出戻り採用、協業のチャンス…退職者にとってもメリットあり!

退職者がカムバック「アルムナイ採用」が注目されているのはなぜ?

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最近、人事領域で注目を集め始めている「アルムナイ採用」。アルムナイとは“卒業生”を意味する言葉だが、企業の退職者という意味でも使われるようになっており、アルムナイ採用=一度退職した社員の再採用を行う会社が出てきている。

会社や社員にとって、アルムナイ採用にはどのようなメリットがあるのだろうか。会社とアルムナイのつながりを生むサービス「オフィシャル・アルムナイ・ドットコム」を運営するハッカズークの實重遊さんに聞いた。

「雇用の流動化」が進み、会社と退職者の関係が変化

アルムナイ採用が注目を集め始めた背景には、会社と個人の関係が変わってきたことがあるという。

「かつては新卒一括採用、終身雇用が普通だったので、退職者は例外的なケースと見られていました。しかし、時代は変わって雇用は流動化し、転職は当たり前、中途採用も加速しています。会社と個人が選び選ばれる対等な関係になってきている中で、退職だけが取り残されているのです。退職した瞬間に会社と縁が切れるので、会社は採用にかけたリソースが無駄になり、社員もなんだか後ろめたい。互いにとって損失にしかならない状況であることに多くの人が気づき、見直され始めています」(實重さん・以下同)

實重さんの話す「気づき」を受けて、経団連がアルムナイ採用の活用を促したり、経済産業省が開いた人的資本経営の実現に向けた検討会で取り上げられたりと、アルムナイ採用が検討テーマに上るようになってきている。

「これまで離職率の低かった大企業で退職者が増え、優秀な人材を確保しにくくなっていることも、アルムナイ採用が注目される要因のひとつと考えられます。雇用の流動化は止められず、退職者を減らすのも限界があるのであれば、退職後もつながっていたほうが価値があると、アルムナイとのつながりを維持する仕組みを導入する会社が増えているように感じます」

ハッカズークが運営するオフィシャル・アルムナイ・ドットコムの導入企業は、2021年から2022年で4倍弱ほどに増えており、問い合わせ件数も4倍近くになっているそう。さまざまな会社が自社のアルムナイとの接点を持とうとしているのだ。

なお、オフィシャル・アルムナイ・ドットコムでは、会社とアルムナイ、アルムナイ同士が交流できるクローズドSNSのようなシステムと、会社とアルムナイのつながりを活性化して成果につなげる方法をともに見つけていくコンサルティング支援を提供している。

実は「離職防止」につながるアルムナイとのつながり

アルムナイ採用が注目されるに至った背景は見えてきたが、そもそも会社がアルムナイとつながることで、どのようなメリットがあるのだろうか。

会社のメリット(1)アルムナイ採用につながる
「かつて社員として活躍してくれていた人に再入社してもらえたら、採用コストはもちろん、社内での動き方や社内用語・ツールの使い方などを伝える教育コストも抑えられます。即戦力になってもらえるので、アルムナイ採用が注目されているのだと思います」

これまでもカムバック制度、ジョブリターン制度という形で再入社を受け入れてきた会社もあるが、その対象が変わりつつあるという。

「これまでは育児や介護、配偶者の転勤などのやむを得ない理由で退職した方に限り、再入社を認める会社も少なくなかったのですが、最近はその幅を広げる会社が増えてきました。転職や起業、学業への専念といった理由で退職した人も、再入社の対象になりつつあります」

会社のメリット(2)協業のきっかけ
「近年は多くの会社で、いかに外部ネットワークを広げ、多くのパートナーと協業していくかがテーマになっています。その観点でいうと、退職者が転職した会社はもっとも身近な外部ネットワーク。つながりを維持することで、アルムナイの転職先と事業提携するなど、ビジネス連携できるところもメリットといえます」

転職者だけでなく、起業したアルムナイと連携する事例もあるそう。

「アルムナイが起業した会社に出資する形で、ビジネス上でもつながった事例があります。アルムナイの活動をサポートし、事業の成功につなげることで、かつての社員がさまざまな業界で活躍していることをアピールし、採用ブランディングにつなげている会社もあります」

