【三宅香帆の本から開く金融入門】
金融入門者向けの本って、見つけづらい…? はじめて学ぶお金の話『10歳から知っておきたいお金の心得』
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書店に足を運ぶとたくさんのお金に関する本が並んでいて、これから投資について学ぼうとしても一体どんな本を選べばいいのか悩ましい……。そんなお悩みに対して文筆家・書評家の三宅香帆さんが選んだ本を紹介する連載「本から開く金融入門」。自身もお金の勉強を始めたばかりと語る三宅さんが選ぶのは金融教育にもぴったりな一冊です。
金融入門者向けの本って、見つけづらい
私たちは日々、お金を使っている。
スマホを使うにも、通信料が必要で、端末料金が必要で、おまけにアプリ課金代が必要だったりする。明日のごはんを食べるにも、漫画の更新を早めに読むにも、推しの姿をライブでみるにも、お金はかかる。
お金を通して、私たちは社会を生きている。そう、私たちにとって、お金は社会と繋がるためのツールでもあるのだ。
お金は、ものすごく身近で、大切な存在だ。しかし一方、「私って、意外とお金のことを知らない……」と思ったことはないだろうか?
たとえば朝のニュース。アナウンサーが語る言葉の中に、お金に関する用語は意外とたくさん登場する。「日経平均株価」「円安」「GDP」と単語だけは聞いたことがあるけれど、じゃあ意味がしっかり分かるのかと言われると、やや不安になる! そんな人もいるんじゃないだろうか。
今回から始まった本連載では、そんな金融入門者、もとい、金融についての知識に自信がない! という方に向けて、「金融の知識が得られる入門書」を紹介していきたい。
世の中に金融専門書や投資指南書は溢れているけれど、実際書店に行くと、いったいどれから読んでいけばいいのか分かりづらい。そこで「これこそが入門者にはぴったりな本だ!」と思えるような金融に関する書籍について紹介したいのだ!(私自身がかなり金融の知識に関しては入門者なので、難しい書籍は理解できない、という事情もある!)
金融入門者の方、ぜひいっしょに勉強してもらえると嬉しい。
金融という、ものすごく重要なのに、意外と知らないまま生きていけてしまうジャンルについて。入門の扉をそろそろ叩いてみませんか?
10歳から「お金の話」?
さて記念すべき第一回で紹介したいのが、『10歳から知っておきたいお金の心得~大切なのは、稼ぎ方・使い方・考え方』(八木陽子:監修/えほんの杜)。
「えっ、10歳にお金の話をするの!?」
20代以上の読者のなかには、そう思われた方もいるかもしれない。
しかし驚くなかれ。そもそも昔と今では、金融教育の在り方がまったく違っているのだ。
というのも「学習指導要領」の改訂によって――2020年度の小学校の学習指導要領改訂から2022年度の高校の学習指導要領改訂にかけて、「金融教育」の内容が充実することになったのだという。今や、家庭科の授業で資産形成や金融商品について学ぶ時代なのだ。
そう、今の小中学生にとって、金融の勉強はもはや学校の勉強をすることと同義……。お金の知識は大人になってから勝手に自習するものだと思っていた自分からすると、義務教育で金融の勉強をするだなんて驚いてしまう。もちろん自分も、高校生のときに社会の授業で金融の仕組みを習った記憶はあるけれど! しかし今はもっと前倒しされ、小学校のうちからいわゆる「マネー教育」を受ける時代なのだ。ジェネレーションギャップにくらくらする大人の方はいないだろうか。仲間である。
が、そんな「子供のための金融の知識」を、10歳のうちから予習できる――それが本書のコンセプト。
本書を10歳で読んでおけば、金融の勉強の一端を予習できるのではないだろうか。
身近な話題から社会全体の構造まで
本書を監修している八木陽子先生は、ファイナンシャルプランナー。彼女の専門分野は、住宅、社会保険、保険、投資、貯蓄、税金など、多岐にわたっている。そのため、本書が扱うテーマもかなり様々な分野を包括する。
たとえば金融教育と聞いて思い浮かぶのは、銀行や株の知識かもしれない。しかし本書はもっと基礎的な、社会にとってお金がどういう役割を果たし、なぜ今のような仕組みになっているのか、分かりやすく説明してくれる。具体的には、「そもそも税金や社会保障っていったい、何?」「なぜ物の価格は上下するのか?」「キャッシュレスって何? なんでお金は現金とアプリがあるの?」等の疑問に答えてくれる。さらには、銀行や株、そして投資についても踏み込んでいて、多岐にわたる知識を教えてくれるのだ。
またお金の分かりづらい概念の話だけでなく、「おこづかいをどのように扱うか」など、身近な話題を紹介してくれている。
税金や物価の概念は理解していても、いざ10歳にその意味を説明しようとすると、戸惑うことも多そうだ。しかしこの本は、「お金」にまつわる仕組みの全体像から説明してくれる。そのため何の話から始めていいのか困らずに済むのではないだろうか。
「金融」への苦手意識を持たないように
こうしてマネー教育の現状を眺めてみると、「自分はお金の話ってなぜか遠ざけてしまうんだよなあ……」と感じる人も多いのではないか。少なくとも私はそうだった。資産運用や株価の話題というだけで、「ちゃんとわかってなくてごめんなさい~!」「理解が遅くてすみません~!」と心が萎縮してしまう。金融=苦手っぽい、という思い込みが自分の中にある。どこか、「お金のことをちゃんと理解することを怠っている」ことへの恥ずかしさがあるのかもしれない。
でも今回本書を手に取ってみて、ああこんなふうに10代のうちから何気なく金融の話に触れていたら、自分の苦手意識も違ったのかもしれない、とふと思う。
知らないから、怖いだけなのだ。ちゃんと金融の知識を得ようとしたら、たとえ理解が遅かったとしても、触れるのを避けて怖がるなんてことにはならないだろう。
人間、知らないものは怖いと思う生き物だ。だとすれば、とりあえず分かる地点から、少しずつ学んでゆくのが一番。
本書は「10歳から」というタイトルにはなっているが、金融を学び始める大人にもじゅうぶん適切な本だと思う。もちろん10歳で金融の勉強を先取りするのも最高だが。
こんなふうに金融の扉も一冊ずつ叩いてけば、金融を学ぶモチベーションも今まで以上に高くなるのではないだろうか。
さて、次回はどんな扉を叩こうか!
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三宅香帆
1994年生まれ。高知県出身。
京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程退学。会社員生活を経て、現在は文筆家・書評家として活動中。著書に『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』などがある。近著は『(萌えすぎて)絶対忘れない! 妄想古文 (14歳の世渡り術)』。今年フリーランスになったことをきっかけに、お金の勉強を始めている。