世界共通語「ESG/SDGs」

環境・社会課題に取り組み“いま以上にリターンを上げる”投資手法

【ESG投資を知る】サステナビリティ経営のプロに聞く“ESG投資が目指す未来”

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近年、耳にする機会が増えている「ESG投資」。財務情報だけでなく、「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の要素も考慮した投資のことだ。

個人投資家の関心も高まってきているが、そもそも環境問題や社会課題への取り組みと経済活動は両立するのだろうか。日本でのESG投資の第一人者である夫馬賢治さんに、ESG投資が目指す未来について聞いた。

ESG投資=メガトレンドを捉えてリターンを上げる投資


――ESG投資とは、どのような目的で始まったものなのでしょうか?

「機関投資家が投資手法のひとつとして始めたもので、『いま以上に投資リターンを上げなければいけない』という最優先課題が掲げられているなかで出てきました」

――ESG投資をすることで、投資リターンが上がるということですか?

「ESG投資に期待されていることは2つあります。ひとつは、世の中にあふれている投資銘柄の選別。どの銘柄がこれからの時代に環境や社会の分野で生き残って追い風を受けるか、どの銘柄が淘汰されるか、そこを見極めるために投資家がESGの観点で会社を見始めています。

もうひとつは、社会全体の経済成長の停滞を打開すること。環境問題や社会課題が社会の安定性を揺るがしていることが、世界的に取り上げられるようになってきています。産業界全体で環境・社会課題の解決に取り組まない限り、世界全体のリターンが減るという発想が生まれ、ESGが重要視されているのです。経済成長を加速させるきっかけが、ESG投資にあるといえます」

――「ESG投資=SDGsに貢献している会社への投資」のように感じていましたが、環境・社会課題に取り組むだけでなく、そのうえで経済成長に寄与する会社に投資する手法なんですね。

「日本ではSDGsの認知度が高いため、“ESG=SDGs”のように捉えられがちですが、同じものを意味する言葉ではありません。ESG投資は、いま以上にリターンを増やすためにメガトレンドを捉えていくことです。

投資の専門家の間でも、ESG投資とSDGsへの貢献の関連性の見方は大きく二分しています。『SDGsが加速することで経済の発展につながる』という意見がある一方、『SDGsへの貢献=収益性とならない分野もあるため、関連性を強調しすぎると短期的にはリターンが損なわれる』という意見もあり、まだ結論が出ていない状況です」

ESG投資によって働きやすい環境が実現する!?


――日本では最近になってESG投資という言葉を聞くようになったイメージですが、海外では既に広まっているのですか?

「ヨーロッパではESG投資の割合が市場の半分くらい、アメリカでも3分の1を超えてきているといわれています。投資手法のひとつとして、当たり前のものになってきているのです。

ESG投資は2006年に国連PRI(責任投資原則)が提唱されたことで拡大しましたが、世界的に大幅に加速したのはコロナ禍です。感染症という大きなメガトレンドを目の当たりにし、長期的な志向が個人投資家の間でも広がっていきました。雇用転換や働き方転換も大きなESGテーマなのですが、特に2020年から2022年にかけて、新しいライフスタイルの追い風を受け、IT関連株を中心に株価全体が押し上がっていきました」

――実際に、ESG投資のリターンは上がっているのでしょうか?

「2020年の上期、コロナ禍で化石燃料の消費量が世界的に落ち込み、エネルギー関連株が軒並み下落しました。ESG投資では、気候変動に対するエネルギー転換を見据え、ESG型ファンドは市場平均をアウトパフォーム(運用成績が目標とする指標を上回ること)していきました。

エネルギー市場は、コロナ禍からの回復局面で市況が回復しています。では、再びエネルギー市場に投資が集まっているかというと、そうでもない。長期的展望から意思決定をする癖が付き始めてきた投資家勢は、30~40年後のリターンを考えたときに、ESG投資のほうが期待できると考えているからでしょう」

――「いま以上の投資リターン」は実現しそうなんですね。ただ、個人投資家からするとESG投資はちょっと壮大な気もするのですが。

「ESG投資は、長期的な市場変化に対応できる会社を選別する手法なので、長期投資との親和性が高いといえます。日本では、多くの方が老後資金を蓄えるために投資を行い始めていますよね。ESG投資を行うことで、老後資金形成という目標を達成できる可能性が高くなると考えられます。

また、ESGのひとつ『社会(Social)』で求められる最大のテーマは、従業員の労働環境に対するものです。株主(投資家)はこれまで短期的なリターンを増やすことを投資先企業に求め、ときには給与水準の削減を求めることもありました。しかし、それでは、優秀な人が社内で育たず、長期的に企業の競争力は下がっていくと考えられるようになりました。ESG投資が浸透していくということは、むしろ働いている人たち自身の給与水準を引き上げることにもつながっていくのです」

