雑談の有無でストレス解消に差?
社内番組にほめシャワー。企業が行ったコロナ禍の「コミュニケーション活性化」
世の中のトレンドを深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。この連載では、コロナ禍に起きた変化を追いかけてきた。今回取り上げるのは、企業がこの期間に始めた「コミュニケーション活性化」の取り組みである。
コロナ禍でテレワークが普及すると、企業は新しい課題に直面した。社員コミュニケーションの減少である。そんな中、いくつかの企業は社員同士の雑談や交流を生み出す取り組みを行ってきた。
本記事では、それらの事例をリクルート HR統括編集長の藤井薫氏が紹介。あわせて調査データをもとに、テレワークで生まれるストレスや、それを解消する雑談の効果についても解説してもらった。
高視聴率80%を記録した、マクアケの社内番組
テレワークは多くのメリットをもたらした。移動時間の削減や、働く場所を選ばなくて良いのはその代表だろう。しかし一方で、社員がコミュニケーションをはかる機会も少なくなったと言える。
そんな中、社員の交流や雑談を”意図的に生み出す”企業が増えている。たとえば転職サイト「リクナビNEXT」では、企業がいきいきと働ける場を作った事例を「グッド・アクション」として毎年表彰しているが、コロナ禍では社員コミュニケーションに関する取り組みが多く見られたという。
その1つが、スタートアップ企業のマクアケが2020年に始めた社内番組。社員をゲストに招いて仕事やプライベートに関するトークを配信する番組「幕ウラでダル絡み」を社内で開始し、コロナ禍で減る社員コミュニケーションの活性に取り組んだ。
有志メンバーが企画から演出、出演、撮影、配信までを行い、創業記念日には24時間放送も実施。最高視聴率は約80%を記録したという。
藤井氏は「企業が成長して社員数が100人に近づくと、コミュニケーションや組織運営の困難が出てくると言われます。“100人の壁”と表現されますが、マクアケもちょうどその壁に差し掛かった時期であり、コロナ禍で課題はより深刻だったはず。それを社員の発想で克服しようとした事例でしょう」と話す。
自動車学校を展開する大東自動車の事例も興味深い。自動車学校というと、怖い指導員に厳しく教えられるイメージを持つこともあるが、同社の三重県南部自動車学校では「ほめちぎる教習」を取り入れ、生徒の良いところにフォーカスする指導を始めたという。
とはいえ、いきなりほめちぎろうとしてもうまくできない。そこでまずは指導員同士が日常的にほめちぎるよう、「ほめ合う研修」を取り入れた。また、毎日の朝礼で2人1組になり相手をほめちぎる「ほめシャワー」も行ったという。
面白かったのは、この取り組みで指導員同士の相互理解が進んだことだ。「仲間をほめるうちに指導員同士がお互いに関心を持ったり、自然と感謝を述べたり、職場の雰囲気が変化したといいます。これはコロナ禍に限らず興味深いコミュニケーションの事例です」と藤井氏は述べる。
最後に、日本生命保険相互会社が行った「コミュニケーション4」も参考になる事例だ。コロナ禍で社員コミュニケーションの自粛が起きる中、同社では4名1組で指定されたテーマについて語り合う「コミュニケーション4」を実施している。「最近のマイブームやストレス解消法といった選択肢を用意し、会話のテーマをルーレットで選んで決めていくのも特徴のひとつ」と藤井氏。こうして雑談を増やすことで、社員コミュニケーションが活性化してきたという。
雑談のない人は、テレワークのストレスに長期で苦しんでいる?
ここまでは3社の事例を紹介したが、テレワークによるコミュニケーション不足という悩みは日本企業全体、あるいは日本のビジネスパーソン全体に当てはまるのではないだろうか。
それに関連するデータがある。ちょうどテレワークが定着した2020年9月、リクルートが行った調査によると、コロナ禍でテレワークを始めた就業者のうち、以前はなかった仕事上のストレスを実感した人は59.6%にのぼったという。このうちの67.7%は、そのストレスが依然解消されていないと答えた。
「さらに興味深かったのは、テレワークによって新たなストレスを感じた人を仕事中に雑談のあるグループとないグループに分けたところ、その後のストレス解消具合に差があったのです」(藤井氏)
詳しく説明すると、雑談があるグループは「現在までにストレスを解消できていない」と答えた人が63.2%だったのに対し、雑談なしは77.3%と多かった。つまり、雑談がない人たちはテレワークで生じたストレスに長期で苦しんでいる可能性がある。
「そのほか、調査では50代〜60代のストレスが強いこともわかっていましたが、この年代は特にテレワーク中の雑談が少ないことも判明しており、雑談とストレスの関係がうかがえます」
効率化で息苦しさが増す中、雑談がもたらす「心理的安全」
働き方の変化とともに減少した雑談。しかし、テレワークが普及するほど、雑談が持つストレス解消という役目は大きくなると藤井氏はいう。
「テレワークで効率化が進むと、自分がいることに意味を持つ“存在性”よりも、何をしてくれるかという“効用性”が重視されがちです。しかし効用性ばかり偏重されると、ストレスや息苦しさが生まれるもの。その中で雑談は1人ではできないものであり、また相手に成果を求めません。つまり相手に効用性を望むより、存在性を認め合い、心理的安全を生む行為といえます。それがストレスや息苦しさの解消につながるのではないでしょうか」
雑談は相手に成果を求めるのではなく、「いてくれてありがとう」というメッセージ交換であり、存在性の確認になっていると藤井氏は説明する。だからこそ、効率や効用性に偏りやすいテレワークの中で重要な位置づけになるのだろう。
テレワークが定着する中で、雑談によるコミュニケーションをどう行うのか。これらは企業の命題になるだろう。また、就職や株式投資をする上でも、そういった視点で各社の取り組みを見てみると、企業の新たな一面がわかるかもしれない。
(取材・文/有井太郎)
※記事の内容は2023年2月現在の情報です