「コンピューターがない時代は、どうやって取引していたの?」

村上佳菜子の東証探訪! 現場で知った投資の歴史

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プロフィギュアスケーターの村上佳菜子さんが投資の第一歩を踏み出すべく、お金に関する知識を深めていくこの連載。

第一回、第二回で東証の仕事を知り、投資に関する知識も深めた村上さん。今回は、東京証券取引所 金融リテラシーサポート部の富田貴之さんに、東証Arrowsを紹介してもらいます。

■「円形の掲示板」に流れる数字の意味

富田「円形の掲示板で有名なマーケットセンターがあるここが、東証Arrowsです。広さはテニスコート8面ほどで、床から天井の高さが15メートルあります。マーケットセンターがガラス張りになっているのは、株式取引の透明性を表現しているんですよ」

村上「なぜ、東証Arrowsっていうんですか?」

富田「株式取引の情報が行ったり来たりする場所であることから、その情報を矢(Arrow)に見立てて、東証Arrowsと名付けられました。円形の掲示板には、リアルタイムで取引された会社が表示されています」

村上「コメダが表示された! 出身が名古屋なので、つい反応してしまいました(笑)」

富田「ちょうどコメダの取引があったんですね。会社名と売買された金額、前日の価格との差が並んでいます」

村上「ハマったらずっと見ちゃいそうですね。あっ、表示されるスピードが速くなりました」

富田「回る速度は4段階あって、取引の数に応じてスピードが変わります。取引が活発なときは、結構な速さで回るんですよ。このマーケットセンターの向かいにある大画面には、企業規模や取引頻度の多い100社が表示されています。株価は1株あたりの価格で、株式は最低100株から購入するものなので、任天堂だと1株5473円(※)、100株で54万7300円です」
※撮影日の価格

村上「手が出ない価格ですね(苦笑)」

富田「最近は、証券会社が独自に提供しているサービスで、100株より少ない株数で購入できることもあるので、興味がある会社があったらチェックしてみるのもいいと思います」

村上「任天堂も気になるし、コメダもいいですね」

富田「日本の上場企業約4000社の株式をすべて買い占めようとしたら、いくらかかると思いますか?」

村上「前々回、1日に3兆円の取引が行われるって話していましたよね。ということは、3兆円くらい?」

富田「この大画面のなかに『時価総額』と書かれている欄があるのですが、それが約4000社すべての株式をまとめた金額です。ちなみに、現在だと713兆3687億円(※)です」
※撮影日の価格

村上「まったく想像がつかないですね(笑)。画面の隣にある鐘はなんですか?」

富田「これは上場の鐘です。東証Arrowsの誕生前に、ここが株券売買立会場と呼ばれ、人と人が顔を合わせてアナログで取引していた時代には、この鐘を取引開始の合図として鳴らしていました。取引がデジタル化されてからは、新規上場した会社がここでセレモニーを行う際に、上場の記念で鳴らしてもらっています」

■かつての株式取引は“手サイン”で行っていた!?

富田「東証Arrowsの周囲を囲む通路には、過去の写真が飾られているので、見ていきましょうか。この大きなパネルは、取引がデジタル化される前の東証Arrowsにあたる場所です」

村上「すごい人の数ですね。アナログでの取引って、どのように行っていたんですか?」

富田「証券会社の方々が『どの会社の株式を何百株買う(売る)』と合図を出して、東証の人が取引を成立させるイメージです」

村上「市場の競りみたいに見えますね」

富田「イメージとしては近いかもしれません。すべて手サインで合図を出すんですよ。例えば、アサヒビールなら、手を下から上に上げて『朝日』、ジョッキを持って飲むジェスチャーで『ビール』を表していたそうです。東京電力なら、空中にカタカナのトを書いてから電話をするジェスチャーで表します」

村上「手サインで見分けるんですね。でも、こんなに人がいたら、見てもらえなそうですよね。早く来た順で並べばいいのに。光るベストとかを着ていけば、見てもらえるかも(笑)」

富田「確かに、目立ったほうがよさそうですよね(笑)。どうやって公平にしていたのかは、不思議なところです。この株券売買立会場は1999年4月30日に閉鎖、改修されて、2000年5月に東証Arrowsとしてにいまの形に生まれ変わりました」

村上「手サインで取引をするのは途方もない作業だったと思うので、デジタル化されてよかったですね」

■さまざまなトラブルを乗り越えてきた東証

富田「さらに古い写真を見ていきましょうか」

村上「この外観、喫茶店みたいでかわいいですね。これは東証さんの建物ですか?」

富田「第二次大戦後すぐの東証です。いまいるこの場所ですが、当時はGHQに占領されていて、東証の建物はアメリカ軍の宿泊施設やダンスホールとして使われていました。取引所を意味するエクスチェンジを用いて、エクスチェンジホテルと呼ばれていたそうです。取引所として再開したのは1949年でした」

村上「歴史のある建物なんですね。この写真は、氷ですか?」

富田「東証Arrowsのエアコンが壊れたときの写真ですね。先ほど見ていただいたパネルのように、あれだけの人が集まる場所なので、夏の暑さは相当なものだったようです。エアコンの代わりに氷柱を立てて取引を行った逸話が残っています」

村上「そんなトラブルも乗り越えてきたんですね。この写真もすごい人数!」

富田「満員電車で通勤して、職場に着いても満員電車みたいな状態ですね」

村上「考えただけで、頭が痛くなりそうですね(苦笑)。当時の写真がこれだけ残ってることがすごいですし、とても勉強になりました」

富田「普段、投資のお話をする機会もあまりないと思いますが、投資や東証に関する話を聞いて、いかがでしたか?」

村上「投資をしてみたい気持ちはあったんですが、いまはまだレベルマイナス1くらいなので、投資についてわかりやすく教えてもらえて、より興味が湧きました。『上場』とか、いまさら周りに聞けないようなことも教えてもらえて、意味や仕組みを知ると新たな疑問も出てきましたね。つたない質問にも答えていただけて、まだまだ知りたいことがたくさんあるなって感じています。『よし、投資しよう!』ってところまで、いろいろ学びたいです」

富田「投資って難しいイメージも強いと思うのですが、まずは普段使っているサービスや好きな商品を出している会社から調べてみると、始めやすいと思います」

村上「さっきコメダの名前が流れてきたときは、テンション上がりました(笑)。そういうところからでいいんですね。日頃から接している会社や馴染みのある会社だと、業績もわかりやすいし、興味も持ちやすいですもんね。グッとハードルが下がった気がします。これまで投資やお金に関する本を見つけても、『私には向いてない』って目を背けてきたんですが、手に取って学んでみようって気持ちになりました」

東証見学を終えて、村上さんの投資への意欲が高まりを見せている。次回は、東証が実施している学生向けセミナーに潜入! 子どもたちと一緒に経済の仕組みを学ぶ。

(取材・文:有竹亮介/verb 撮影:鈴木真弓)

お話を伺った方
村上 佳菜子
プロフィギュアスケーター、タレント。1994年11月7日生まれ。2010年世界ジュニア選手権優勝、2014年ソチオリンピック出場、同年四大陸選手権優勝などの成績を残し、2017年4月に競技生活から引退。現在はアイスショーへの出演や解説・振付・指導者として活動するほか、フジテレビ『めざまし8』をはじめ、さまざまな番組で活躍している。

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