50代後半は「株式型」から「債券型」への切り替えを考え始める時期
【50代編】ライフスタイル別に「ポートフォリオ」の組み方を考えてみた
NISAやiDeCoなどの制度を知り、投資を始めたいとは思うものの、どのような金融商品にいくらくらい投資すればいいか、判断できないという人は多いだろう。
そこで、ファイナンシャルプランナー兼社会保険労務士の川部紀子さんに、保有する金融商品の組み合わせ、いわゆる「ポートフォリオ」の組み方について、教えてもらった。
そろそろ子どもが独り立ちし、定年が現実的に見えてくる50代は、老後に向けてポートフォリオも変化させていくべきだろうか。50代夫婦の場合の考え方を見ていこう。
使わなかった教育費などは「投資運用」に回そう
「投資を始める前に、保有している金融資産の分け方から見ていきましょう。全財産を投資に注ぎ込むという人はほとんどいないと思うので、どの程度のお金を投資に回せるか、生活状況などと照らし合わせながら考えることが大切です。まずは、資産を大きく3つに分類してみましょう」(川部さん・以下同)
●短期のお金
毎月必要になる生活費のこと。ATMですぐに引き出せる状態にしておくと安心。
●中期のお金
近い将来の目標のために貯めるお金のこと。旅行資金、引っ越し資金、自動車や住宅を購入する際の頭金、万が一のための医療費などが挙げられる。
●長期のお金
老後資金など、遠い将来のために貯めるお金や、使う予定がなく貯めているお金のこと。
「短期のお金は普通預金、中期のお金は定期預金や個人向け国債、勤務先の財形貯蓄などに置き、長期のお金をiDeCoや企業型DC、NISAなどで運用するイメージです。この3つの割合は、ライフスタイルや年代によって変化してくると考えられます」
定年が見えてくる50代夫婦の場合、どのように考えていくといいだろうか。
「持ち家の場合は住宅ローンが残っているかもしれませんが、子どもが独り立ちしていれば、生活費は夫婦2人分だけなので、短期のお金は抑えられるでしょう。中期のお金も、持ち家のリフォームや修繕の費用、引っ越し費用くらいになり、割合は減るはずなので、長期のお金を工面しやすくなります。人生100年時代といわれるいま、70歳くらいまで働く人も多いので、50代から老後に向けて備えても遅くはありません」
定年前後になると、中期のお金が長期のお金に変化することがあるという。
「子どもの教育費や自宅の修繕費、引っ越し費用として貯めていたものの意外と使わず、中期のお金が余るケースがあります。今後も使う予定がないのだとしたら、そのお金を長期のお金にするという方法が考えられます。投資に回すお金が増えれば、その分だけ老後の備えが増える可能性が出てくるのです」
ただし、40~50代にかけては、子育てとは別の費用が必要になるケースがあるという。
「このくらいの年代になると、親の介護の問題が出てきます。親に金銭的な備えがないために、子どもが介護費用などを出すケースもあるので、その場合は短期・中期のお金が増える可能性があります」
一方、親のおかげで長期のお金を増やせるケースもあるという。
「親がそれなりに資産を持っている場合は、その一部を贈与してもらったり、将来的には相続したりする可能性が出てきます。その資産を長期のお金に回せるというわけです。相続税がかかる可能性がありますし、これからのライフプランを描くためにも、資産があるかどうか、なんとなく親に聞いてみることをおすすめします」
50代前半と後半で変わるポートフォリオの考え方
長期のお金をつくり、iDeCoやNISAでの投資を始めるとなると、ポートフォリオの組み方が課題となる。
「iDeCoや企業型DC、NISAでの運用は投資信託で行うのが一般的なので、ここでは投資信託での投資を想定して考えていきましょう」
●投資信託(通称、投信)
投資家から集めたお金をひとつにまとめ、その資金を元手に運用会社が株式・債券・REITなどに投資し、その運用成績に応じた利益が投資家に配分される金融商品。
「ひと口に投資信託といっても、そのなかに組み込まれているものはさまざまです。ハイリスクハイリターンの株式もあれば、ローリスクローリターンの債券もあります。それぞれの特徴もつかんでおくといいでしょう」
●株式
株式とは、企業が資金の出資を受ける対価として、出資者に対して発行する証券のこと。企業は出資者に対して出資額の返済義務がなく、配当の実施有無や金額は業績に応じて決定する特徴がある。そのため、投資家が企業に要求するリターン(資本コスト)が大きく、市場価値(株価)も変動しやすいことから、”ミドルリスクミドルリターン”から”ハイリスクハイリターン”といえる。なお、日本には上場している株式は約3800社ある。
●債券
債券とは、企業が資金の貸付を受ける対価として、債権者に対して発行する証券のこと。企業は債権者に対して返済義務を負い、利息は業績によらず予め決まった期日に支払うという特徴がある。利率が固定されているものも多く、株式に比べると”ローリスクローリターン”といえる。
●REIT(リート)
