本から開く金融入門

【三宅香帆の本から開く金融入門】

「投資は自分の資産のためにするもの」というイメージを覆す名著『投資家が「お金」よりも大切にしていること』

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投資家が運用する株を選ぶ基準って、何?

投資というと、どのようなイメージがありますか?
自分の資産を増やすために、やったほうがいいこと。

――そんな印象を持っているあなたに、ぜひ読んでほしい本がある。

それが本書『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社)。

著者は投資信託「ひふみ」シリーズ最高投資責任者であり、様々な投資に関する著作を執筆しているファンドマネージャー藤野英人氏。

彼の仕事であるファンドマネージャーとは、投資信託の運用を行う職業のこと。

「投資」というと株式投資の印象が強かったり、投資信託という言葉に馴染みがなかったりする方もいるかもしれない。まず投資信託と株式投資の違いは以下の通り。

株式投資……株式とは企業が資金を集めるために発行するもの。自分で買いたい株式の銘柄を選び、投資する
投資信託……投資家から集めた資金を元に、ファンドマネージャーが株式や債券等を選んで投資・運用する金融商品(その運用成果が投資家に分配される)

「自分の買った株が下がった!」なんて言葉は、前者の場合に多い嘆き。自分で選んだ株式だからだ。後者の場合は、どのような運用方針の投資信託を買うかは私たち投資家の手に委ねられるのだが、いくら投資するかを決めてしまえば、あとはファンドマネージャー=投資のプロに任せられる。だからファンドマネージャーの責任は言うまでもなく重大。人のお金を預かって、運用するのだから。結果が悪かったら、そのファンドの投資信託を誰も買わなくなってしまう。

そんなファンドマネージャーとして活躍するのが、本書の著者なわけである。

「彼が一体どんな基準で考えて、運用する株を選んでいるのか?」気になる人も多いのではないか。一流の投資家であるファンドマネージャーが株を選ぶ基準を知ることができれば、私たち読者の株式投資のヒントになるのでは!?

投資は、お金に限った話ではない

しかし本書を読んでみると、少し期待を裏切られるかもしれない。藤野氏は、「投資は、自分の貯金を増やすためにするものではない」と言い切る。

投資とは、お金に限った話ではない。社会の未来のためになることをすることこそが、投資なのだ、と。

むしろお金のみにこだわることは、本当の意味での投資ではない、藤野氏はそう述べる。

けっして、硬貨や紙幣がお金なのではありません。
お金とは、本来目に見えない“エネルギー”の一種なのです。

みなさんは仕事をすることでエネルギーを生み出し、消費をすることでエネルギーを使っています。
そのエネルギーをどう世の中に流して、みんなと一緒にどんな未来をつくっていくか? そういったことを考えることこそが「お金」について考えることであり、お金の哲学だと言えるでしょう。
貯金として眠っているお金、特にタンス預金のお金に、世の中を変えるエネルギーがあるでしょうか?
いいえ、それはエネルギーが消滅した「死んだお金」です。
(『投資家が「お金」よりも大切にしていること』p203-4)

ここを読んで、ぎくり、とする人もいるのではないだろうか。

投資を始めたいと考える時、私たちはどうしても「貯金を増やしたい」という考え方になりがちだ。貯金を増やして、安心したい。自分の安心材料を増やしたい。だから投資というツールを得たい。

もちろんそう考えることが悪いわけではない。でも、本来の投資の目的は別にある。そう藤野氏は本書で語るのである。

より良い社会のためにできること

投資というと、どうしても「お金を増やせるかどうかがすべて」だと考える人たちのものだと思い込んでしまう。

たとえばお金を稼いでいない主婦や、人の世話になる赤ちゃんや老人は、投資していないし投資できるはずもない、そんなふうに思う人も多いだろう。けれど本書は、実はそうではないのだ、この社会に生きている人は皆投資する存在なのだ、と説いている。

たしかに考えてみれば、赤ちゃんが存在するから生まれている商品はたくさんあって、その商品を売っている会社に投資している人はたくさんいる。だとすれば赤ちゃんもまた、投資の経済圏のなかのひとりなのである。

自分のお金が問題なのではない。社会をより良くするツールとして、お金がある。そんな考え方を本書はもたらしてくれる。

藤野氏という投資のプロがそれを語ることによって、それは決して社会の理想論ではなく、実際に「投資」という考え方はそういう発想から来ているのだということが切に伝わってくる。その面白さと切実さこそが、本書の魅力だ。

きっと本書を読み終えたころには、投資信託や株式といった金融商品を、ただの商品に思えなくなってくる。血の通った人間たちが創り上げ、毎日働いて動かしている、会社というひとつの人間組織に投資するエキサイティングさが、伝わっているから。

私の考える投資の目的はただひとつ、
「世の中を良くして、明るい未来をつくること」
なんですね。
最大のお返しとは、“明るい未来”のことです。
そして、未来が明るくなれば、自分自身もより良い人生を送れるようになります。
少し青臭く聞こえるかもしれませんが、明るい未来をつくること以外に、投資の目的はありません。
会社やビジネスに投資(株式投資・不動産投資など)することは「直接的に、世の中を良くすること」であるし、自己投資も「間接的に、自分を通して世の中を良くすること」だと考えています。
(『投資家が「お金」よりも大切にしていること』p203)

昨今、自己投資という言葉が流行し、自分のために、自分を大切にして行動しよう、という考え方がよく説かれている。もちろんそれも間違いではないし、他人の言う通りではなく自分の意志や心身を大切にして生きるのはすごく重要なことだ。しかし一方で、自分だけが良ければいいのかと言われると、自分がより良く生きるには社会がより良くあることが必要だということもまた、本当なのだろう。

自分だけでは自分は幸せになれない。自分が生きる社会がより良くなってくれないと、誰も幸せになれない。――そう考えると、自分の生きる社会に「投資」する必要が見えてくるはずだ。

明るい未来のために、今自分ができることは何か? そして自分のお金を通して、社会や世の中のためにできることはあるのか? 明るい未来に貢献してくれそうな会社は、どこにあるのか?

そんな問いを考えたくなる良書。ぜひ一読してみてほしい。

著者/ライター
三宅 香帆
京都大学大学院人間・環境学研究科卒。会社員生活を経て、現在は文筆家・書評家として活動中。 著書に『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』などがある。フリーランスになったことをきっかけに、お金の勉強を始めている。
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