企業型確定拠出年金は転職でどうなる?公務員になる場合も解説
転職先に企業型確定拠出年金があれば、運用している資産を移換できます。また、転職時に必要な手続を怠ると、資産が国民年金基金連合会に自動移換されるため、注意が必要です。
転職時の企業型確定拠出年金の扱いや、手続を放置してしまった場合のデメリットを解説します。
企業型確定拠出年金とは
企業型確定拠出年金(企業型DC)とは、加入者ごとに拠出された掛金を加入者自らが運用し、その運用結果に基づいて給付額が決定される年金制度(確定拠出年金)のひとつです。確定拠出年金には、企業型確定拠出年金以外に、個人型確定拠出年金(iDeCo)があります。
ここから、企業型確定拠出年金の特徴や対象、メリットについて確認していきましょう。
企業型確定拠出年金の特徴
会社側で掛金を拠出する点が、企業型確定拠出年金の特徴です。また、規約に定めがあれば、企業が負担する掛金に従業員が上乗せすることもできます(マッチング拠出)。
実施主体は会社側である一方で、運用の指図を行うのは加入者(従業員)である点も特徴です。選択する金融商品には、定期預金や保険商品を対象にする「元本確保型」と、投資信託を対象にする「価格変動型」があります。
企業型確定拠出年金の対象
第1号厚生年金被保険者(民間被用者)と第4号厚生年金被保険者(私立学校教職員)だけが、企業型確定拠出年金の加入対象です。そのため、第2号厚生年金被保険者に該当する国家公務員や、第3号厚生年金被保険者にあたる地方公務員は加入できません。
また、企業型確定拠出年金を導入していない会社に勤務している従業員も、加入対象外です。
企業型確定拠出年金のメリット
運用益が非課税である点は、企業型確定拠出年金に加入するメリットです。また、マッチング拠出の制度を利用して加入者が上乗せした掛金の金額は、所得控除の対象となります。
会社側が掛金を負担する点も、メリットです。確定拠出年金を管理・維持するための口座管理手数料も、会社側で負担します。
企業型確定拠出年金について、さらに詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
民間企業転職時の企業型確定拠出年金の扱い
現在、企業型確定拠出年金に加入している方が、民間企業に転職する際にどうなるか解説します。ここで説明するのは、転職先が企業型確定拠出年金を導入している場合の扱いです。
転職先の制度に加入する
積み立てた資産は、転職先の企業型確定拠出年金に移換できます。手続きは転職先で進めるため、所管部署に確認してから「個人別管理資産移換依頼書」を提出しましょう。
なお、移換する際に、以前の勤務先で企業型確定拠出年金を利用して積み立てた資産が、一度換金される点に注意が必要です。勤務先によって導入されている商品の種類が異なるため、転職して移換する際に、新しく金融商品を選び直さなければなりません。
掛金額は転職先によって異なる
限度額は決められていますが、企業型確定拠出年金の具体的な掛金額は会社によって異なります。あらかじめ、転職先の所管部署に掛金額を確認しておきましょう。
2023年1月現在で拠出限度額は、企業型確定拠出年金のみに加入している場合に月5.5万円、その他制度にも加入している場合に月2.75万円です。ただし、2024年12月以降は拠出限度額が変更になる予定です。
転職先に企業型確定拠出年金がない場合は?
企業型確定拠出年金を導入していない会社もあります。そこで、転職先に企業型確定拠出年金がない場合にとりうる手段は以下の3つです。
1. 個人型確定拠出年金(iDeCo)に移換
2. 確定給付企業年金に移換
3. 脱退一時金受取
それぞれ解説します。
1.個人型確定拠出年金(iDeCo)に移換
転職先に企業型確定拠出年金がない場合でも、個人型確定拠出年金(iDeCo)に資産を移換できます。ただし、企業型確定拠出年金に移換する場合と同様に、一度現金化されるため、転職すると金融商品を選び直さなければなりません。
iDeCoとは、自分で掛金を拠出し、運用方法を選ぶ年金制度を指します。iDeCoに加入する場合、掛金の上限額は月2.3万円です。
なお、転職先が企業型確定拠出年金を導入していても、規約で認められていればiDeCoに加入できます。その場合、掛金の上限額は月2万円です。
2.確定給付企業年金に移換
転職先が導入していれば、確定給付企業年金に移換できることがあります。確定給付企業年金とは、会社側が従業員と給付の内容を事前に約束し、高齢期に従業員が約束内容に基づいた給付を受け取れる企業年金制度です。
ただし、移換するには、転職先の規約に「企業型確定拠出年金からの移換を受け入れられる」ことが定められていなければなりません。確定給付企業年金への移換を検討する際は、事前に転職先の所管部署に確認しましょう。
転職先が確定給付企業年金制度を実施している場合でも、iDeCoに加入はできます。その場合、iDeCoの掛金上限額は月1.2万円です。
3.脱退一時金受取
転職先に企業型確定拠出年金がない場合、脱退一時金を受け取る方法もあります。脱退一時金とは、企業年金制度から脱退したときに支給される一時金のことです。
ただし、脱退一時金は、死亡や障害の理由を除き、原則として60歳になるまで受け取れません。加入者が60歳未満の場合は、個人別資産が1.5万円以下、もしくは外国籍人材が帰国する場合で一定の条件を満たす場合のみ、例外的に受取可能です。
要件を満たす必要がある点、脱退一時金を受け取ると老後のための資産を先に受け取ることになる点などを考慮し、脱退一時金受取以外の方法を検討した方がよいでしょう。
参考:iDeCo公式サイト「iDeCo(イデコ)の特徴」
参考:企業年金連合会「脱退一時金(退職一時金)」
参考:個人型確定拠出年金(iDeCoポータル)「脱退一時金の請求をする」
民間企業に転職しない場合は?
