【三宅香帆の本から開く金融入門】

「お金」にまつわる知識を網羅してくれる最強の金融入門書マンガ『インベスターZ』

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今一番おすすめしやすい「お金の入門書」は漫画!

今、日本でもっとも有名で、誰にでも薦められる「お金の入門書」は何だろう?

……そう考えた時、思い至ったのは、とある漫画だった。

『インベスターZ』。作者は大学受験漫画『ドラゴン桜』で一世を風靡した三田紀房さん。彼の描く「お金」をテーマにした漫画は、どんな入門書にも負けない、良質な「お金の入門書」になっているのだ。

主人公は、中学一年生の財前孝史。彼の入学した学園は、学費無料、成績優秀で大人気のトップクラス中高一貫進学校だった。学園に首席入学した彼は、とある部活に誘われる。地下を潜っていった先にある、秘密基地のような部室――それは「投資部」だった。

なんと「投資部」には各学年の成績トップの人間が集められる。そして彼らは秘密裏に、学校が用意した予算で投資をおこなっているのだ。

彼らが運用した投資の利益によって、この学園の生徒の学費は賄われているのだった。「なるほど、だからこの学校は学費無料になっているのか」と納得したのも束の間、財前は部活を通して、投資の世界にのめり込んでゆく……。

中高生を主人公としながらも、大人も楽しく学ぶことができる「投資漫画」こと『インベスターZ』。

しかし本書で学べるのは投資のコツだけではない。保険の仕組み、起業の考え方、日本の企業のカラクリ、そして経済の歴史など、さまざまな「お金」にまつわる知識を提供してくれるのである。

「人間はお金によって考える時間を獲得した! 深く考え智慧を持ち知識を蓄える 生き物の中で人だけが持つ高度な能力はお金によってもたらされたんだ」
「お金が人を人にした」

――そのように説く漫画『インベスターZ』は、こんなにも身近なのに、なぜか詳しい知識を得られていないテーマ「お金」を主役に据えた物語なのである。

ビジネスが分かれば、投資が分かる

物語は、株式投資に財前が挑戦するところから始まり、FXや不動産、あるいは保険、そして金(ゴールド)や銀に至るまで、さまざまな投資分野について解説する。

そして財前の投資物語を軸にしながらも、日本のビジネスの仕組みについて教えてくれるところがこの漫画の面白いところなのだ。

たとえば、セブンイレブンがなぜ革命的なコンビニだったのか、を財前が先輩から教わる回。

先輩は、企業が起こす革命には“動”と“静”の2種類がある、と伝える。

「動」とは、言うまでもなく、大ヒットするような画期的な商品を発売すること。しかし大ヒットの末に類似品が多数出てしまい、企業生命が短命な場合に注意。反対に「静」とは、世の中を騒がす派手さはないが、静かに日常に溶け込み、世界を変えるような商品を発売すること。――つまり、世の中で騒がれていないけれど、実は確実に世界を変えるような商品というものは存在するのだ、という。
後者を見抜くことができれば、もちろん投資先としてどこが優良企業なのか、よく分かってくる。そして企業の仕組みが分かれば、どんな株を自分は買いたいか――つまりどんな企業を自分は評価したいのかが、分かってくる。

日本のビジネスの仕組みを知ることは、まわりまわって、自分の投資先を知る手がかりを得ることでもあるのだ。

「お金に弱い」のは、誰のせい?

さらに面白いのは、現状の日本のビジネスだけでなく、過去に遡って世界や日本の歴史もしっかり説明してくれるところ。

「日本人はお金に弱い」「日本人は投資について忌避感がある」という言葉を巷ではよく聞く。もちろん私もそう思っていたひとりだ。

しかし『インベスターZ』はそんな思い込みを打ち砕いてくれる。というのも、実は江戸時代まで遡ると、アメリカのシカゴで誕生する100年も前に、日本には商品取引所――つまり今手元にない商品を取引する「投資の始まりの仕組み」が存在していたのだ。この商品取引所は活況だったらしく、なんと当時のトレーダーも儲けていたらしい。

つまり江戸時代の日本人は、欧米よりも先に、投資のシステムを活用していたのだ。

しかし転換点は、第二次世界大戦にあった。戦費調達に困った日本政府は、国民に貯蓄奨励キャンペーンを施す。

貯金しない人々は、非国民だ――そんなふうに言われることを恐れた庶民は、現金を貯金した。政府はそのお金を使って、国債を引き受け、軍需産業にまわしたのだった。そのまま戦後も国を立て直すため、政府は庶民の貯蓄した現金を利用した。

このように、国民には貯蓄をしてもらった方が、政府にとっては都合がよかったのだ。

そう考えると、私たちが勝手に「日本人は投資に苦手意識がある」なんて言っていることも、なんだかばからしくなってくる。

もっと自分たち自身の頭で考え、そのうえで自分の資金をどう使うか、どのような企業に投資するかを考えたほうがいい。『インベスターZ』を読み、お金の歴史を知ると、心からそう思うようになるのだ。

株式投資ひとつとっても、そこには投資文化を作り上げた世界の歴史があり、貨幣の歴史がある。そしてさらに、現代日本を取り巻く企業や市場の状況が、背後に存在する。『インベスターZ』は、投資のコツだけでなく、投資の背後に存在する「お金とは何か? なぜ今のようなお金の仕組みができたのか?」という問いを解き明かしてくれる。

お金について何も知らないことがいいことだとは思えない。もっと自分の頭で考え、お金という手段を賢く、そして世の中のためになるように使おう――そんなふうに思わせてくれる物語なのだ。

著者/ライター
三宅 香帆
京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程退学。会社員生活を経て、現在は文筆家・書評家として活動中。 著書に『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』などがある。近著『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない 自分の言葉でつくるオタク文章術』が23年6月発売。今年フリーランスになったことをきっかけに、お金の勉強を始めている。
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