日本経済Re Think

GDPを15%押し上げる可能性も

「眠れる労働力」に光を。ポピンズ轟社長が考える、日本の成長戦略としての女性活躍

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この国の市場や経済に成長可能性はあるのか。いわば投資における“日本の未来”を有識者が占う連載「日本経済Re Think」。今回お話を聞いたのは、ポピンズ代表取締役社長の轟麻衣子氏だ。

ポピンズは創業以来、働く女性を支援する会社としてナニー(教育ベビーシッター)の養成・派遣や認可保育所の運営などを行ってきた。同社を率いる轟氏は、日本の未来を考える上で「この国には女性という“眠れる労働力”があり、今後成長するためにやるべきことは明確です」と話す。

その言葉は何を意味するのか。日本の現状と未来への成長戦略について、轟氏の考えを聞いた。

女性活躍が進めば、労働人口は増え優秀な人材も多くなる

日本の現状に対して悲観的な声は少なくない。人口減少や少子高齢化、経済成長の鈍化など、さまざまな面から悲観的な理由が語られているが、轟氏は女性活躍の面でも日本の現状に対して厳しい意見を口にする。

「日本と諸外国の比較で目立つのは、ダイバーシティや女性活躍推進が遅れている点です。ジェンダーギャップ指数を見ても、日本は146カ国中116位という状況(※)。先進国の中で最下位です」

※世界経済フォーラム公表。2022年のデータより

女性活躍の“遅れ”は深刻だが、しかし、轟氏は「そこに日本が今後成長するチャンスがある」と続ける。

「日本の人口のおおむね半数は女性であり、しかも日本の女性は世界でも大学進学率が高く、学力やスキルセットは高水準です。その女性たちが満足に働けていないのが日本の現状であり、『眠れる労働力』を持っているといえます」

先ほどのジェンダーギャップ指数を分野別に見ると、教育分野では日本が1位となっている。それほど教育における男女差が少なく、能力の高い女性は多い。そこで女性活躍が進めば、労働人口は増加して優秀な人材が市場に多くなる。日本にはその余地があるということだ。

具体的な数字でその経済効果を語っているものもある。ゴールドマン・サックスの「ウーマノミクス5.0」では、男女就業格差が解消すれば日本のGDPは10%押し上げられ、さらに男女の労働時間格差がOECD平均になれば、15%まで伸びる可能性があるという。

ところでなぜ、日本ではこれまで女性活躍が進まなかったのだろうか。轟氏はこう説明する。

「さまざまな要因がありますが、1つは安心して思いきり働ける環境が整っていないことが大きいでしょう。いまだ待機児童・待機学童の問題があり、子どもを預けられない家庭があります。また、配偶者控除の存在も大きく女性の所得を抑える動機になっている。そしてもう1つ、アンコンシャスバイアスも根強いといえます」

アンコンシャスバイアスとは「無意識の思い込みや偏見」を意味する。「母親は家にいるべき」「保育所に子どもを預けるのはかわいそう」といった、深層心理にある人々の意識が本当は働きたい女性の活躍を妨げてしまう。

「世の中にはやむを得ず働けない女性もたくさんいます。もちろんそれは仕方ありません。大切なのは、働きたいのに働けない女性を減らしていくこと。国・企業・個人がさまざまな制度やアンコンシャスバイアスを変えることが、日本の国力につながるのです」

女性活躍は本当に進むのか。そして投資家の役割とは


女性活躍が実現できれば日本再興につながるー。理屈はわかったが、では女性活躍がこれから進む兆しはあるのか。轟氏に聞くと「確実に進んでいく」と力強く答える。

「なぜなら日本は“待ったなし”の厳しい状況だからです。労働人口は減少していますし、その不足を外国人労働者ですべて補うのも現実的に難しい部分がある。女性活躍が進まないと日本が成り立たなくなるといっても過言ではないでしょう。だからこそ、企業も女性活躍を成長戦略と捉えはじめており、福利厚生を含め、働く家庭を応援する会社作りが進んでいます」

近年、企業の人的資本経営が注目されているのも追い風だ。「人への投資はコストではないという人的資本の考え方が広まれば、同時に女性活躍も進むでしょう」と轟氏は話す。そしてこういった考えは、経営者やビジネスパーソンだけでなく、投資家にも広まることが重要。それが「人的資本を大切にする会社への支援になる」と続ける。

そんな話の流れで、轟氏はコロナ禍で起きた株主とのエピソードを口にする。2021年、感染者が増加し医療も逼迫するなか、ポピンズではこの状況下で働いてくれる保育士の給料を上げた。すると一部の株主から批判を受けたという。特に、短期的な経営視点でのネガティブな意見が多かった。

しかし「私たちの事業は労働集約型であり、働いていただくスタッフが何より大切です」と轟氏。だからこそ、この決断はコストではなく投資だと一貫して株主に伝えたという。

「その結果、なかには離れてしまった株主の方もいましたが、一方で私たちの考えに共感していただける長期目線の機関投資家とも出会いました。『この状況でこそ保育士への投資は必要だし、そういう企業は長い目で見て伸びていく』と。こういった中長期目線で人への投資を大切にする投資家が日本で増えると、人的資本を重視する国内企業への投資が進み、女性活躍の後押しにつながるのではないでしょうか」

先進国の中でもいち早く超高齢化社会へ突入する日本。課題は多いが決して手詰まりの状況ではない。轟氏は改めて「女性活躍を進めるという明確な打開策が見えている」と言い切る。国や企業、個人が変わり、眠れる労働力を輝かせることができるか。それこそが、日本を明るくする道筋かもしれない。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2023年3月現在の情報です

著者/ライター
有井 太郎
ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。
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