【三宅香帆の本から開く金融入門】
企業の「お金の使い方」について、ざっくり学べる本『ざっくり分かるファイナンス~経営センスを磨くための財務~』
会計よりも知られていないけれど……
前回紹介した「財務3表の読み方」を解説した『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方』。この本を読んだ後、さらに踏み込んだビジネスの勉強に進みたい人におすすめしたいのが、『ざっくり分かるファイナンス~経営センスを磨くための財務~』(石野雄一:著/光文社)という新書だ。
財務3表や決算書の理解を進めるのは、分野で言えば「会計」に当たる。しかし本書が取り扱うのは、「ファイナンス」の分野。
ファイナンスって何? と首を傾げる人もいるかもしれない。そんな読者に対して、本書の著者はこう語る。
ファイナンスとは、ひと言でいうと、「企業価値の最大化」をはかるための意思決定に役立つツール(道具)。その意思決定には、投資・資金調達、配当の三つがあります。いずれも企業の将来を見据えた上で行われるものです。
そんなファイナンスですが、どうもその重要性を認識している人は少ないように思われます。企業において、ファイナンスと両輪をなす会計(アカウンティング)が、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社新書)がミリオンセラーになったことからもお分かりの通り、多くの関心を集めることになったのとは対照的です。
(『ざっくり分かるファイナンス~経営センスを磨くための財務~』より引用)
たしかに、会計――決算書の勉強は、なんとなくやってみたいな、と思う人が多いのではないだろうか。『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』という本もたしかに昔ベストセラーになっていたし、前回紹介した『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方』の作者である大手町のランダムウォーカーさんのSNSで出される「会計クイズ」も大人気だ。
対して、ファイナンスという言葉は、そもそも何のためにその勉強が必要か、もあまり知られていない。
本書はそんな現状に対し、「ファイナンスもざっくりこんな感じで学べば面白いよ!」と教えてくれる一冊になっている。
タイトルには「経営センスを磨くための」と付いているが、経営者ではない人にとっても、「ファイナンスってこんな感じの知識なんだ~」とざっくり学ぶのにおすすめの本である。
ファイナンス=何にお金を使うか、を考えること
ファイナンスとは、何のために必要な知識なのだろうか?
それは、「将来」どのように事業を展開するのか、そしてどのような戦略を立て、成長していきたいのか――という、企業の「将来」を作り上げるための知識である。
逆に、ファイナンスと対となる会計は、「過去、現在」において、どんな事業を展開してきたのか、その結果としてどんな黒字・赤字を出したのか、という結果を報告するためのものだ。
だからこそ、ファイナンスと会計は、両輪だ、と本書の著者は言う。
会計で過去・現在の記録を残し、世間にその記録を発表する。一方で、ファイナンスで将来の展開を見立て、企業内でその見立てを共有する。
その二つがあってこそ、ビジネスはちゃんとまわるのだと述べるのだ。
こう言われると、なんだかものすごく、まっとうに、どちらも必要だ……! と感じるのではないだろうか。私は本書を読んではじめて「そうかー、ファイナンスも面白そうだな」と思うことができた。
というのも、たとえば私たちの日々の生活においても家計について考える際、「自分がこれまでどういうふうにお金を使ってきたのか」を記録し確認することと、「自分が今後どうやって稼いでいくのか」を見立てること、どちらも重要であることは想像できるだろう。企業においても同様なのだ。つい家計簿というと「これまでのお金の使い方」についてのみ考えてしまいそうになるが、重要なのは「これからどうやって貯金を増やすのか」「どうやってお金を稼ぐか」「何にお金を使っていくのか」も一緒に考えることなのだ。
意外と身近なファイナンス!
本書の著者は、ファイナンスにおいては、投資(今後投資するか迷っている事業や企業に、その価値があるかどうかを判断すること)、資金調達(投資に必要なお金を、どこからどのように持ってくるのか)、配当(株主に利益をどのように配分するか、あるいは企業内の投資にまわすのか)を考えることが必要だと言う。これって考えてみれば、家計の経済を考えるうえで、「何にお金を使うのか」「そのお金をどこから稼いでくるのか」「余ったお金を貯金にまわすのか、他のものに使うのか」を考えるのと同じなのだ。
お小遣いにしろお給料にしろ株で儲けたお金にしろ、「自分のお金」がそこにある限り、私たちは常にこの3点を(無意識に)考えている。
だとすれば、企業のファイナンスと、自分のお金の使い方を考えることに、さほど違いはない。
会計よりもファイナンスのほうがよっぽど身近に感じられる、という人もいるだろう。企業のファイナンスについて知ることで、むしろ、自分のお金の使い方について考えさせられる人は案外多いかもしれない。
もちろん本書で紹介されているファイナンス分野は、専門用語も多く、まだまだ会計分野と比較すると応用編、という印象はぬぐえないかもしれない。しかしそれでも理解できると面白い分野である。
「会計を理解した後は、ファイナンスの勉強にチャレンジしてみたいな~」と、本書を読み終わった後、思う人はきっと多いはずだ。