子ども関連のお金を備えつつ、自分の将来のためにも運用を
【子育て世帯編】ライフスタイル別に「ポートフォリオ」の組み方を考えてみた
NISAやiDeCoなどの制度を知り、投資を始めたいとは思うものの、どのような金融商品にいくらくらい投資すればいいか、判断できないという人は多いだろう。
そこで、ファイナンシャルプランナー兼社会保険労務士の川部紀子さんに、保有する金融商品の組み合わせ、いわゆる「ポートフォリオ」の組み方について、教えてもらった。
学生の子どもを抱える20~30代の共働き夫婦の場合、そもそも投資に回せるお金が少ない可能性が高い。このようなケースでは、どう考えていくといいだろうか。
できる範囲で「投資運用」に回すお金を捻出できるとベスト
「投資を始める前に、保有している金融資産の分け方から見ていきましょう。全財産を投資に注ぎ込むという人はほとんどいないと思うので、どの程度のお金を投資に回せるか、生活状況などと照らし合わせながら考えることが大切です。まずは、資産を大きく3つに分類してみましょう」(川部さん・以下同)
●短期のお金
毎月必要になる生活費のこと。ATMですぐに引き出せる状態にしておくと安心。
●中期のお金
近い将来の目標のために貯めるお金のこと。旅行資金、引っ越し資金、自動車や住宅を購入する際の頭金、万が一のための医療費などが挙げられる。
●長期のお金
老後資金など、遠い将来のために貯めるお金や、使う予定がなく貯めているお金のこと。
「短期のお金は普通預金、中期のお金は定期預金や個人向け国債、勤務先の財形貯蓄などに置き、長期のお金をiDeCoや企業型DC、NISAなどで運用するイメージです。この3つの割合は、ライフスタイルや年代によって変化してくると考えられます」
子育て世帯の場合、どのように考えていくといいだろうか。
「子どもの人数にもよりますが、家族が多いほど、短期のお金が必要になります。独身や夫婦2人だけの世帯と比べると、多く見積もる必要があるでしょう。マイホームを購入している場合は、ローンの支払いも短期に入ってきます。また、子どもの教育費として、中期のお金を備える必要が出てきます。持ち家の場合は、繰り上げ返済の準備をしたり、リフォームや修繕の費用も備えたりしておいたほうがいいでしょう。そうなると、どうしても長期のお金は後回しになってしまいます」
ただし、ここで長期のお金を諦めてしまうと、子どもが独り立ちした後の夫婦の生活が困難になってしまう。
「できる範囲で長期のお金をつくり、iDeCoやNISAを活用し続けてほしいと思います。理想をいうと、独身の頃に長期のお金に回していたくらいの金額はキープしたいところです。子どもができてからも長期のお金を継続するか、後回しにしてしまうかで、夫婦の将来が大きく変わってくるでしょう」
リスクが不安なら家族の生活も考えて「バランス型投信」で手堅く運用も
長期のお金をつくり、iDeCoやNISAでの投資を始めるとなると、ポートフォリオの組み方が課題となる。
「iDeCoや企業型DC、NISAでの運用は投資信託で行うのが一般的なので、ここでは投資信託での投資を想定して考えていきましょう」
●投資信託(通称、投信)
投資家から集めたお金をひとつにまとめ、その資金を元手に運用会社が株式・債券・REITなどに投資し、その運用成績に応じた利益が投資家に配分される金融商品。
「ひと口に投資信託といっても、そのなかに組み込まれているものはさまざまです。ハイリスクハイリターンの株式もあれば、ローリスクローリターンの債券もあります。それぞれの特徴もつかんでおくといいでしょう」
●株式
株式とは、企業が資金の出資を受ける対価として、出資者に対して発行する証券のこと。企業は出資者に対して出資額の返済義務がなく、配当の実施有無や金額は業績に応じて決定する特徴がある。そのため、投資家が企業に要求するリターン(資本コスト)が大きく、市場価値(株価)も変動しやすいことから、”ミドルリスクミドルリターン”から”ハイリスクハイリターン”といえる。なお、日本には上場している株式は約3800社ある。
●債券
債券とは、企業が資金の貸付を受ける対価として、債権者に対して発行する証券のこと。企業は債権者に対して返済義務を負い、利息は業績によらず予め決まった期日に支払うという特徴がある。利率が固定されているものも多く、株式に比べると”ローリスクローリターン”といえる。
●REIT(リート)
投資家から集めた資金を元手にオフィスビルや商業施設などの不動産へ投資を行い、そこから得られる賃貸料収入や売買益が投資家に分配される。そのため、安定的なインカムゲインを得やすいこと、インフレに強いことが特徴とされる。不動産市況や景気変動の影響を受けて値が動くが、稀に株式や債券と同じ値動きをしないこともある。一般的には”ミドルリスクミドルリターン”といえる。
