選定基準をリニューアル

生まれ変わった「なでしこ銘柄」の顔ぶれと評価のポイント

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令和4年度「なでしこ銘柄」が今年3月に選定された。なでしこ銘柄とは、経済産業省と東京証券取引所が合同で女性活躍推進に優れた上場企業を選定するもの。11回目を迎えた今回は17社が選ばれた。

※後に2社が選定対象外となり、2023年7月13日時点で選定企業は15社

今回は審査基準を大幅にリニューアル。これまでは女性社員比率や女性管理職比率といった数字にもとづく定量データを評価していたが、それに加えて経営戦略における女性活躍推進の位置付けやトップのコミットメントといった定性的な要素も評価対象になった。

なぜこのようなリニューアルが行われたのか。そしてどのような企業が選定されたのか。3月22日に行われた発表会のレポートとともに伝えていく。

数字にもとづく定量データに加え、定性要素も評価の対象に


「コロナ禍や国際情勢の動乱、気候変動、人口減少や少子高齢化など、さまざまな危機が迫る中、この状況を乗り越えるためにイノベーションが必要です。そしてその原動力がダイバーシティであり女性活躍推進です。ダイバーシティと企業成長の関連性も見えており、今回なでしこ銘柄に選定された17社の株価指数を見ても、TOPIXと比較してパフォーマンスが良い。選定企業の皆さまには、ぜひ日本のイノベーションの基盤作りを後押ししていただきたいと考えています」

なでしこ銘柄の発表会冒頭、壇上に上がった太田房江経済産業副大臣はこのような言葉を述べた。

近年、女性活躍推進やダイバーシティが重視されているのは言うまでもない。それは投資の世界でも同様だ。太田氏に続いて登壇した東京証券取引所専務取締役(令和4年度なでしこ銘柄発表会2023年3月22日時点の役職)の小沼泰之氏はこう話した。

「東証が定めたコーポレートガバナンス・コード(上場企業が行う企業統治についての原則・指針を示したもの)では、人的資本への投資、とりわけ経営戦略として人材をどう捉えるかを企業が明確に、外部に説明することを求めています。女性活躍推進もその1つであり、今回の選定基準リニューアルにもこういった点が関連していると考えています」

11回目となるなでしこ銘柄は、選定基準が大幅にリニューアルされた。これまで女性活躍推進にすぐれた企業を選ぶ基準として、女性社員比率や女性管理職比率、育休取得率といった数字にもとづく定量データを中心としていた。

今回はそれに加えて「経営戦略と連動した女性活躍推進をしているか」という点が大きな評価ポイントになった。具体的には経営トップの女性活躍推進に対するメッセージや、企業としての女性活躍推進の位置付けを記述形式で各企業が回答。「定性調査票」という形で提出してもらい評価した。

なぜ経営戦略との連動を重視したのか。担当者の1人である経済産業省 経済社会政策室の大坪彩子氏はこう話す。

「女性活躍推進の動きは高まっていますが、それでもまだこの取り組みの意義を腹落ちしていない方もいるのが実情です。その中で、女性活躍推進は会社の成長のために必要だと明確に打ち出し、企業が発信することが必要だと考えました」

そのほか、女性活躍の“数字面”を増やすだけでは、取り組みがぶつ切りになるという危惧もあったという。一時的には前進しても、その変化が企業成長につながらなければ推進の気運は続かない。そこで経営戦略との連動を重視したのだ。

同じく担当者である経済産業省 経済社会政策室の川満聖奈氏は、「たとえばサービス利用者が多様化する中で、そのニーズを捉えるために企業の組織自体も多様化させる必要があるなど、明確に経営戦略と紐づけている企業が見られました」と話す。

17社の顔ぶれ。選定企業は経営戦略にどう結びつけているか

こういった新基準のもと、今回選定されたのが17社の上場企業だ。東証が区分する17業種について各業種から1社ずつ選定された。

表彰式では各社の代表者が所感を述べた。出光興産代表取締役副社長の丹生谷晋氏は「当社は『海賊とよばれた男』のイメージが強く、男性中心の時代もありましたが、今回初めて受賞できたことをうれしく思います」とコメント。

経営戦略との連動として、同社は2050年のカーボンニュートラルに向けた化石事業からの構造転換のために多様な能力の交流・化学反応を必要としている。女性活躍推進は多様な人材の組織を作るための「一丁目一番地」と話しており、その方向性が評価された形だ。

デジタルマーケティング支援を行うメンバーズは、女性の割合が低いIT業界において45%近い女性社員比率を達成している。デジタルクリエイターによる労働集約型のサービスがビジネスモデルになっており、多様な人材が活躍することが競争力の源泉となる。女性のIT人材が多くない中で「入社後にゼロベースからITスキルを育成できる形を整え、今まで以上に女性が長期的に幅広く活躍できる会社にしたい」と、メンバーズ執行役員で人事担当の早川智子氏は答えた。

丸井グループは、企業文化を古いものから更新するための1つとして「多様化の推進」を行ってきたという。その上で、女性活躍のためにも男性が出産・育児に関わることが重要と考え、4年連続で男性育休取得率100%を実現。しかし「まだ取得日数は少なく、1ヶ月以上取得する男性は30%ほど。今後は倍増を目指したい」と、丸井グループ専務執行役員の石井友夫氏はコメントした。

選定における各社の女性活躍データをウェブ上で公開

今回の選定企業やその他の応募企業の定量データはウェブサイトで公開されている(※同意した企業のみ)。また選定企業の定性調査票も「選定企業事例集」として公開。これらは今回からの取り組みだ。

「今回のなでしこ銘柄がTOPIXを上回っていることからも、企業成長を予測する重要な材料としてダイバーシティ経営を重視する投資家の方もいらっしゃると思います。今回の一覧化された定量データや定性調査票は有用になるのではないでしょうか」(川満氏)

選定企業以外にも、注目企業の事例を「ベストプラクティス集」として掲載。これも初の試みだ。「17社以外にも幅広い企業が独自の取り組みを行っています。さまざまなケースを発信する中で、1つでも多くの企業が自社の参考にしていただければうれしいです」と大坪氏は説明する。

人的資本の重視をはじめ、株式市場でもダイバーシティにもとづいた経営が企業成長のポイントと見る向きが強くなっている。そういった視点で企業を分析する際、今回のデータを見るとさまざまな発見があるかもしれない。

なお東証マネ部!では、選定企業の中から数社に取材を行い、どのような取り組みを行っているのか深掘りする予定。今回ポイントとなった経営戦略との関連性もさらに解像度を上げて伝えていく。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2023年5月現在の情報です

著者/ライター
有井 太郎
ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。
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