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まさにいま、その環境が整った

東証の「アクティブETF解禁」。これからは個性的な商品が市場を彩る

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これから東証に上場されるETFは、インデックス(指数)より高いパフォーマンスを目指すものなど、工夫を凝らした多種多様な商品が溢れていくだろう―

上場された投資信託を指す「ETF」。このうち、株価指数など“特定の指標”に連動しないETFは「アクティブETF」と呼ばれる。東京証券取引所ではこれまでアクティブETFの上場が認められていなかったが、2023年6月30日から上場申請を受け付ける。今後、東証市場にさまざまな商品が登場することになる。

アクティブETFにはどのような魅力があり、投資家にどういったメリットをもたらすのか。今回の制度変更に関わった東京証券取引所 上場推進部/ETF推進部 課長の前川圭史さんと、上場推進部/ETF推進部 調査役の竹渕智弘さんに聞いた。

アクティブETFとは何か。指数に縛られない柔軟な運用を行うのが特徴

東証に上場できるETFは、これまでTOPIXや日経平均株価など、特定の指標に連動するものに限られていた。しかし今後は、連動する指標が存在しないアクティブETFの上場も可能になる。

改めてアクティブETFとはどんなものか。簡単に言えば、アクティブETFは指数に縛られない柔軟な運用ができる。たとえば、これまで指数が少なくETFにするのが難しかった債券を多数組み入れた商品や、複数のアセットクラスに分散して投資するマルチアセット型の商品も作りやすくなる。商品の幅は広がり、個人投資家のETFの選択肢も増えるだろう。

「アクティブETFは、一般的に運用会社やファンドマネージャーが、あらかじめ決められた運用方針に沿ってETFの組入銘柄や資産配分を決めていきます。連動する指標が存在するETFに比べて“能動的”な運用を行うのが特徴です」(竹渕さん)

つまりは、運用会社やファンドマネージャーが工夫を凝らした商品を生み出せることに。前川さんは「銘柄選定の目利きや判断力といった“プロの腕”を見せる機会になると思っています」と付け加える。

ちなみに海外では一足先にアクティブETFが解禁されているが、その内容を見ると、債券が組み入れられた商品の人気が高い。「世界全体のアクティブETFの純資産総額を見ても、債券のシェアがもっとも高く50%を占めています」(竹渕さん)という。

たとえばアメリカでは、社債を組み合わせて値動きのリスクを抑えつつ、利息などのインカムを着実に得るアクティブETFが人気。日本でもこういった債券ETFを利用したい投資家は多かったが、従来の指数連動では商品化が難しかった。それが作りやすくなるといえる。

アクティブETF解禁は市場関係者の努力の結晶

アクティブETFのような「連動する指標の存在しない投資信託」は、“非上場”の商品に限ればこれまでも世に出ていた。しかし、非上場の投資信託は日中に売買注文を出しても、取引価格が決まるのはその日の市場が閉まってから。一方、「ETFはリアルタイムで日中に取引できる点が非上場の投資信託との大きな違いになります」と竹渕さんは伝える。

さらにもう1つ、非上場の投資信託との違いがある。非上場の投資信託は、組入銘柄や資産配分といったポートフォリオの開示をおおむね決算期ごとに行っているが、「東証のアクティブETFは日次で開示します」と竹渕さん。こちらの理由については記事後半で詳しく触れたい。

それにしてもなぜ、今回解禁へと動いたのか。背景にあるのが、海外でのアクティブETFの人気だ。全世界におけるアクティブETFの総資産額は約60兆円超、銘柄数は2000近くに及ぶ(2023年3月時点、以下同)。日本でも投資家のニーズは高まっており、それに応えるべく制度変更が進められた。

「東証ではつねに投資家の方とお話ししながら、そこで捉えたニーズをもとに安心して取引できる市場の制度づくりや、運用会社に市場を盛り上げるための商品提案などをしています。今回の制度変更も投資家の方にお話を聞きながら進めてきました」(前川さん)

なお、海外に比べて日本でアクティブETFの解禁が遅れた理由として「早くから解禁を検討してきましたが、安全に取引するためにはたくさんの投資家が日本のETF市場に参加し、流動性が上がる必要がありました。ここまでにさまざまな取り組みを行い、今まさに解禁できる環境が整ったといえます」と、竹渕さんは理由を説明する。

詳細な説明はここでは省くが、東証ではETFの流動性を上げる目的で2018年にマーケットメイク制度を開始。これらが奏功して今回の解禁につながっており、竹渕さんは「これまでの市場関係者の方々の取り組みの結晶だと思っています」と口にする。

東証市場におけるアクティブETFの幕開けを「ぜひ楽しみに」

アクティブETFを解禁する上では、上場される商品の品質確保も重要になる。これまでのETFは「指標との連動が正当に行われているか」が品質判断の最重要項目だった。しかしアクティブETFは別の観点が必要。そこで東証では、アクティブETFを審査する上で「商品性・透明性・健全性を重視していきます」と竹渕さん。

その1つの表れが、先に挙げたポートフォリオの日々開示だ。運用会社やファンドマネージャーにとっては日々の投資戦略、いわば“手の内”を公開することになるが、一方で開示されたポートフォリオをもとに、投資家は現在の市場価格が適正か判断しやすくなる。

また、「デリバティブ」と呼ばれる取引にも今回は一定の制限を入れた。デリバティブは値動きが大きく、投資家のニーズが高い面もあるが、それでも今回このような制限を入れた背景には、こんな理由がある。

「私たちが目指すのは、長期的に愛されるアクティブETFの市場を作ることです。今回はそのスタート地点だからこそ、まずはアクティブETFがどんなものか投資家の方に知っていただくことが重要。最初は、デリバティブ取引による運用にある程度制限をかけ、プレーンな商品から始めようと考えました」(竹渕さん)

前川さんも「いまや4桁の証券コードをネットで入力すれば、簡単に売買できる時代です。だからこそ、まずは手厚い制度を設け、投資家の方に安心して取引していただきたい」という。とはいえ、今回はあくまで“第1弾”的な位置付け。「今後は一定の品質を確保しつつ規制を緩和するなど、アップデートしていく可能性も十分にあります」と続ける。

今回の制度変更をもとに、2023年秋頃にはアクティブETFの商品が上場されていく見込み。前川さんは、投資家へ向けてこんなメッセージを伝える。

「来年からは新しいNISAもスタートしますし、ぜひともアクティブETFに注目していただきたいと思っています。今後もしかすると、人気の投資信託の運用会社が新たに類似するETFを上場させる、という可能性もあるかもしれません。東証市場におけるアクティブETFの幕開けを楽しみにしていてください」

さまざまな流れを経て実現したアクティブETF解禁。この市場が投資家から長く愛されるためにも、東証は制度や環境をアップデートを続けていく。


(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2023年6月現在の情報です

著者/ライター
有井 太郎
ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。
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