株式、債券、REITに共通して、国内のものに比べて外国(先進国、新興国)のもののほうがリスク・リターンともに高くなりやすい。
「独身や夫婦2人暮らしの間は、ある程度リスクを取り、投資のほとんどを株式型の投資信託にしてもいいといえます。しかし、子どもができると短期・中期のお金が増えますし、家族を支えることを優先して安定志向が強まり、リスクの高い投資にチャレンジしにくくなるケースも。非課税の恩恵を最大限に受けるため、株式型を検討してほしい気持ちもありますが、国内外の債券やREITにも分散投資されているバランス型を選ぶ方法もあります」
バランス型のひとつである8資産均等型とは、「国内株式」「先進国株式」「新興国株式」「国内債券」「先進国債券」「新興国債券」「国内REIT」「先進国REIT」の8つの資産を組み合わせた投資信託。あらゆる資産に投資することになるため、その真ん中をいくような運用を目指せる。そのほかにも4資産分散型、6資産分散型もあり、株式の組み入れ比率もさまざまだ。
「バランス型のなかには株式と債券が半々など、株式比率はさまざまなので、株式100%の運用よりも安心して続けられるかもしれません」
自分に合ったポートフォリオは「ロボアド」でチェック
子育て世帯のポートフォリオについて聞いてきたが、川部さんは「ポートフォリオは人によって大きく変わるもの」と、話す。
「一般的に『子どもがいると費用がかかるため、リスクは抑えたほうが安心』と言えますが、その人の生活や性格、保有しているお金の大きさなどによって、適したポートフォリオは異なります。次の5つのポイントで、自分のリスク許容度を測ってみましょう」
ポイント(1)年齢
年齢が若いほど、リスクが取れる。年齢が上がってきたら、リスクを抑えたほうがいい。
ポイント(2)金融資産
金融資産が多いほど、リスクが取れる。金融資産が少なければ、リスクを抑えたほうがいい。
ポイント(3)投資の理解度
投資の知識が豊富で理解度が高ければ、リスクが取れる。理解度が低いようであれば、リスクを抑えたほうがいい。
ポイント(4)性格
積極的な性格であれば、リスクが取れる。保守的な性格であれば、リスクを抑えたほうがいい。
ポイント(5)掛金の重み
無理のない金額で余裕を持って投資を行えるようであれば、リスクが取れる。生活を回せるギリギリの金額で投資を行うようであれば、リスクを抑えたほうがいい。
「重要なのは、5つ目のポイントです。例えば、月々1万円を積立投資するとします。年収300万円・貯蓄100万円の人と、年収1000万円・貯蓄5000万円の人では、その1万円の重みは違いますよね。前者はリスクを抑えたほうがいいですが、後者はリスクを取った投資ができるといえます。自分にとって、そのお金にどのくらいの重みがあるか、冷静に判断しましょう」
自分でリスク許容度を判断するのが難しい場合は、さまざまな金融機関が提供しているロボアドバイザーを利用するのもいいそう。複数の質問に回答することで、リスク許容度を測定し、最適なポートフォリオを組んでくれるサービスだ。
「おすすめのロボアドバイザーは、松井証券の『投信工房』。ポートフォリオを組んでくれるだけでなく、そのポートフォリオで運用した場合の期待リターンと推計リスクも表示してくれます。例えば、期待リターンが2%、推計リスクが5%と出た場合は、運用成績が2%を境に上下5%(-3~7%)の間になる可能性が高いということがわかるのです。どの程度のマイナスなら受け入れられるか、判断してみましょう」
松井証券「投信工房」
https://www.matsui.co.jp/fund/roboadvisor/toushin-koubou/
「投信工房」で、以下の条件で診断してみると、次のような結果が出てきた。
・35歳
・投資の目的:老後のための資産形成
・年収:500万円
・投資経験:なし
・投資知識:ほとんどない
・性格:やや保守的
診断結果は「リスク許容度2『やや安定型』」。性格に保守的な面があると、ポートフォリオも安定性の高い債券型が多くなった。
「複数の会社のロボアドバイザーで診断し、一般的なリスク許容度やポートフォリオの感覚をつかんでみるのもいいでしょう。基本的に無料で診断できますし、診断したからといって必ずその金融機関で投資しなければいけないというわけではありません。気軽に試してみましょう」
子どもにかかる費用の割合が多くなると、どうしても自身の将来の備えが手薄になりやすい。しかし、老後は必ずやってくるため、できる範囲で長期のお金をつくることが重要といえそうだ。
(取材・文/有竹亮介(verb))