データで見る中国市場の現状
商いは20兆円規模、外資も買い越す中国株
提供元:東洋証券
売買代金は東証の約8倍
米中関係の悪化や景気回復への懸念などから、中国向け投資が細っているという報道が増えている。確かに、対中規制が厳しい半導体などでは海外企業は投資に二の足を踏む傾向にあり、人件費高騰や地政学リスクを背景に製造拠点を中国から東南アジアやインドに移す動きも見られる。
一方、株式投資についてはどのような状況なのだろうか。投資マネーの動きから中国の現状を探ってみよう。
まずは中国株式市場の売買代金。上海と深センの両市場を合わせた1日当たり売買代金は1兆元(1元=19円換算で約19兆円)を超える日が多くなっている。中国現地では1兆元が大商いの目安となるが、4月に入りこの大台超えが続く。
直近の最高は、4月4日に記録した1兆3245億元(約25兆1655億円)。内訳は、上海が5558億元、深センが7687億元なので、ざっと4対6の割合だ(この比率はほぼ連日変わらない)。同じ日の東証の売買代金は3兆1881億円。単純計算で、中国市場では東証の8倍弱の投資資金が動いていたことになる。流動性は潤沢と言えよう。
ちなみに、中国市場の1日当たり売買代金の過去最高額は2兆3615億元(約44兆8685億円)。折からの中国株ブームを背景に投資資金の流入が増えていた2015年5月28日に記録した。当時、2兆元はおろか、1兆元を超えることも珍しかったので、テレビの株式番組で売買代金の表示が間に合わなかった(1兆元直前で止まってしまった)という“珍事”もあった。
もっとも、その後はいわゆる「チャイナ・ショック」を受けて投資離れが起き、18年にかけては売買代金が5000億元に届かない日も多く見られた。往時の5分の1にまで減少し、閑散相場が懸念された頃でもある。中国はなかなか出入りの激しいマーケットである。
さて、かつては売買代金の8割超を個人投資家が占め、機関投資家は2割に満たないといういびつな市場だったが、今はどうなっているのだろうか。
上海と深センの両証取は正式発表していないが、現地証取関係者は「個人投資家比率は6割程度まで低下している」と明かしてくれた(4月上旬時点)。公式ではなくあくまで参考値となろうが、課題だった機関投資家の育成が徐々に進んでいると受け止められよう。
実は買い越している海外投資家、白酒と電池が人気
この中国市場に海外投資家はどのようなスタンスで臨んでいるのか。香港と上海・深セン市場の相互取引である「ストックコネクト」の動向をチェックしてみる。ストックコネクトは14年に上海、16年に深センでスタートした、簡単に言えば「海外投資家が香港証取に注文を出すことで上海・深センのA株を取引できる」システムである。
22年の海外投資家による中国株投資、いわば「外資のA株買い」は902億元の買い越しだった。ウクライナ戦争の勃発で地政学リスクが高まった3月に451億元、ゼロコロナ政策の混乱が嫌気された10月に573億元の売り越しとなったが、買い戻しの動きもしっかり入っており、年間トータルでは1兆7000億円余りの純流入だ。
「外資が中国株を売っている」というのは、週次や月次で見れば確かにその通りかもしれないが、中長期で見ると決してそうとも言えない。23年1~3月の累計買越額は1861億元に上り、すでに22年通年の2倍以上に上っている。
日々のストックコネクト経由の商い、すなわち「外資の売買代金」は、20年以降は市場全体の10~15%前後で推移している。16年や17年頃は高くても数%程度だったが、徐々に存在感を高めてきた。中国市場の売買代金に占める外資比率は安定してきたと言えるだろう。
それでは、海外投資家はどのような銘柄に投資しているのか。香港証券取引所(HKEx)がまとめた22年の売買代金ランキングによると、上海市場では白酒(バイジウ)最大手の貴州茅台酒、深セン市場では車載電池で世界最大手のCATLがそれぞれトップとなった。
上海は銀行・保険などの金融、エネルギーや資源などの国有大手が多いのが特徴だ。一方、深センは電池や新エネルギー関連など新興産業が多く見られる。これらは、海外投資家だけでなく中国現地の投資家も注目しているセクターや銘柄である。今年3月だけで、海外投資家は貴州茅台酒とCATLをそれぞれ10億元(約190億円)ずつ買い越した。
ここで挙げてきた数字だけで、「外資の中国売りはない」と断言するつもりはなく、その必要性も感じられない。ただ、投資の世界なので、当然のことながら「買いもあれば売りもある」ことは改めて理解しておきたい。
中国株という言葉だけで変なバイアスがかかり、極端な見方に拘泥すると投資のチャンスをみすみす逃してしまうことになる。世界の投資マネー、そして中国人投資家の資金がどの市場に、どの分野に流れているかをチェックすることも非常に重要となってこよう。
(提供元:東洋証券)