前半は「資産を増やすフェーズ」後半は「運用しながら取り崩すフェーズ」
60歳からでも間に合う? シニア世代から始める「資産形成」のススメ
“人生100年時代”といわれる今、たとえ70歳まで働いたとしても、残りの人生は30年あることになる。そう考えると、70歳から資産を取り崩し始めていいものか、不安に思う人もいるのではないだろうか。
そうはいっても、収入がなくなってから投資を始めようにも、最適な方法を自分で探すのは難しいもの。そこで、マネーコンサルタントの頼藤太希さんに、シニアから始める資産形成のテクニックを教えてもらった。
必要なお金を残したうえで「余裕資金」で分散投資
「今は70歳まで働ける労働環境が整っているので、身体的に問題がなければ、70歳まで働くことを考えてほしいと思います。収入がある間は、資産形成もしやすいでしょう」(頼藤さん・以下同)
収入があるといっても、現役の頃よりは額が少なくなってしまうことがほとんど。資産形成、つまり投資に回すお金は、どこから捻出するといいだろうか。
「収入の一部やこれまで貯めてきた預貯金の一部で、投資をしてみましょう。60歳または65歳で定年を迎えた際に受け取る退職金も、使う予定がなければ、投資に回すという方法が考えられます。ここで注意すべきことは、すべての資産を投資に回さないこと。ある程度のお金は預貯金や個人向け国債など、元本割れしない安全資産に置いておきましょう」
ある程度のお金とは、次のようなものが挙げられるという。
・1年分の生活費
・病気やケガをしたときに必要なお金
「厚生労働省の推計によると、日本人一人当たりの平均生涯医療費2700万円のうちの約半分は、70歳以降に発生するというデータが出ています。労働収入を得にくくなる70歳以降こそ、医療費や介護費の備えが重要なのです。高額療養費制度などの公的保険制度があるとはいえ、病気やケガをすれば、医療費の自己負担分や入院時の差額ベッド代などはかかってしまいます。生活水準や求める医療レベルにもよりますが、一人につき500万円、夫婦であれば1000万円は備えておきたいところです」
いつ病気やケガをするか、介護状態になってしまうかわからないため、医療・介護費として備えるお金は景気に左右されない安全資産に置き、元本割れしないようにすることが大事とのこと。
「そのうえで出てきた余裕資金を、投資に回しましょう。ただ、余裕資金のすべてを一括投資するような無理な投資はおすすめできません。特に投資経験が少ない人は、大きなお金を投資すると、精神的な負担を感じやすくなります。少しでも値が下がると不安になってしまうでしょう。おすすめは時間的な分散投資です。例えば、余裕資金が1000万円あったら、5~10年かけて、毎年100万~200万円ずつ投資するといった方法です。1000万円を投資し終わる頃には投資歴が5~10年になり、リスクを許容するだけの精神も手に入っているでしょう」
60代のうちは積立投資で「資産を増やす」
お金の分け方がわかったところで、具体的にはどのような投資手法で資産形成していくといいだろうか。
「2024年からNISAが新しくなり、口座開設期間も非課税保有期間も恒久化されます。何歳でも始められて、生きている間はずっと非課税運用ができるようになるので、定年を迎えた後でも十分に活用できます。2024年以降の『新しいNISA』での運用を検討しましょう」
シニア世代の投資に関しては、60代と70歳以降で考え方が変わってくるという。
「60歳の定年以降、再雇用で70歳まで働く場合、その10年間は定期的な収入を得られるので、毎月の積立投資が可能になります。退職金も投資に回せるので、その資産を増やしていくフェーズと考えましょう。投資する金融商品は、軸となるコア資産と小規模なサテライト資産に分けて考えてみましょう」
●コア(守りの投資)資産となる金融商品
インデックス型投資信託、バランス型投資信託、ETF(上場投資信託)、個人向け国債、米国債、個人向け社債など
●サテライト(攻めの投資)資産となる金融商品
個別株(日本株、米国株)など
「基本的には、インデックス型やバランス型の投資信託に積立投資していく方法がいいでしょう。投資信託という商品はさまざまな株式や債券などに分散投資するものですし、投資のプロに運用を任せられるので、投資初心者でも使いやすいといえます。ただ、投資に興味があり、ワクワク感を得たいということであれば、サテライトで個別株を持つのもありでしょう」
70歳以降、投資することで「収入」を得る方法も
では、仕事を引退する人が多いであろう70歳以降は、どのように考えていくといいだろうか。
「収入がなくなるので、新規に投資をすることは難しくなりますが、60代の10年間である程度増やした資産は、そのまま運用を続けるスタンスでいてほしいですね。もし100歳まで生きると仮定すると、70歳から30年間あるので、70歳時点ですべてを現金化して取り崩すのは不安だと思います。理想は『運用しながら取り崩す』です」
運用しながら取り崩していけば、資産が減るスピードを遅らせることができるだろう。とはいえ、資産が減っていくことに、不安を感じてしまいそうだ…。
「極力資産を減らしたくないのであれば、資産形成のために築いた投資信託や個別株といった資産の一部を売却し、高配当株やREIT(不動産投資信託)に投資することをおすすめします。これらの金融商品はキャピタルゲイン(売却することで得られる利益)を狙うというよりは、配当金や分配金などのインカムゲイン(保有することで得られる利益)が期待できます。配当金や分配金は定期的に入ってくるお金なので、いわゆる不労所得を得られます」
好調に推移するであろう高配当株やREITを選別するのは、時間も手間もかかる。しかし、最近はわざわざ自分で選ばなくてもいい金融商品も出てきているという。
「高配当株で構成したETFに投資しやすくなってきています。VYMやVIGといった米国籍のETFです。また、最近はそのETFを組み込んだ投資信託も出てきています。これらをNISAで運用すれば、配当金にかかる20.315%の税金も非課税になります。ただ、株式に投資するものではあるので、値動きがある点は要注意です」
ある程度の資産がつくれていれば、その資産が元手となり、多くの配当金を受け取れるだろう。改めて、頼藤さん流の老後の投資術をまとめてみよう。
●60代の投資
資産を増やすフェーズと捉え、複利効果が期待できるインデックス型投資信託やバランス型投資信託に積立投資。
●70歳以降の投資
資産を運用しながら取り崩すフェーズと捉え、すべてを一度に現金化するのではなく、運用を継続。高配当株、高配当株ETF、REITを活用し、定期的な不労所得を得る方法も検討。
「新しいNISA」の登場によって、老後の投資の考え方が大きく変わっていきそうだ。引退までに貯めたお金をただ使うのではなく、継続して運用することも検討しよう。
(取材・文/有竹亮介(verb))