日本経済Re Think

失った30年を経て目指す姿とは

「日本をもっと前へ」。マネーフォワード辻社長が描く、この国の成長シナリオ

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この国の市場や経済に成長可能性はあるのか。いわば投資における“日本の未来”を有識者が占う連載「日本経済Re Think」。今回お話を聞いたのは、マネーフォワード代表取締役社長CEOの辻庸介氏。

マネーフォワードは「お金を前へ。人生をもっと前へ。」をミッションに、日本のスタートアップを牽引する存在へと成長してきた。その創業者である辻氏は、日本の未来にどんなことを感じているのか。そして、日本経済を前へ進めるために、何が必要だと考えるのか。

ここ30年の敗因と、それを克服する「兆し」


バブル崩壊後の30年は、「失われた30年」ではなく「失った30年」であるー

これは経済同友会が2022年10月に発表した提言に盛り込まれた言葉だが、辻氏はこの見解に共感を示す。30年の結果は日本企業の経営者の責任であり、真摯に反省しなければならないと。

ではその状況を生んだ要因は何だろうか。辻氏は「ひとつは成長分野へのリソースの移行が遅れたこと」という。

「リソースというのは、ヒト・モノ・カネのすべてです。これらは成長性の低いところから高いところへと移行するのが重要ですが、日本はいずれも硬直化や流動性の低さから移行が遅れてしまったのではないでしょうか」

ただ、この点については良い兆しが出ているという。たとえばカネの面では、この10年でスタートアップエコシステムが大きく成熟し、若い企業に資金が流れやすくなった。ヒトにおいても、働き方の価値観が変わり転職は一般的に。「ヒト・モノ・カネ、さらには情報が流動するようになり、リスクを取ろうというところにマーケットが生まれて、そこにリソースが流れ込むようになってきた」と話す。

そういった兆しに加え、未来を考える上で日本にはいくつかの“強み”もあるという。たとえば今後、労働人口が減る中で海外の優秀人材を獲得することも必要になる。その点で日本の住環境の良さはメリットだ。

「日本は食事もおいしくインフラのレベルも高く安全で、住むには非常に良い国です。弊社もエンジニア組織の4割弱がNon-Japaneseですが、みな『日本は良い国』だと言いますね。これだけ住環境が整っているのは大きいですし、今後、海外から優秀人材に来てもらうために国も力を入れたほうがいいでしょう」

国としての安定感が相対的に高いのも日本の強みだ。2022年はロシアのウクライナ侵攻など、予想もしなかった政治的な動乱が起きた。米中対立なども深刻になりつつある。その中で「日本は政治的に“想定外のことが起きにくい”という意味で安定している国」だと辻氏。資産の保全や権利も法で保護されており、自分の資産を預ける国としては抵抗が少ない。

さらに、円安も日本に追い風だと辻氏は考える。製造業をはじめ、海外でモノ・サービスを売る企業は業績アップにつながり、これによって賃金も上がれば「長年苦しめられてきたデフレスパイラルから脱却できる可能性も」と先を見据えている。

加えて、この国には今後成長を見込める産業もあるという。同社の領域であるDXもそのひとつ。「たとえば中小企業のクラウド会計の浸透率はまだ30%前後となっており、かなりの成長余地があるでしょう」と辻氏。そのほか、デジタル庁の創設やインボイス制度の導入などもふまえると「DXは確実に進み、しばらくこの領域は伸びていくと考えています」と話す。

GDPが減っていく中で、日本企業に必要な行動とは


強みがある一方、これから日本が成長していくためには「企業のグローバル化も大切」と辻氏。その根拠になるのが日本のGDP推移だ。

内閣府公表のデータによると、世界のGDPに占める日本の割合は、1995年に17.6%まで上がった後、2010年には8.5%となった。先日発表された2021年の名目GDPでは、世界の約5%となり、比較可能な1994年以降で最低の数字だった。

さらに国際機関の予測では、2040年には3.8%、2060年には3.2%まで低下すると考えられている。

「これらをふまえると、企業は海外に出て外貨を稼ぐことが重要になるでしょう。メルカリやスマートニュースのように海外へ進出する企業も出ていますし、ビジョンや圧倒的なリーダーシップを持つ経営者も増えている。海外に出る動きは期待できるのではないでしょうか」

そのほか投資の観点では、日本経済が成長するために何か思うことはあるだろうか。辻氏は「まず僕ら企業が頑張って株価を上げることが大事」と前置きした上で、「NISAやiDeCoのように、個人投資家が投資しやすい仕組みを作ることも大切」だと話す。

「2000兆円といわれる個人の金融資産をどう投資に持っていくか。そのためには、個人の投資に強いインセンティブをつけることも考えられるでしょう。貯蓄が投資に行けば、回り回って日本経済が良くなりますから」

この話の流れで出てきたのが、マネーフォワードに投資する投資家の内訳だ。実は同社への投資は45%を海外機関投資家が占める。個人投資家は9%ほどにとどまるという。「もっと個人投資家の方から投資される企業になりたいですし、創業から時価総額が伸びてきた中で、日本の個人投資家の方にもっと投資先として認知してもらいたい」と気持ちを述べる。

自分のお金が社会の変化につながるのが株式投資


ここまでは経営者として、とりわけ上場企業のトップという立場で語ってもらったが、最後にあえて“個人投資家の視点”に立ったとき、「日本に投資する意義」を挙げるならどんなものだろうか。

辻氏にそんな質問を投げかけると「まず教科書的な話をするならば、さまざまな地域に分散投資をすることが大切。一定の割合は日本に割くのが重要だと思います」と話す。

ただし、日本に投資する意義はそれだけではないという。

「投資では、自分に近い会社や応援したい会社、共感する会社に中長期でお金を投じるのも良いと思います。その意味では、日本に住む人にとって日本株が一番イメージしやすいですし、情報も集めやすいですよね。子育て世代の人なら、育児のサービスを頑張っている日本の会社に投資するということもあるでしょう」

辻氏は「自分のお金が社会を変化し得ることにつながるのが株式投資」だという。だからこそ、「どんな社会にしたいか、社会をどう変えたいか。その思いをもとに企業に投資するのもいいのでは」と思いを述べる。

「お金を前へ。人生をもっと前へ。」。このミッションを合言葉にマネーフォワードを経営してきた辻氏。起業したときも、胸には「日本を何とかしたい」という思いがあった。そんな彼が語った、この国のこれから。日本を前へ進めるヒントは、彼の言葉のどこかにあるかもしれない。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2022年12月現在の情報です

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