ローンチから9カ月で扱う広告費は100億円を突破
広告費に特化したBNPL。「AD YELL」が成長企業の悩みを解決する
最近よく聞かれるBNPLは、私たち一般消費者が買い物をする際の「後払いサービス」として知られている。しかし、実は企業間のお金のやり取り、なかでも企業の広告費に特化した後払いサービスも出ている。「AD YELL」だ。
このサービスは、デジタルホールディングスグループにて金融関連の事業を展開するバンカブルと、三菱UFJフィナンシャル・グループの協働で生まれたもの。2022年5月に正式リリースされ、それから9カ月でAD YELLの取り扱う広告費の総額は100億円を突破した。
広告費に特化したBNPLとはどんなサービスなのか。金融業界の動きを取り上げる連載「新しい金融のカタチ」。BNPL特集の4回目となる本記事では、AD YELLの詳細についてバンカブル代表取締役社長の髙瀬大輔氏に聞いた。
広告費を一括、もしくは最大4回で分割・後払いが可能
まずはAD YELLの概要から触れていきたい。企業(事業者)が広告を出稿する際、本来なら広告媒体や広告代理店に対して先払いや広告出稿月の翌月末に一括で支払う広告費を、分割・後払いできるサービスだ。分割回数は4回となっている。
サービスの流れとしては、広告を出稿する事業者の審査が行われ、結果次第でバンカブルがいったん広告費を立て替える。その後、立て替えた分の資金を事業者が支払う仕組みだ。
どういったシーンでこのサービスは利用されるのだろうか。
「一例として、事業が伸びる中で広告効果が確実に見込める状態になってきたが、資金計画はすでに作られており、広告投資を追加する余裕がないという事業者がいらっしゃいます。そういった場合に活用されるケースが見られますね」
さらに具体的な利用シーンとして、自社商品の販売が順調で、在庫が減っている事業者がいたとする。その事業者が最優先で資金を割くのは、追加の仕入れに対してだろう。在庫が尽きて商品を発送できないケースを避けたいからだ。その分、広告投資に回す予算は抑制される。しかし事業者としては、販売が伸びているからこそ広告投資もあわせて行い、さらにグロースさせたいところ。こういった中で使われるという。
「そもそもの課題として、広告費を外部からスピーディに調達するのは非常に難しかったといえます。広告は不動産などと違い、担保価値がないので融資対象になりませんし、他の方法での調達も一定の時間がかかるためです」
急きょ広告を出稿したいが資金がない――。そんな悩みはネット広告に多いという。テレビなどの広告は長期で時間をかけて計画するが、ネット広告は1日単位で配信期間をコントロールでき、数日後から突発的に広告を出すことも可能だからだ。ここにAD YELLが有効であり、実際に利用企業の8割はECで事業展開しているという。
このサービスの核は、審査で行われる「広告効果の予測」
広告費は担保価値がないという話が出たが、その理由として、基本的に広告は先行投資であり、効果の見込みが不透明な点が大きい。ではなぜAD YELLでは、その広告費を立て替えられるのか。リスクもあるのではないだろうか。
「私たちは、広告の効果予測を審査の中に入れており、それに基づいて立て替え可能な資金を算出しています。つまり広告の担保価値を出しているのです。これが最大の特徴といえます」
同社はデジタルホールディングスグループの一員であり、このグループは25年以上にわたり広告事業を営むオプトを中心にネット分野の広告マーケティング事業を行っている。その中で「どの広告がどれだけの効果を出してきたのか、あらゆるデータが蓄積されており、それを活用して高精度な効果予測をしているのです」という。
もちろん、広告効果の予測だけではこのサービスは成り立たない。根本的な企業の信用調査も必要になるほか、立て替え資金の準備や法律面のカバーも求められる。これらは協働する三菱UFJフィナンシャル・グループがバックアップすることで、サービスが実現したという。
冒頭で述べた通り、AD YELLで取り扱う広告費の総額はすでに100億円を超えており、確かなニーズがうかがえる。今後も利用者は増えていくだろう。
そうして髙瀬氏が見据えるのは、こういった金融サービスにより、社会でチャレンジしたい人を後押しすることだ。その重要な目的を果たすために、グループのアセットである広告とBNPLというビジネスモデルのかけ合わせで、新しい金融サービスを生み出したと話す。
「世の中には、熱量を持っていながらも資金の問題でチャレンジできない方がたくさんいらっしゃいます。一方、日本には約千兆円の現預金があり、活用されず眠っている割合も高い。そのギャップを変え、人々がチャレンジできる機会をもっと増やしていきたいのです」
ビジネスの資金課題を解決する存在といえば金融機関をイメージしがちだが、「金融機関がやりたくてもできないこと、そして我々のような事業会社だからできることがあるはず」と続ける。資金の面からチャレンジを応援する、その1つがAD YELLというサービスなのだ。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2023年4月現在の情報です