会社のメリット(3)離職防止につながる
「アルムナイを大事にすることは、一見離職につながるように感じますが、逆の効果もあります。実は、退職理由を正確に把握できていない会社は多く、退職を減らす取り組みにつなげられていないのです。しかし、アルムナイとつながりを持っていれば、退職後は本音で話してもらいやすく、転職先や本当の退職理由を聞きやすくなるのです。そこから組織改善につなげられるため、退職を軽減しやすくなるといえます」

あえてアルムナイに社内講演などをしてもらうことでも、離職防止につながる可能性があるとのこと。

「社員の多くは、『このままこの会社で働いていて大丈夫だろうか』という不安を抱えています。そこにアルムナイが来て、『隣の芝は青くない、前の会社でこうしていればよかった』『いま活躍できているのは、社員の頃にこういう経験ができたから』と外から見た会社の話をすると、社員のモチベーションが上がり退職を防げるという側面があります。このような形でアルムナイに協力してもらっている会社も多いんです」

社員にとっても「アルムナイ採用」「協業」は大きなチャンス

ここまでは会社にとってのメリットを聞いてきたが、退職する社員にとってもメリットはあるのだろうか。

社員のメリット(1)アルムナイ採用の可能性
「会社にとってのメリットは、そのまま社員のメリットともいえます。アルムナイ採用の可能性があるという安心感があれば、転職先や起業した会社などで新たなチャレンジをしやすくなるでしょう」

ただし、ここで注意すべきことがある。アルムナイ採用は、いつでも前の会社に戻れるフリーパスではないということだ。

「アルムナイ採用にも選考を設けている会社がほとんどです。会社から『戻ってきてほしい』と思ってもらえる人材であってこそ、アルムナイ採用は成立すると考えたほうがいいでしょう。また、退職の際にも、いい関係を築けるような辞め方をしていると会社から信頼されやすいですが、後味の悪い辞め方をしてしまうと、つながりを維持しにくくなってしまうかもしれません」

社員のメリット(2)協業のチャンスがある
「会社と同様に、社員にも協業のチャンスがあるといえます。転職先と以前勤めていた会社で協業できそうな企画があれば、話を持ち掛けやすいでしょう。副業という形で、以前の会社から仕事を受注できる可能性もあります」

特に起業した人は、勤めていた会社とのつながりが実利につながりやすいようだ。

「会社とアルムナイだけでなく、アルムナイ同士のつながりを持てるような仕組みづくりをしている会社も多いので、その中から協業先を探したり、人材を募集したりすることで、事業の幅を広げやすくなると考えられます。過去の事例では、アルムナイ同士のネットワークに『こういう業種の人とつながりたい』と投げかけたところ、1時間で6~7件の連絡があったというケースもあります」

社員のメリット(3)アルムナイネットワークができる
「先ほども話しましたが、アルムナイ同士のネットワークができるところもメリットといえると思います。ビジネス連携はもちろんですが、同じ会社で働いていた仲間という共通点があることでハードルが下がり、プライベートでの相談をする仲になることもあるようです」

アルムナイネットワークの中では、ママさん・パパさんグループや投資を始めた人同士のグループなどができることもあるという。

会社とアルムナイのつながりは、社員にとってもメリットがありそうだが、これからの日本で定番化していくのだろうか。

「転職や中途採用が当たり前になっている日本において、退職したら縁が切れてしまう会社は矛盾しているように感じますし、アルムナイの取り組みを行っているかどうかが採用競争力につながるのではないかと考えています。キャリアプランが変わって退職する人と会社の関係が続き、その先で起業したり再入社したりすることが採用ブランディングにもつながり、雇用の好循環が生まれていく。そんな社会になるためには、アルムナイは重要なキーワードだと思っています」

かつて勤めた会社とのつながりを維持することが、新たな展開につながりそうだ。勤めている会社ではアルムナイ採用やアルムナイとつながる仕組みが導入されているか、確認してみよう。
(有竹亮介/verb)

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