研究者・成田悠輔氏に聞く「教育と経済の話」後編

成田悠輔氏「『アメリカの金融経済教育は進んでる、日本は遅れてる』という単純な考え方はするべきではない」

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写真:小田駿一

2022年度から、高校の家庭科の授業に資産形成にまつわる内容が盛り込まれるなど、日本で進み始めている金融経済教育。なんとなく海外の方が進んでいるイメージがあるが、実際のところはどうなっているのだろう。

前編に引き続き、研究者・実業家の成田悠輔さんに登場してもらい、日本と海外の金融経済教育の違いや成田さん自身の考えについて、聞かせてもらった。

「アメリカの金融経済教育」は目指すべき姿なのか?

―― 一般論として「アメリカは金融経済教育が進んでいて、日本は遅れている」といわれますが、実際のところはどう感じていますか?

「株式投資とか、複雑な金融商品やローン商品への投資について、日本の教育がこれまでほとんどカバーしてこなかったのは確かじゃないですかね。私の世代だと、高校まではほぼ何も教えてなかったし、大学でも経済学部や工学部のなかのファイナンス学科っぽいところで教えていただけで、全学生が学ぶような金融経済教育はほとんど存在していなかったですよね。それが変わってきたのは事実だと思います。

そういう変化が生まれてきた理由も、比較的簡単じゃないかなと思います。定期預金に年利5%とかついていた時代は、金融経済教育はいらなかったんですよね。安定した運用手法が、定期預金とか持ち家+住宅ローンみたいな形で身近にあったので、それ以上に複雑な投資手法を学ぶ必要がなかったわけです。その状況はこの30年くらいで一気に変わってしまったけど、教育制度やメディアはすぐには変わらなかった。その結果、日本の金融経済教育が明らかに時代遅れになってきたんだと思います」

――今の日本は、必要に迫られて金融経済教育を始めなければいけないフェーズに入ったと。

「そうだと思います。アメリカで金融経済教育が“進んでる感”がある理由のひとつは、まさに金融について知る必要があった国だったからなのではないでしょうか。

もうひとつ、アメリカの金融経済教育に“進んでる感”がある理由としては、アメリカが新しいタイプの金融商品をつくり出す金融産業のメッカだったこともあると思います。新しい金融商品や投資戦略を生み出したら、どんどん活用してほしいじゃないですか。いかに投資することが大事かっていう情報を、よく言えば教育、悪く言えばPRする理由があったんです。だから、メディアにも教育にも投資を促すような情報が流れるんだと思います。

なので、アメリカの金融経済教育が進んでいるというのは、ある意味正しい。ただ、それが目指すべき姿かというと、そうとも言えないと思いますね。その教育の結果、アメリカは誰もかれもが投資をすることが普通になっているために、住宅ローン市場の過熱などが起きて、定期的にバブルが大爆発し、何百万人、何千万人が路頭に迷うということを繰り返しているわけじゃないですか。昔の金融デリバティブ商品でも同じようなことが起きたし、小さなスケールでいうと個人のリボ払い(payday loan)問題みたいなものでも起きている。投資PR=教育が過熱すると、よくわからない金融商品に手を出すことが普通になりかねないと思うんですよね」

――教育というよりも、PR合戦になっていると。

「アメリカの金融経済教育の“進んでる感”は、アメリカのジャンクフード産業の“進んでる感”と似てるんじゃないですかね。産業側は中毒性の高い商品づくりやマーケティング、ブランディングがうまくて、新しもの好きの国民側はどんどんそこに乗っかっていくという構図。その結果、巨大産業がつくり出されて、アメリカは世界のトップランナーであり続けてきたわけです。その代わり、行きすぎた肥満問題や金融バブル破綻も起きて、その主な被害者が貧しい国民という状況を繰り返してるんじゃないかなという気がします」

日本人が資産を「現預金」で持つ理由


――日本の金融業界はPRがうまくないので、金融経済教育もなかなか進まなかったといえそうですが。

「日本でこれだけ預貯金が広がっているのは、銀行や郵便局が『ここにお金を置いておくと安心だ』というマーケティングに成功したからなのかなとも思います」

――なるほど。確かに裏を返せば、教育が成功したともいえますね。日本は長らくデフレが続いていたので、現金を持っているのが利口というマインドセットになった可能性もありそうです。

「銀行に預けておくだけで利回りが良かった時代が、1980年代くらいまであった。それ以降はデフレで、現預金で持っていてもマイナスじゃない。さらに高齢化が積み重なって、後期高齢者になると長期的な投資戦略を考えるより、手元に流動性のある形で持っておいた方が安心だよねという感覚になっていくのは、自然なことだと思います。それがベストではないけど、セカンドベストくらいの解だったために、日本は変わらない状況が続いてきたのかなって感じがするんですよね」

教育内容を考える第一歩は「国としての投資ポートフォリオを決めること」


――日本とアメリカ、それぞれの状況を加味して考えると、金融経済教育はどう進めていくといいと思いますか?

「日本の金融経済教育を考えるのであれば、国全体として、どういうタイプの金融資産や投資対象で運用するか、どのくらいの資産を投資にシフトするかという投資ポートフォリオがあるべきだと思います。そして、そこに誘導するために個人や企業、団体がどういうナレッジや防護術を持っていなくちゃいけないかということを議論して、それを普及する方法を考えないといけないと思うんですよね。単純に『アメリカは進んでる、日本は遅れてる』という考え方は、すべきではないんじゃないかと思います」

――「金融経済教育が進んでいるアメリカを真似しよう」ではダメだということですね。国として目指す姿を、明確に定めていかないといけないと。

「そうですね。日本という国の投資ポートフォリオ、投資戦略がどういうものであるべきかを考え、そこと今とのギャップが何なのか、そのギャップを埋めるためには人々のマインドセットや投資スキル・ナレッジ・ノウハウみたいなもののどこを埋めていかないといけないのか、見極める必要がありますよね。そのうえで、そのためにはこういう教育をするべきだよねって話をしていくことが大事なんじゃないかと思います」

日本は金融経済教育を展開し始めているところだが、やみくもに進めればいいというわけではなさそうだ。成田さんが話してくれたように、まずは目指す方向を示すことが、ひとつのきっかけになるのかもしれない。
(有竹亮介/verb)

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