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CO2削減が主役になる新たな市場

東証によるカーボンニュートラル推進。「カーボン・クレジット市場」がもたらすもの

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最近よく聞かれるキーワードについて深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。カーボンニュートラル編の本記事では、日本で整備が進む「カーボン・クレジット市場」について取り上げる。

CO2の削減やカーボンニュートラルの達成が求められる中、この動きを“金融”の面から後押しする動きが起きている。その1つが「カーボン・クレジット市場」の整備だ。東京証券取引所では、カーボン・クレジット市場の実証実験を行い、CO2削減が主役となる新しい市場の立ち上げを見据えている。カーボン・クレジットは、直接的には個人が取引するものではないが、主に企業間で売買され、低炭素社会実現に向けた日本経済全体に関わる新しい仕組みとして注目されている。

とはいえ、「CO2削減が主役となる新しい市場」といわれても、ピンとこない人も多いはず。カーボン・クレジット市場とはどんなものなのか。そもそもCO2削減に金融がどう関わるのか。東京証券取引所 カーボン・クレジット市場整備室の森勇貴さんと井上勇一郎さんに聞いた。

CO2の「排出量取引」や、日本の「J-クレジット制度」とは

カーボン・クレジット市場を知る上で、まず前提としてCO2の「排出量取引」について触れておきたい。国や企業がCO2削減に本腰を入れる中で、CO2の排出量取引が行われるようになってきた。これは、わかりやすく言えばCO2排出量の削減分を売買するもの。

たとえば企業Aは、目標より大幅にCO2が削減できたとする。一方、企業Bは目標の削減量に届かなかったとする。このとき、企業Aの削減分(目標からの超過分)を企業Bが購入し、目標までの不足を埋めるといった使い方が想定される。1トンあたりのCO2につきいくら、といった形で取引できるようになる予定だ。

「すでに日本では『J-クレジット制度』が導入されており、たとえば、適切な森林管理等により吸収されたCO2等を、国が『クレジット』として認証。このクレジットが取引されています」(森さん)

J -クレジット制度では、これまでに累計約800万トンのクレジットが認証されてきた。たとえばエネルギー分野の企業は、現状まだ大きくCO2を削減するのが難しい部分もある。そこで、こういった制度を活用し削減量を増やすなどの活用がある。

「そのほか、投資家へのアピールやCSRの一環としてクレジットを購入する企業もありますし、イベントやプロジェクトを行う際に、その取り組みで排出する分のクレジットを購入して、環境配慮につなげようというケースも見られます」(森さん)

CO2取引の市場整備が本格化。発端は「GXリーグ基本構想」

これまでこういった取引を行う際は、取引所を介さない「相対取引」で行われてきたという。

「企業間で直接取引するか、J-クレジットを取り扱う事業者(J-クレジット・プロバイダー)や商社などが入って行われてきました。しかしこの場合、1回の取引に時間がかかる、あるいは、取引のたびに契約手続きが発生するなど、流動性や簡易さの部分で改善できる要素があったのです。また、どれほどの価格で取引されたかも外に出ないため、たとえ新規で取引したい企業があっても、価格のイメージがつきにくく参入しにくかったといえます」(井上さん)

海外に目を向けると、排出量取引制度が多数作られているがその市場の担い手は、証券取引所であることが少なくない。

そんな中、日本でも円滑な排出量取引の場を作ろうという気運が生まれてきた。関連するのが、経済産業省が立ち上げたGXリーグ基本構想だ。カーボンニュートラル達成に向けた国の新たな取り組みで、参画する企業は「GXリーグ」賛同企業として、カーボンニュートラルのルール作りや方策を議論していく。すでに670社以上が賛同している。

GXリーグの取り組みの1つに、排出量取引を自主的に行う場を作ることが挙げられている。この“場”こそが「カーボン・クレジット市場」であり、その整備に向けた実証実験が行われることに。東証では、経済産業省から委託を受けてその事業を実施した。

森さんは、今回の実証実験の目的、ひいては日本でカーボン・クレジット市場を整備していく意味をこう説明する。

「CO2排出量が世界5位の日本で、どのようにカーボンニュートラルを達成するか。金融の面で出来るサポートの1つが市場整備です。これまでの相対取引と違い、管理された市場で取引することによって流動性を高め、価格も見えやすくすれば、取引は活発化します。すると、企業にとってCO2削減が新たな収益源にもなり、それにつながる活動を後押しするのではないでしょうか」

具体的には、どんな実証実験が行われたのだろうか。GXリーグでは、将来的にリーグ参加企業間の排出量取引を考えているが、今回はその前段として、既存のJ-クレジット取引を東証が市場管理する形で実施。2022年9月~2023年1月に行った。

「どのようなルール・手続きなら取引が活発化するかの確認や、市場での取引になることで企業行動にどんな変化が生まれるかを見ていきました」(井上さん)

取引の仕方は株式市場と大きく変わらず、市場参加者が買い注文・売り注文を行い、価格の希望が合えば取引が成立する形。約3ヶ月半の実証実験では、合計15万トンほどの取引が行われた。

排出量1トンあたりの取引価格などを「カーボン・クレジット市場日報」として日々公表。今回の実験で初めてJ-クレジットの取引を行った企業もあったが、その背景には「価格のイメージがつきやすくなった点もあるかもしれません」と井上さん。

「各クレジットは、どのような方法でCO2を削減したものか、由来がわかるようになっています。取引として多かったのは、生産設備の更新による『省エネルギー』由来のクレジットや、太陽光発電設備の導入といった『再生可能エネルギー』由来でしたね」(井上さん)

この実証実験を経て、森さんは「2023年度のどこかのタイミングで、J-クレジットの市場を東証として開設するのが目標です」という。そして長期的には「日本で排出量取引といえば東証となるように力を入れていきたい」と話す。

CO2排出量取引の場づくりとして行われた今回の実験。金融の面からカーボンニュートラルの達成を支える取り組みは、これからも続いていく。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2023年3月現在の情報です

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