退職して、民間企業には転職しないケースもあります。そこで、「公務員になる場合」「専業主婦(夫)になる場合」「個人事業主になる場合」に企業型確定拠出年金がどうなるか、確認しておきましょう。
公務員になる場合
国や地方自治体には企業型確定拠出年金がないため、公務員になる場合は、基本的に「転職先に企業型確定拠出年金がない場合」と同様の流れです。
iDeCoに加入すれば、公務員になった後も資産を移換して確定拠出年金を利用できます。2022年12月時点で国民年金の第2号被保険者(厚生年金の被保険者)のうち、国家公務員や地方公務員などの共済組合員でiDeCoに加入しているのは、583,990人でした。
なお、公務員がiDeCoに加入する場合の掛金上限額は月1.2万円です。
専業主婦(夫)になる場合
専業主婦(夫)になる場合も、引き続き企業型確定拠出年金を利用することはできません。iDeCoに加入して資産を移換することを検討しましょう。
専業主婦(夫)がiDeCoに加入する場合、月2.3万円まで掛金を拠出できます。また、2022年12月時点で、専業主婦(夫)などが該当する国民年金第3号被保険者のiDeCo加入者数は、122,922人でした。
個人事業主になる場合
個人事業主になる際も、企業型確定拠出年金がない会社に転職する場合と基本的に同じです。iDeCoに加入して、資産を移換することを検討しましょう。
個人事業主の掛金上限は、月6.8万円です。2022年12月時点で、20歳以上60歳未満の自営業者とその家族・フリーランス・学生などが該当する、国民年金第1号被保険者のiDeCo加入者数は、303,505人でした。
参考:iDeCo公式サイト「業務状況 加入等の概況(令和4年12月時点)」
参考:iDeCo公式サイト「iDeCo(イデコ)の仕組み」
必要な手続きを放置するとどうなる?
転職・退職したにもかかわらず、定められた期間内に企業型確定拠出年金に関する必要な手続きを放置すると、デメリットが生じることもあります。ここから、期限経過後の扱いや、デメリットについて確認していきましょう。
期限経過すると自動移換
退職して企業型確定拠出年金の加入者資格を喪失してから、6カ月以内に手続きを進めなければなりません。放置して手続きの期限をすぎると、確定拠出年金法第83条に基づき、年金資産が自動移換されます。
自動移換とは、企業型確定拠出年金で運用していた資産が自動的に現金化され、国民年金基金連合会に移されることです。
期限経過した際のデメリット
手続きを放置したまま期限が経過して年金資産が自動移換されると、現金の状態で管理されるようになります。そのため、今までのように自分で金融商品の選択ができなくなる点がデメリットです。自分で金融商品の選択(運用の指図)ができないにもかかわらず、管理手数料は差し引かれてしまいます。
そのほか、自動移換中は老齢給付金を受け取るための加入者期間に算入されないため、受給開始の時期が遅くなる可能性もある点はデメリットです。
もし、自動移管されてしまった、または心当たりがある場合は、自動移換者専用コールセンターに問い合わせて、必要な手続きを行いましょう。
参考:個人型確定拠出年金(iDeCoポータル)「個人型確定拠出年金への移換手続きの方法」
参考:個人型確定拠出年金(iDeCoポータル)「自動移換とは?」
転職時に企業型確定拠出年金を移換できることがある
会社側で導入していれば、転職先に企業型確定拠出年金を移換できます。転職先での手続きが必要なため、移管方法を所管部署に確認してください。
また、転職先が企業型確定拠出年金を導入していない場合や、民間企業に転職しない場合でも、個人型確定拠出年金に移換できます。今後、転職を検討する際は、今運用する企業型確定拠出年金をどうするか、考えておきましょう。
参考:企業年金連合会「確定拠出年金のしくみ」
参考:一般社団法人 投資信託協会「確定拠出年金ではどんな運用商品が用意されている?」
参考:厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」
参考:iDeCo公式サイト「個人別管理資産の移換手続きについて」
参考:iDeCo公式サイト「お問い合わせ(自動移管者専用コールセンター)」
ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。現在は公益社団法人管理職。