国産の用途特化型機体が揃う
世界初の上場を果たしたドローン専業メーカー「ACSL」。目指すのは人の苦役を無くすこと
これからの市場で注目を集めそうなトレンドを深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。ロボティクス・ドローン編3回目の本記事では、ACSLを取り上げる。
ドローンの開発は世界中で過熱しているが、その中でドローン専業メーカーとして世界初の上場を果たした企業が日本にある。2018年12月に上場したACSLだ。
同社が開発するのは産業用ドローン。それも「用途特化型機体」を手掛けているのが特徴だ。一例として、下水道点検用ドローン、煙突点検用ドローンなどがある。
近年、セキュリティの観点から“国産”への期待が高まるドローンの領域。その担い手として重要な位置にいるACSLの強みはどこにあるのか。同社取締役 CFOの早川研介氏に聞いた。
使い道に合わせて機体を最適化した「用途特化型機体」
まずはACSLが開発している機体のラインナップを見てみたい。同社が2019年に開発したドローン・プラットフォーム機体「ACSL-PF2」は、複数の用途に使える汎用性の高いもの。おもに点検、物流、防災といった領域に応用可能となっている。
そして、ACSLの特徴といえる製品群が「用途特化型機体」だ。「ドローンで点検を行うにも、その対象が下水道内か煙突内か、あるいは送電線の点検かによって、ドローンに求められる飛行や搭載カメラは大きく変わります」と早川氏。そこで、同社ではユースケースに特化した機体を開発しているという。
わかりやすい例が、下水道点検に特化したドローン。「閉鎖環境点検ドローン」の一種だという。人が入れない、直径数十センチの下水道管内をドローンで点検する。
「現在は歩行型ロボットなどを使っていますが、途中の障害物でつまずくなど効率が悪いことなどが課題です。そこで、ドローンで下水道内を飛行し、映像を撮影します」
同社の製品には、煙突内点検に特化したドローンもある。こちらは縦方向に飛行する能力にすぐれた構造になっているという。
そのほか、中型物流機も開発。先述したPF2も物流は行えるが、中型物流機はより重い荷物を運べる。「物流の場合、ドローンは前方への飛行が基本になります。空力をふまえ、この機体は前方飛行に最適化した作りとなっています」。
こういった用途特化型機体の中でも、特に人気が高いのが小型空撮ドローン「SOTEN(蒼天)」だ。災害後の状況把握のための空撮や、インフラの点検などに使われているという。
ドローンの制御技術を自社で保有しているのは、世界でもわずか
ドローンメーカーは世界中で誕生しているが、その中でACSLの強みはどこにあるのだろうか。この観点でまず外せないのは「セキュリティ」の部分だ。
先述した小型空撮機をはじめ、ドローンは重要な情報を取得し、通信を行うIoTだ。国防にも関連する情報を扱うこともあるからこそ、日本政府は国内企業のドローン開発を後押ししている。その意味で、同社の“国産”ドローンは大切な位置付けとなる。
さらにセキュリティの文脈に加えて、ACSLはドローンの機体認証にも取り組んでいる。これは今後のドローン発展で欠かせない強みとなる。
というのも、先日報道があった通り、2022年12月から一定条件を満たしたドローンの「レベル4飛行」が可能になった。レベル4飛行とは、有人地帯において、補助者なく目視外で飛行すること。
レベル4飛行をするには、国の定めた機体認証や操縦者の技能証明(無人航空機操縦者技能証明)を受けるなどの条件がある。こういったルールが整備される前から、ACSLではISOの認証を得るなど、品質保証に努めてきた。それは追い風になるという。
このほかに同社の強みとなるのが、独自開発したドローンの制御技術だ。
「ドローンを制御するソフトウェアをソースコードから自社で保有しているのは、世界でも数えるほどしかありません。多くの企業はオープンソースソフトウェア(※ソースコードを一般公開し、他社が自由に利用できるもの)を使っています」
ここでいう制御技術とは、どんなものだろうか。1つは、機体の姿勢を自ら安定させ、飛行する技術。たとえば風が吹いたとき、機体が傾いたことを自分で認識して姿勢を戻すなど。これはドローンにおける“小脳”だという。
「そのほか、センサーによって機体の周辺や進行方向に何があるか感知する環境認識技術も重要。これはドローンの“大脳”にあたります。大脳と小脳を独自開発しているのは強みであり、ACSLのルーツである自律制御システムにつながります」
同社はもともと、2013年11月に千葉大学・野波健蔵研究室から生まれた大学発ベンチャーだ。当時の企業名は「自律制御システム研究所」。現社名のACSLは、このときの企業名の英語表記(Autonomous Control Systems Laboratory)が由来となっている。つまり、自律制御システムの開発こそが、この企業の源流といえる。
「自律制御システムはドローンだけでなく、地上走行車にも展開できると考えています。いまはこの技術を応用しやすいドローンに力を注いでいますが、そこにとどまらず、ロボティクス全般にこの技術を使っていくことを想定しています」
ドローンに始まり、いずれさまざまな領域に自律制御システムを投入していく。そんな展望を口にした上で、早川氏は「ロボティクスによって、人の苦役を無くすのが私たちのミッションの根底にあります」という。そこには、人がやらなくてもいいことをロボティクスで代替したいという熱意がある。
「今後、日本は労働人口が減り、一方でインフラの老朽化は進むでしょう。その中で、いまと同じ生活水準を数十年後も維持できるかは大きな課題。その課題解決こそが私たちの使命です。最新技術は注目度も高まりやすい分野ですが、焦らず丁寧に、人が行う業務を1つ1つひもといて、ロボットの技術で解決していきたいですね」
そうして早川氏が描くのは、人とロボットが共存し、より豊かで自由な暮らしが実現した未来だ。国産ドローンメーカーの代表であるACSLは、自律制御を武器にロボティクスで人の苦役を無くしていく。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2022年12月現在の情報です