本から開く金融入門

【三宅香帆の本から開く金融入門】

「推し」に忙しいオタクの皆さん、お金の増やし方を学びませんか?『一生楽しく浪費するためのお金の話』

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お金の貯め方増やし方に自信がない人に読んでほしい

お金の使い方ならたくさん知っている。欲しいものも、観たいものも、応援したいものも、たくさんある。お金を使う場所ならこの世にいくらでもある。

でも、お金の増やし方だけが分からない。節約なんて、簡単に言われても、どうしたらいいか分からない。

「自分のお金について詳しくない」という、ぼんやりとした不安が、消えない。

――まさにそんな方に読んでほしい一冊がある。それが本書『一生楽しく浪費するためのお金の話』。

著者は30代のオタク女性4人組のユニット「劇団雌猫」。彼女たちは、自分のお金の使い方について悩んでいた。アラサーになったけど、ずっとこんなふうにオタク趣味にお金を使っていていいの? 貯金って、どれくらい必要? ていうか老後に向けてどういう備えをしておくべきなんだろう? そんな疑問を抱えていた彼女たちは、ファンドアナリストの篠田尚子氏と出会う。

篠田氏は、まさに日本トップレベルの投資信託アナリスト――つまり金融のプロでありながら、なんと自身もオタクなのだという。ツアーのために旅行したり、ファングッズを買ったりすることに抵抗がない。だからこそ彼女の金融アドバイスに、「とにかく節約せよ」なんて言葉は存在しない。

休日も平日も忙しいオタク女性にとって、最適なお金との付き合い方とは何だろう? 主に20~40代の女性をターゲットに、劇団雌猫のメンバーと篠田尚子氏の「お金の話」を収録した対談集が本書である。

なかでも注目したいのが、第二章として収録されている、「悩める浪費女の大問答」の章。20~40代のオタク女性の家計簿に対し、篠田氏が具体的なアドバイスを施しているのだ。相談者の立場も、フリーランス、DINKs、もうすぐ結婚予定、地方在住、親の介護予定など、さまざまな人物が集まっている。そのためアドバイスも「市区町村への相談をしたいならここに行くべき」「フリーランスが確認すべき上乗せ年金のラインナップ」「奨学金返済がある場合の貯金プラン」など、かなり具体的なものになっている。アドバイスも相談内容も、現実的かつ明瞭なので、自分に役立つ情報が見つかりやすい。一読することを是非お勧めしたい章だ。

浪費を肯定するお金の話

他の類書と異なる、本書のいちばんの特徴は、「浪費を肯定」していること。

従来の若い女性への貯蓄術や投資術というと、まずは「無駄遣いをなくそう」という言葉が唱えられることが多い。ちょっとした無駄遣いをなくし、節約しながらお金を貯めよう、と言われる。

しかし果たしてそれが正しいのだろうか。とくに20代のうちは、自分の経験や知識に投資すれば、結果的に生涯年収が上がるケースもある。もちろん本書が「浪費」と呼んでいるのは趣味の分野だが、何が仕事に直結するのか、自分の人生の幸福につながるのか、本当は誰にも分からない。実は何が「無駄遣い」なのか、その基準は曖昧である。

なにより、自分に合ったお金の使い方は、年齢を重ねても誰も教えてくれないのだ。自分が何が好きで、何を豊かだと感じ、どうお金を使えば幸せになるか。実際にお金を使ってみないと分からないことはたくさんある。つまりむやみやたらと節約を心掛けることは、人生に対して投資する機会を奪う可能性だってあるのだ。

だからこそ本書は節約ではなく、「お金の貯め方と増やし方を知ろう」と唱える。

まずは本業でお金を稼ぐ。仕事をずっと続け、自立することを重要視する。そのうえで、社会保険や投資先、そして貯金する方法を考え、お金を増やす仕組みを作り出そう――それが本書の主旨なのである。

知ることで、お金の話が怖くなくなる一冊

ただ投資や貯蓄の知識は手に入れたくとも、たくさん教えられても何から始めていいのか分からない、という方もいるだろう。その点も本書は安心だ。まずは最低限これだけやろう、という具体的なアドバイスが盛り込まれているからである。

たとえば本書は会社員の貯金方法について、「普通預金に全額預けるのではなく、一部を定期預金に振り分ける」ことをおすすめしている。これはキャッシュカードで引き出せないようにして、貯金用の別口座を作っておくためのコツだという。

あるいは、メインバンクとネット銀行の組み合わせは、どう選べばいいのか。ネット銀行に自分の口座を開設しておくメリットはどこにあるのか。

そんなちょっとしたコツも具体的に教えてくれるので、「なるほど、そう考えればいいのか!」と参考になる情報が見つかることだろう。私はお金の話全般に言えることだと思うのだが、口座の選び方も、貯金のコツも、投資信託の銘柄も、知ってしまえばなんともない情報ではある。しかし知るまでのハードルが高い。そんな時、まずはここから始めようと言ってもらえる情報源があるだけで、ぐっと苦手意識が減るはずだ。

一度知ってしまえば、自分の今の状況に合わせたプランを考え始めることができる。

そしてなにより、自分はお金について何も知らないのではないか? という不安が減ってくる。

知ることで、怖くなくなる。それが本書のなによりも良い点だと私は思う。

「投資も貯金も社会制度も味方につけて、オタク趣味を楽しもう!」と、読むと前向きになるメッセージを、具体的なtipsとともに教えてくれる本書。詳細に年金や保険の仕組みを説明してくれているので、お金について何も知らないという人も、ハードル低く読める本なのではないだろうか。「2023年こそ貯蓄や投資をきちんとするぞ!」と意気込むあなたに読んでほしい一冊目の金融入門書である。

著者/ライター
三宅 香帆
京都大学大学院人間・環境学研究科卒。会社員生活を経て、現在は文筆家・書評家として活動中。 著書に『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』などがある。フリーランスになったことをきっかけに、お金の勉強を始めている。

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