投資家から集めた資金を元手にオフィスビルや商業施設などの不動産へ投資を行い、そこから得られる賃貸料収入や売買益が投資家に分配される。そのため、安定的なインカムゲインを得やすいこと、インフレに強いことが特徴とされる。不動産市況や景気変動の影響を受けて値が動くが、稀に株式や債券と同じ値動きをしないこともある。一般的には”ミドルリスクミドルリターン”といえる。
株式、債券、REITに共通して、国内のものに比べて外国(先進国、新興国)のもののほうがリスク・リターンともに高くなりやすい。
「一般的に定年が近くなってきたら、株式型の投資信託の比率を下げて、債券型などの値動きが穏やかな金融商品の比率を上げ、受取額を確定させるというセオリーがあります。ただ、50代前半と後半では考え方が変わります。50代前半だと、定年まではまだ時間があるので、株式型の比率は下げなくてもいいでしょう。後半になると定年までの時間もわずかなので、徐々に株式型の比率を下げ、出口を見据え始めるフェーズに入っていきますが、資産に余裕があるとしたら、iDeCoやNISAなどの非課税投資に関してはリスクを取りたいところです」
しかし、iDeCoや企業型DCの年金を75歳から受け取ると想定すると、自分自身との相談が必要になるという。
「50代になると体調を崩しやすくなる、病気が見つかるなど、身体面での不安が出てくる場合があります。その場合は、本当に受け取り開始を75歳まで引き伸ばせるのか、それまでリスクを取ってもいいのか、考えてみましょう。不安を感じるようであれば、値動きを抑える目的でバランス型投資信託などを活用し、債券を組み込む考え方があります」
例えば、8資産均等分散のバランス型は、「国内株式」「先進国株式」「新興国株式」「国内債券」「先進国債券」「新興国債券」「国内REIT」「先進国REIT」を均等に組み込んだ投資信託のこと。そのほかにも、さまざまな投資対象や組み入れ比率のバランス型投資信託がある。
自分に合ったポートフォリオは「ロボアド」でチェック
50代のポートフォリオについて聞いてきたが、川部さんは「ポートフォリオは人によって大きく変わるもの」と、話す。
「一般的に『定年が見えてきたらリスクは抑えるもの』と言えますが、その人の生活や性格、保有しているお金の大きさなどによって、適したポートフォリオは異なります。次の5つのポイントで、自分のリスク許容度を測ってみましょう」
ポイント(1)年齢
年齢が若いほど、リスクが取れる。年齢が上がってきたら、リスクを抑えたほうがいい。
ポイント(2)金融資産
金融資産が多いほど、リスクが取れる。金融資産が少なければ、リスクを抑えたほうがいい。
ポイント(3)投資の理解度
投資の知識が豊富で理解度が高ければ、リスクが取れる。理解度が低いようであれば、リスクを抑えたほうがいい。
ポイント(4)性格
積極的な性格であれば、リスクが取れる。保守的な性格であれば、リスクを抑えたほうがいい。
ポイント(5)掛金の重み
無理のない金額で余裕を持って投資を行えるようであれば、リスクが取れる。生活を回せるギリギリの金額で投資を行うようであれば、リスクを抑えたほうがいい。
「重要なのは、5つ目のポイントです。例えば、月々1万円を積立投資するとします。年収300万円・貯蓄100万円の人と、年収1000万円・貯蓄5000万円の人では、その1万円の重みは違いますよね。前者はリスクを抑えたほうがいいですが、後者はリスクを取った投資ができるといえます。自分にとって、そのお金にどのくらいの重みがあるか、冷静に判断しましょう」
自分でリスク許容度を判断するのが難しい場合は、さまざまな金融機関が提供しているロボアドバイザーを利用するのもいいそう。複数の質問に回答することで、リスク許容度を測定し、最適なポートフォリオを組んでくれるサービスだ。
「おすすめのロボアドバイザーは、松井証券の『投信工房』。ポートフォリオを組んでくれるだけでなく、そのポートフォリオで運用した場合の期待リターンと推計リスクも表示してくれます。例えば、期待リターンが2%、推計リスクが5%と出た場合は、運用成績が2%を境に上下5%(-3~7%)の間になる可能性が高いということがわかるのです。どの程度のマイナスなら受け入れられるか、判断してみましょう」
松井証券「投信工房」
https://www.matsui.co.jp/fund/roboadvisor/toushin-koubou/
「投信工房」で、以下の条件で診断してみると、次のような結果が出てきた。
・55歳
・投資の目的:老後のための資産形成
・年収:600万円
・投資経験:5年
・投資知識:一般的なレベル
・性格:やや保守的
診断結果は「リスク許容度2『やや安定型』」。株式型を計40%組み込んでいるものの、債券型も同等以上に保有するようなポートフォリオになった。
「複数の会社のロボアドバイザーで診断し、一般的なリスク許容度やポートフォリオの感覚をつかんでみるのもいいでしょう。基本的に無料で診断できますし、診断したからといって必ずその金融機関で投資しなければいけないというわけではありません。気軽に試してみましょう」
老後を見越して、徐々に資産の切り崩し方や受け取り方を考え始める50代。改めて老後のライフプランを立てることで、運用の進め方を判断しやすくなるかもしれない。
(取材・文/有竹亮介(verb))