70代以降を見据え、運用してきた資産の取り崩しを考え始める年代
【60代編】ライフスタイル別に「ポートフォリオ」の組み方を考えてみた
NISAやiDeCoなどの制度を知り、投資を始めたいとは思うものの、どのような金融商品にいくらくらい投資すればいいか、判断できないという人は多いだろう。
そこで、ファイナンシャルプランナー兼社会保険労務士の川部紀子さんに、保有する金融商品の組み合わせ、いわゆる「ポートフォリオ」の組み方について、教えてもらった。
定年を迎え、生活が大きく変わるタイミングとなる60代。収入がなくなる人もいるなかで、投資やそのポートフォリオをどのように考えていくといいだろうか。
現代の60代はまだまだ「投資運用」できる年代
「投資を始める前に、保有している金融資産の分け方から見ていきましょう。全財産を投資に注ぎ込むという人はほとんどいないと思うので、どの程度のお金を投資に回せるか、生活状況などと照らし合わせながら考えることが大切です。まずは、資産を大きく3つに分類してみましょう」(川部さん・以下同)
●短期のお金
毎月必要になる生活費のこと。ATMですぐに引き出せる状態にしておくと安心。
●中期のお金
近い将来の目標のために貯めるお金のこと。旅行資金、引っ越し資金、自動車や住宅を購入する際の頭金、万が一のための医療費などが挙げられる。
●長期のお金
老後資金など、遠い将来のために貯めるお金や、使う予定がなく貯めているお金のこと。
「短期のお金は普通預金、中期のお金は定期預金や個人向け国債、勤務先の財形貯蓄などに置き、長期のお金をiDeCoや企業型DC、NISAなどで運用するイメージです。この3つの割合は、ライフスタイルや年代によって変化してくると考えられます」
定年を迎える60代夫婦の場合、どのように考えていくといいだろうか。
「60代だと、子どもがいても独り立ちしていることが多いと思うので、短期のお金は夫婦2人分の生活費と考えていいでしょう。中期のお金は持ち家のリフォームや修繕の費用、引っ越し費用に加え、医療費や介護費用もしっかり備えておきましょう。定年を迎えるものの、人生100年時代といわれる今は70歳くらいまで働く人も多いでしょう。そうなると、収入がある60代に長期のお金で運用して70代以降に備えることは、決して非現実的なことではありません」
定年を迎え、中期のお金がそれほど必要ではなくなると、長期のお金を増やしやすくなるという。
「中期のお金を子どもの教育費や自宅の修繕費、引っ越し費用として貯めている人は多いと思いますが、思いのほか使わずに余ってしまうケースがあります。医療費などを除いたうえで、使う予定のないお金があるとしたら、長期のお金に回してもいいでしょう。投資に回すお金を増やすことで、運用期間が短かったとしても、それなりのリターンを得られる可能性が出てきます」
「株式型投信」から「バランス型投信」「債券型投信」に切り替え、資産を使う準備を
長期のお金をつくり、iDeCoやNISAでの投資を始めるとなると、ポートフォリオの組み方が課題となる。
「iDeCoや企業型DC、NISAでの運用は投資信託で行うのが一般的なので、ここでは投資信託での投資を想定して考えていきましょう」
●投資信託(通称、投信)
投資家から集めたお金をひとつにまとめ、その資金を元手に運用会社が株式・債券・REITなどに投資し、その運用成績に応じた利益が投資家に配分される金融商品。
「ひと口に投資信託といっても、そのなかに組み込まれているものはさまざまです。ハイリスクハイリターンの株式もあれば、ローリスクローリターンの債券もあります。それぞれの特徴もつかんでおくといいでしょう」
●株式
株式とは、企業が資金の出資を受ける対価として、出資者に対して発行する証券のこと。企業は出資者に対して出資額の返済義務がなく、配当の実施有無や金額は業績に応じて決定する特徴がある。そのため、投資家が企業に要求するリターン(資本コスト)が大きく、市場価値(株価)も変動しやすいことから、”ミドルリスクミドルリターン”から”ハイリスクハイリターン”といえる。なお、日本には上場している株式は約3800社ある。
●債券
債券とは、企業が資金の貸付を受ける対価として、債権者に対して発行する証券のこと。企業は債権者に対して返済義務を負い、利息は業績によらず予め決まった期日に支払うという特徴がある。利率が固定されているものも多く、株式に比べると”ローリスクローリターン”といえる。
●REIT(リート)
投資家から集めた資金を元手にオフィスビルや商業施設などの不動産へ投資を行い、そこから得られる賃貸料収入や売買益が投資家に分配される。そのため、安定的なインカムゲインを得やすいこと、インフレに強いことが特徴とされる。不動産市況や景気変動の影響を受けて値が動くが、稀に株式や債券と同じ値動きをしないこともある。一般的には”ミドルリスクミドルリターン”といえる。
