計されているのです」(藤原さん・以下同)

アメリカには、iDeCoに近い制度もあるという。

●IRA/アメリカ
導入時期:1974年
対象者:所得のある者
拠出可能期間:制限なし
引出可能年齢:原則59.5歳以上(72歳までに引出開始義務)
拠出限度額:50歳未満 年間6000ドル
      50歳以上 年間7000ドル

「制度の仕組みとしては、iDeCoと似ているといっていいでしょう。ただし、60歳を超えるまで資産を引き出せないiDeCoとは異なり、IRAの引出可能年齢は原則59.5歳ですが、一定の要件を満たすと、早期での引き出しが可能になります。例えば、医療費や初めての住宅購入の際の費用が必要な場合は、早期引出が認められるようです」

さらに、アメリカでは高等教育のための費用に備える非課税制度もある。

●529プラン/アメリカ
導入時期:1988年
対象者:所得のある人
拠出可能期間:制限なし
引出可能時期:高等教育資金として利用するとき
拠出限度額:23.5万~55万ドル(州によって異なる)

「資金使途が高等教育に限定される制度ではありますが、州によっては個人の拠出に加え助成金を出しているところもあり、高額な高等教育費を準備するのに有効な制度と捉えられています。なお、教育目的以外での引き出しには、ペナルティ税が課せられるようです」

多様な選択肢を設けている英国の制度

続いては、私的年金制度が充実しており、利用率も高いイギリスの制度を見てみよう。

●職域DC/イギリス
導入時期:1986年
対象者:プラン導入企業の従業員
拠出可能期間:75歳未満
引出可能年齢:55歳以上
拠出限度額:私的年金全体で年間4万ポンド(生涯で107.31万ポンド)

「イギリスでは企業年金の加入機会を従業員に与えることが、雇用主に義務づけられており、さらに自動加入・オプトアウト(脱退も自由)の仕組みを取っていることから、活用している会社員が多いのだと考えられます。また、拠出限度額は、日本と比べるとかなり大きいことがわかります」

イギリスには、日本のNISAのモデルとなったISAという制度もある。2022年現在、日本にも「一般NISA」「つみたてNISA」があるように、複数の種類があるようだ。

●株式型ISA/イギリス
導入時期:1999年
対象者:満18歳以上の英国居住者
拠出可能期間:恒久
引出可能年齢:制限なし
拠出限度額:年間2万ポンド(ISAすべての合計)
投資対象:株式、債券、投資信託、保険等

●預金型ISA/イギリス
導入時期:1999年
対象者:満18歳以上の英国居住者
拠出可能期間:恒久
引出可能年齢:制限なし
拠出限度額:年間2万ポンド(ISAすべての合計)
投資対象:預金、MMF等

●ライフタイムISA/イギリス
導入時期:2017年
対象者(口座開設可能期間):満18歳以上40歳未満の英国居住者
拠出可能期間:18歳以上50歳未満
引出可能年齢:60歳以上または初めての住宅購入時
拠出限度額:年間4000ポンド
投資対象:株式、債券、投資信託、保険、預金、MMF等

「NISAの前身といえる制度ですが、ISAは恒久化されていて、非課税での保有期間が無制限です。預金型もあるのが特徴的で、預金につく利子も非課税になります。若年層向けに新設されたライフタイムISAは拠出限度額こそ小さいのですが、拠出額の25%が助成金として付与されます。ただし、ライフタイムISAは60歳以降、または初めての住宅購入、疾病末期(余命1年未満)にしか資産を引き出せません。それ以外の理由で引き出す場合はペナルティ税が課されるようです」

“私的年金の成功例”はオーストラリアにあった

アメリカやイギリス以外にも、“私的年金の成功例”といわれる制度があるとのこと。その国がオーストラリアだ。

●スーパーアニュエーション/オーストラリア
導入時期:1990年代には現在の制度を確立
対象者:所得のある人
拠出可能期間:75歳未満
引出可能年齢:59歳以上
拠出限度額:年間2万7500豪ドル(税制優遇対象/事業主は賃金の10.5%の拠出義務)

「会社員や公務員は強制加入、自営業者は任意加入となる確定拠出年金制度です。会社員・公務員が強制加入ということもあって、老後に向けた資産形成の手段として根づいており、オーストラリアの家計金融資産の半分近くをスーパーアニュエーションが占めている状況です。日本の企業型DCは加入者の資産全体で見るとやく半分が元本確保型で運用されていますが、スーパーアニュエーションはデフォルトのファンドが株の割合の高いものに設定されていて、適切にリスクを取って運用する設計になっているところが特徴的です。私的年金でもリスクを取って運用した結果、リターンを得られて、家計金融資産での割合が伸びているのだと考えられます」

制度の構造は似ていても、細かな部分に各国の個性が出ている。それぞれの国のいい部分を取り入れることで、iDeCoやNISAもさらに使い勝手のよい制度になることを期待したい。
(有竹亮介/verb)

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