「20年前に投資していたら、どのくらいのリターンを得られたか」がわかる

東証発! 投資のワクワク感を生むシミュレーター「人生やりなおし体験」

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投資への注目度が上がっている昨今、金融機関やフィンテック企業がさまざまな投資シミュレーターを展開している。シミュレーターを使うことで投資を疑似体験でき、実践のイメージもつきやすくなるだろう。

今回は、数ある投資シミュレーターのなかから、東証が提供している「人生やりなおし体験」をピックアップ。企画・開発を担当した東京証券取引所 金融リテラシーサポート部の石田慈宏さん、陸俊彦さんに、開発の経緯やシミュレーターに込めた思いを聞いた。

過去から今日までの投資結果をシミュレーション

「人生やりなおし体験」は、100万円を元手に、設定した過去の年代から現在まで特定の株式を保有し続けたと仮定し、得られたであろうリターンを導き出すシミュレーター。未来を予測するシミュレーターが多いなか、過去を振り返るものは珍しい。

使い方は簡単。2001年以降(配当金計算なしの場合は1975年以降)の好きな年を選択し、その年に上場した企業またはETFを1~10銘柄選ぶだけ。

結果の画面では、選んだ年に選んだ銘柄を購入し、現在まで保有していた場合のリターンが表示される。資金を一度にまとめて投資する「一括投資」と資金を定期的に積み立てる形で投資する「積立投資」、2つのパターンの結果が表示される。

複数の銘柄を選んだ場合は、それぞれの銘柄の購入株数、購入時終値、前月終値を見ることもできる。

生まれ年のワインを買うように、生まれ年に上場した株式を買っていたら…


2019年に公開された「人生やりなおし体験」。過去の投資をシミュレーションするという形式は、意外な発想から生まれたものだという。

「当時、金融情報サービス企業のQUICK社と共同で、長期投資を体験できるシミュレーターやゲームの開発を進めていたのですが、その議論の中でQUICK社の方が、『誕生年のワインを買って熟成させ、お祝いの際に開けたりしますよね。そういうことが投資でもできたら面白いかもしれない』と、何気なく言ったんです。そのひと言がヒントになり、過去に株式を買っていたと仮定するシミュレーターというアイデアにつながりました」(石田さん)

「多くの人が抱く投資のネガティブなイメージを和らげ、興味をもってもらえるよう、『あのとき投資していたら、どうなっていただろう…』という深層心理に訴えかけられるようなシミュレーターを目指しました。できるだけシンプルな構成で、投資初心者の方でも使いやすいものになったと感じています」(陸さん)

配当金込みの投資結果を見たい場合は2001年以降、配当金なしのバージョンであれば1975年以降に上場した銘柄を選択できる。若い人であれば、生まれ年を入力することで自分の年齢分の長期投資の結果が見えるため、今後の参考になるかもしれない。生まれ年だけでなく、就職した年、結婚した年など、ライフイベントのタイミングで株式を買ったと仮定するのもいいだろう。

「最大10銘柄まで選択できるところも、密かなこだわりです。シミュレーター内で、ジャンルの異なる企業を組み合わせたポートフォリオを構築できます。どのような企業が成長してきたのか、どういった企業を組み合わせるとリターンが得やすくなるのかといったことを、簡易的に見ていけます」(石田さん)

「人生やりなおし体験」では、年代ごとのニュースやイベントなどの情報をあえて省き、企業とリターンの情報だけに絞っているところもポイント。

「金利の低下や円高、企業の業績不振といった世の中のニュースと株価の相関関係は、立証されていない不確実なものであることが多いのです。そのため、過去のニュースは、株価変動の読み解きの参考にはならないと考えています。株価という事実だけに絞った点は、私自身も気に入っているところです」(石田さん)

「人生やりなおし体験」というタイトルには、東証の思いが込められているそう。

「投資初心者に興味をもってもらえるシミュレーターを目指したので、東証の堅いイメージを払しょくするタイトルを心掛けました。投資初心者はもちろん、資産形成につまずいた経験のある方にも、『いまからでも遅くありません』というメッセージを届けたいと考え、『人生やりなおし体験』に決定しました」(陸さん)