――ESG投資が進むことで、自分たちの生活も豊かになるということですね。

「そうなんです。ESG投資が進むことで、会社が『社会』にも重きを置き、従業員が力を発揮しやすい環境が整っていくかもしれません。実際に欧米のグローバル企業では、パート社員も含めた従業員全体の学びの機会が提供されてきており、費用はもちろん会社負担です。投資家の声が職場を変えると考えると、投資が身近なものになるのではないでしょうか」

個人投資家はESG関連の「投資信託」「ETF」を活用


――ただ、ESG投資を行うには、各企業の財務情報以外の情報も見ていかないといけませんよね。個人投資家でも実践できるのでしょうか?

「ESGの視点で個別銘柄の分析をするには、かなりの専門性が必要になります。感覚的に財務データの10倍程度のデータを見なければいけません。現在は、ESGという言葉を冠した投資信託やETF(上場投資信託)が増えてきており、これらを活用するほうが始めやすいのです。ただし、リターンを無視したファンドや“ESGを装う”ファンドも現実に存在しています。ですので、機関投資家自身が実際に採用している運用手法のファンドを購入したほうが安全です」

――機関投資家は、どのようにESG投資を行っているのですか?

「ESGに関する情報を集めるのは、膨大なコストがかかります。機関投資家でも、そこに時間や人手を割くのは難しいのです。そこで出てくるのが、評価機関と呼ばれる組織。評価機関が各企業のESGに関する情報を集めてスコアリングし、その情報をもとに機関投資家は投資先を決めていくのです。機関投資家は、評価機関が提供するさまざまなデータから、注目するべき業種やセクターを判断し、ポートフォリオを微調整していきます。

機関投資家でも難しい情報収集や分析は、個人投資家には至難の業です。デイトレーダーであればまだしも、多くの方は仕事をしながらNISAやiDeCoを利用して運用するという方法で投資を行うと思うので、分析に時間を使うよりも、機関投資家が一定の成果を上げているポートフォリオに準じた投資信託やETFを活用したほうが効率的でしょう」

――おっしゃる通りです。投資信託やETFであれば、NISAやiDeCoを利用して運用できるところもポイントですね。

「先ほども話した通り、ESG投資は長期投資との親和性が高い手法です。公的年金の積立金を運用する機関投資家のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)もESG投資を導入しているように、年金のように長期で運用益を増やしていく資産にマッチしている手法なので、iDeCoに適しています。NISAも2024年以降は恒久化となり、長期の運用になってくると思われるので、ESG投資との相性はいいでしょう」

――より身近に感じられてきました。ただ、ESG関連の投資信託やETFもたくさん出てきていますよね。

「選び方に困ると思いますが、投資信託であれば『使用開始日』、ETFであれば『上場日』に注目しましょう。ESG関連の古いものだと、20年ほど前から運用されているものがありますが、当時はまだESGに関するデータの集め方が明確ではなかったため、リターンを追求し切れていないものもあります。

ここ3~4年にできた投資信託やETFは、これまでのESG投資の歴史やトラックレコード(過去の実績)などのナレッジをもとに構成されているので、20年前のものと比べるとリターンが出る可能性が高いといえます」

――最近のものに注目していくといいんですね。

「一般的な投資の教科書には『歴史のあるファンドを買え』と書かれていると思いますが、ESG投資は違います。近年、急速に投資手法が発展してきているので、古いファンドには問題が多いのです。

そのようなものを避けるため、機関投資家のポートフォリオをもとに構成していることをPRしている投資信託やETFに注目しましょう。機関投資家という責任ある立場の投資家が実践し、成果を上げている手法であれば、信用性が高いといえますよね。

また、日本よりも欧米のほうがESG投資のキャリアやナレッジが蓄積されているので、欧米の機関投資家が実績を出している手法だと、より確実性が高いといえるでしょう」

個人投資家も実践しやすい環境が整いつつあるESG投資。投資信託やETFを通じて投資することで、自分自身や身近な人の将来が変化していくかもしれない。
(有竹亮介/verb)

お話を伺った方
夫馬 賢治
ニューラルCEO。信州大学特任教授。ハーバード大学大学院(サステナビリティ専攻)修士課程修了。サンダーバードグローバル経営大学院MBA課程修了。東京大学教養学部国際関係論卒。サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリー会社を2013年に創業し現職。東証プライム上場企業や大手金融機関のアドバイザーを多数務める。ESGニュースサイト「Sustainable Japan(https://sustainablejapan.jp/)」編集長。環境省、農林水産省、厚生労働省で有識者委員を兼任。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などで解説を担当。
著者サイト:http://neural.co.jp/
著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。
用語解説

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