日本経済Re Think

【日本経済 ReThink】

ベンチャーキャピタリスト高宮慎一氏に聞いた『「日本株式会社」として、成長のために起業家魂を取り戻せ』

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この国の市場や経済に成長可能性はあるのか。いわば投資における“日本の未来”を有識者が占う連載「日本経済Re Think」。今回お話を聞いたのは、グロービス・キャピタル・パートナーズの代表パートナーを務める高宮慎一氏だ。

同氏は、ベンチャーキャピタリストとして数多くの成長企業に投資しており、過去にはメルカリやランサーズ、ピクスタ、アイスタイルなどを支援してきた。そんな彼は、今後の日本経済が伸びるために「もう一度、明治維新のような起業家魂を多くの人が持つことが必要」と述べる。そして、その状況が実現する可能性は高いと言う。

加えて、この国の成長を考える上で「日本を1つの株式会社として見ること」もポイントに挙げる。これらの意味はどこにあるのか。インタビューの内容から明らかにしていく。

日本の成長に必要な「起業家」の魂が広がっている

日本の将来に対して悲観的な声が聞かれる昨今。高宮氏にもこの国の今後について聞くと、彼はこう切り出した。

「『ダメな理由』を探そうと思えばいくらでも見つかりますし、さまざまなものが右肩下がりに見えるいま、現状の延長線上で未来を描こうとすれば“下”に向かう姿を想像するのもわかります。しかし、その流れに僕らがただ乗るのではなく、一人ひとりがアントレプレナーシップ(起業家精神、起業家魂)を持って未来をどう描くか考えることが重要であり、自分たちでトレンドを作る意識が必要ではないでしょうか」

これからこの国が“現状の延長線上にない未来”を描くためには、起業家魂を持つ人が増えることが不可欠だと高宮氏は考えている。そして日本は、元来そういった精神にあふれた国だという。

「日本は起業家魂を持つ人が少ないと海外の投資家からよく言われますが、それは昭和後期を見ているからだと思います。その時代は欧米に追いつけ追い越せで、逆に言えば、欧米という“お手本”や追い求める“答え”が明確にあった。しかし明治維新や戦後は、私見ではありますが、答えのない中でもゼロベースで新しい世界を作り上げた時代だったはずです。幕藩体制の後にどんな制度を作るか。戦後、どんな産業を立ち上げるか。これらは起業家魂が無ければ成し遂げられなかったでしょう」

ちなみに、当時と時代背景こそ異なるものの、“明確な答えがない”という点で「現代と明治維新の状況は似ている」と高宮氏はいう。

「これほどテクノロジーが激しく変化する現代では、未来のビジネスの正解やお手本が世界のどこにもない状態。まさにゼロベースで作らなければなりません。だとすると、明治維新や戦後の頃のマインドをもう一度日本人が持てば、チャンスはあると思うのです」

では、実際にそのマインドが広がる可能性はあるのか。高宮氏は最近の社会を見る中で、まさに起業家的な価値観が世の中に広がっていると感じている。

「終身雇用前提の昭和的な働き方や、右肩上がりの経済で自動的に収入が上がる時代が終わり、人々の生き方が起業家的になっています。つまり、社会の“不”を解決し、自分が出した価値に応じてリターンを得ていくというマインドや動き方が、スタートアップから大企業まで、すべての働く人に浸透し始めているのではないでしょうか」

さらに転職や副業が当たり前になり、より一人ひとりが自律的に価値を生み出そうというプロフェッショナルになる。すると、この流れは一層広まると見ている。

なお、投資の観点でも、起業家が生まれたり、それを支援したりする動きは活発になっていると高宮氏。

「国内のスタートアップ投資額は、10年ほど前の数百億円から、2021年には約8000億円に到達。また、日本初のユニコーン(時価総額1000億以上のスタートアップ)はメルカリで2018年のことでしたが、その後10社以上が1000億以上で上場を果たしています」

成長のためには、日本がアドバンテージのある領域で勝負する

そのほか、今後この国の成長を考える上で高宮氏が口にするのは「日本を1つの株式会社として見立てること」だ。

「たとえば企業が新規事業を創出しようとするとき、それに特化した部門を出島のように切り出して作り、既存事業とは違うルールで進めるセオリーがあります。これを“日本株式会社”にも当てはめると、国の中で新しい成長産業を生まれやすくすることができるのではないでしょうか。わかりやすい例でいえば、新規事業分野に対して特区や税優遇をうまく活用することなどが挙げられるでしょう」

では、その日本株式会社で今後伸びる領域はどこなのだろうか。高宮氏から見れば「国としてアドバンテージのある領域で戦うことが重要」という。

一例として出たのはモバイルやコンテンツ産業だ。日本は、世界で最初にモバイルインターネットとモバイルコンテンツが普及した国で、「日本には洗練されたユーザーが多く、求める品質が高いので、世界でも新しい事業が創出されるインキュベーション市場になり得る」という。

「そのほか、高齢化の課題先進国であることもアドバンテージになるでしょう。私たちの投資先の中には、お葬式や法要の手配をインターネットで行う企業がありますが、こういったものは日本ならではのビジネスになるはず。少子高齢化という変化はマイナスに見られがちですが、変化があること自体、ビジネスにつながる課題発見の機会になります」

そのような課題に、日本人の起業家マインドの高まりがうまく重なれば、良い方向に行く可能性はあるのかもしれない。

これらを語った上で、高宮氏は最後に「日本が成長するためのカギ」として、こんなポイントを口にした。そしてそれは、答えのない時代にチャレンジする上で欠かせない要素といえるだろう。

「大切なのは、新しい価値を生み出した人を讃える文化と、一方で失敗を揶揄せず、許容する文化を作ることです。それこそが重要であり、日本に足りないものだと思います」

明治維新や戦後に見られたような起業家魂にふたたび火を灯し、また、日本株式会社としての成長の道筋を描く。それができれば、現状の延長線上にないこの国の未来を描けるかもしれない。高宮氏の言葉には、そんな想いがこもっている。

 

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2022年12月現在の情報です

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