あえて新規上場株でシミュレーションする理由

過去のリターンを可視化することで、「いまからでも長期的な投資を始めたら、資産形成に役立つかもしれない」と、投資意欲が高まるだろうと開発された「人生やりなおし体験」だが、いざ公開すると意外な反応があった。

「SNSなどに、『過去の失敗を再認識させるものなのか』という内容のコメントが書かれていました。過去のデータを見ることで、『あのときに投資していれば…』という後悔につながってしまう方も多かったようです。いただいた意見ももっともなのですが、私たちとしてはその悔しさをバネに『いまから始めよう』と切り替えていただきたいと思っています」(石田さん)

「人生やりなおし体験」で出てくる銘柄は、選択した年に上場した企業またはETF(上場投資信託)。この構成に対しても、ユーザーから「新規上場株への投資はリスクが高いのではないか?」という声が上がったとのこと。

「新規上場株への投資は、投資手法のひとつとして確立されています。日本企業には、上場直前から上場後数年間で急成長し、その後は成長が緩やかになるという特徴があるため、新規上場株に投資することで大きなリターンが期待できるからです。もちろん、すべての新規上場株が成長するわけではなく、上場廃止になる銘柄もあります。一方、数年で3~4倍になる銘柄もあるため、リターンが大きくなる可能性のほうが大きいといえるのです」(石田さん)

つまり、新規上場株への投資のリスクを、過剰に危険視する必要はないというわけだ。ただし、新規上場株だけに投資すればいいというわけでもないそう。

「新規上場株だけではリターンもリスクも大きいため、あくまでポートフォリオの一部と捉えることが大切だと考えています。安定的な成長が見込める老舗企業と短期的な急成長が期待できる新規上場企業を織り込み、バランスよく成長できるポートフォリオを目指しましょう。そのために、新規上場株の動向がつかめる『人生やりなおし体験』を参考にしてほしいですね」(石田さん)

「あのとき投資していれば…」という後悔を投資のきっかけに

石田さんが、「人生やりなおし体験」を活用する際の注意点を教えてくれた。

「『人生やりなおし体験』は過去のデータをもとにシミュレーションするものですが、その対象は現在も上場している株式やETFです。1980年代からいままでにかつての東証一部に上場していた企業の累計は5000社を超えていますが、現在の一部上場相当の企業は2400~2500社。半分が上場廃止となっているのです。『人生やりなおし体験』では現在も上場している企業に絞られているため、生存バイアスがかかり、長期投資をすれば必ずリターンが得られるように見えてしまう点は、注意が必要です」(石田さん)

株式が将来的に上場廃止になるかどうかは、誰にもわからない。投資は損をするリスクも含んでいることを忘れてはいけないということだ。

「投資シミュレーターを使うと、長期投資をすれば簡単にリターンが得られると感じてしまうものなのですが、生存バイアスによるものであることを覚えておきましょう。シミュレーターの結果は、ポートフォリオを組む際の参考にするものと考えていただけるといいと思います」(石田さん)

注意点を踏まえたうえで、東証が考える「人生やりなおし体験」の理想的な活用法を聞いた。

「新規上場株のデータだけをまとめたシミュレーターは珍しいと思います。さまざまな年代のさまざまな企業をシミュレーションして、『この企業は100倍になってる』『この短期間で50倍になってる』といったように、投資のワクワク感につなげてもらえたらうれしいです。特に20~30代の若い世代の方は、『20年前に投資していたら…』という後悔を疑似体験し、これからの投資のきっかけにしていただきたいですね」(石田さん)

「『人生やりなおし体験』では『一括投資』と『積立投資』、2つの結果が出ます。どちらが必ず有利ということはありませんが、継続的に一定額を購入する『積立投資』だと、株価が安いときに購入株数を増やせるドルコスト平均法での投資になるため、平均購入単価を平準化させる効果が期待でき、結果的にリターンが大きくなることがあるのです。『積立投資』で時間分散を行えば、株価変動などを気にせずにいつでも投資が始められる、ということも感じていただけたらと思います」(陸さん)

まずは生まれ年や就職した年を選択し、自由に企業を選ぶと、想像よりも多くのリターンが出てくるかもしれない。そのワクワク感を胸に、現実の投資を検討してみよう。

(取材・文/有竹亮介(verb) 撮影/山本倫子)

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