株式、債券、REITに共通して、国内のものに比べて外国(先進国、新興国)のもののほうがリスク・リターンともに高くなりやすい。
「一般的には、定年が近くなったら株式型の投資信託の比率を下げて、バランス型の株式比率が低いものや債券型などの値動きが穏やかな金融商品の比率を上げ、受取額を確定させるというセオリーがあります。ただ、iDeCoは受け取り開始年齢の上限が75歳ですし、NISAも2024年以降は恒久化されるので、焦って一気に株式型から債券型に切り替えなくてもいいでしょう。保有している投資信託の値が上がったタイミングを見計らって切り替えていけば、問題ありません」
60代は、収入がなくなるまたは減る可能性が高い70代に向けて、資産を取り崩す準備をすることも大切だという。
「株式型からバランス型や債券型の投資信託への切り替えや、受取額の確定も、資産の取り崩しの準備のひとつです。また、70歳以降も運用するのはいいことだと思いますが、全体の円グラフを小さくしていく心づもりもしておいたほうがいいでしょう。資産が減ることに不安感を覚えるのは当然のことですが、お金を使わずに最期を迎えるのももったいないですよね。計画的に使っていくことも考え始めましょう」
自分に合ったポートフォリオは「ロボアド」でチェック
60代のポートフォリオについて聞いてきたが、川部さんは「ポートフォリオは人によって大きく変わるもの」と、話す。
「一般的に『定年前後で受取額を確定させるため、リスクは抑えるもの』と言えますが、その人の生活や性格、保有しているお金の大きさなどによって、適したポートフォリオは異なります。次の5つのポイントで、自分のリスク許容度を測ってみましょう」
ポイント(1)年齢
年齢が若いほど、リスクが取れる。年齢が上がってきたら、リスクを抑えたほうがいい。
ポイント(2)金融資産
金融資産が多いほど、リスクが取れる。金融資産が少なければ、リスクを抑えたほうがいい。
ポイント(3)投資の理解度
投資の知識が豊富で理解度が高ければ、リスクが取れる。理解度が低いようであれば、リスクを抑えたほうがいい。
ポイント(4)性格
積極的な性格であれば、リスクが取れる。保守的な性格であれば、リスクを抑えたほうがいい。
ポイント(5)掛金の重み
無理のない金額で余裕を持って投資を行えるようであれば、リスクが取れる。生活を回せるギリギリの金額で投資を行うようであれば、リスクを抑えたほうがいい。
「重要なのは、5つ目のポイントです。例えば、月々1万円を積立投資するとします。年収300万円・貯蓄100万円の人と、年収1000万円・貯蓄5000万円の人では、その1万円の重みは違いますよね。前者はリスクを抑えたほうがいいですが、後者はリスクを取った投資ができるといえます。自分にとって、そのお金にどのくらいの重みがあるか、冷静に判断しましょう」
自分でリスク許容度を判断するのが難しい場合は、さまざまな金融機関が提供しているロボアドバイザーを利用するのもいいそう。複数の質問に回答することで、リスク許容度を測定し、最適なポートフォリオを組んでくれるサービスだ。
「おすすめのロボアドバイザーは、松井証券の『投信工房』。ポートフォリオを組んでくれるだけでなく、そのポートフォリオで運用した場合の期待リターンと推計リスクも表示してくれます。例えば、期待リターンが2%、推計リスクが5%と出た場合は、運用成績が2%を境に上下5%(-3~7%)の間になる可能性が高いということがわかるのです。どの程度のマイナスなら受け入れられるか、判断してみましょう」
松井証券「投信工房」
https://www.matsui.co.jp/fund/roboadvisor/toushin-koubou/
「投信工房」で、以下の条件で診断してみると、次のような結果が出てきた。
・65歳
・投資の目的:余剰資金の運用
・年収:400万円
・投資経験:5年
・投資知識:一般的なレベル
・性格:保守的
診断結果は「リスク許容度1『安定型』」。収入や投資経験があっても、ある程度債券の比率を高くしたほうがいいという結果になった。
「複数の会社のロボアドバイザーで診断し、一般的なリスク許容度やポートフォリオの感覚をつかんでみるのもいいでしょう。基本的に無料で診断できますし、診断したからといって必ずその金融機関で投資しなければいけないというわけではありません。気軽に試してみましょう」
現役で働いている人も多く、まだまだ資産運用できる60代。ただ、老後を目前に控えていることも事実。いつから資産を取り崩し始めるのか、具体的に考え始める年代といえそうだ。
(取材・文/有竹亮介(verb))