【三宅香帆の本から開く金融入門】

経済ニュースがわかるようになる参考書『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』

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高校生の頃、よく「時事問題について試験に出されても大丈夫なように、普段からニュースを見たり新聞を読んだりしましょう」「世の中の経済に関する大きな出来事へのアンテナを張りましょう」と言われていた。

たしかに、大学受験には、よく時事に絡めた問題が出される。世界史や地理はもちろんのこと、国語や英語ですら時事が関係していたりする。

だが一方で、こうも思っていた。

「経済ニュースって、分かりづらいんだよなあ」と。

為替相場、とか、円買い、とか、なんとなく聞いたことはある。が、意味はよく分かっていない。そもそも知らない単語が多い。

もちろん現代社会の授業で、円安や需要供給、国債の意味といった基本的な概念は勉強した。けれど、それでもニュースを見た時、ぴんときたことがなかった。

そんな当時の私に、今の私は本書を手渡したい。

『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』(デーヴィッド・A・メイヤー著、桜田直美訳/SBクリエイティブ)。

日本の高校生にも、そしてまさに今経済ニュースについて基礎を固めたい大人の方にも、ぜひおすすめしたい「教科書」である。

概念をわかりやすく説明してくれている

本書は、タイトル通り「アメリカ」で高校生に教える経済学の知識をまとめた本だ。

実はアメリカは、金融教育先進国。リーマンショック等の経験を経たアメリカ政府は、国家戦略として、子どもたちへの金融教育を推進しているのだという。そんなアメリカで教えられている「経済」の知識は、日本であれば「えっ、こんなことまで高校生に教えているのか」と驚く内容になっている。むしろ日本の水準であれば、大学の経済学部一回生の授業内容、という印象を受けるほどの知識量だ。

しかし説明が細かく、分かりやすいので、決して読みづらいとは感じないのが本書の良いところ。

たとえば「そもそも経済学って何を学ぶものなのか?」という問いに答えている冒頭。この章は以下のような一文から始まっている。

経済学とは、個人、組織、社会が、希少性をどう扱うかを研究する学問だ。希少性を前にした人間はとても興味深い行動を取る。
少ない資源をできるだけみんなで平等に分けるために、複雑な計画とシステムを駆使しようとする人もいるだろう。その一方で、行き当たりばったりでなんとかなると考える人もいる。
人は誰でも、日々の生活で経済的な判断をしている。個人でも、社会でも同じことだ。人々は生き残るために日々格闘している。希少性の中でやりくりし、あわよくば他の人よりもたくさん手に入れることを狙っている。
人々や社会の選択を研究するのが経済学だ。
(「第1章 なぜ、経済学を学ぶのか」『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』)

経済とは、そもそも希少性を前提とする概念である、と本書は説く。

たしかに、私たちの使えるお金も時間もモノも限られている。限られた資源をどう使えば、最大限の成果を得られるか――それを考えることが経済学であり、つまりは「希少性」こそが経済学を生み出す。本書はそう経済学を定義づけるのだ。だからこそ「マクロ経済学」は国全体が希少性をどう扱うのかを研究し、一方で「ミクロ経済学」は個人やビジネスの意思決定を研究する。国も個人も、リソースは限られており、その限られたリソースをどう使うかを考えるのが経済学なのだ。本書はそう説く。

「マクロ」「ミクロ」という言葉に怯む人も、こんなふうに段階的に教えられたら、「なるほど」とすんなり理解できるのではないだろうか?

こうして、「限界分析」「生産関数」「上限価格」「対外純投資」といった概念に至るまで、本書は段階的に説明していく。

知識を網羅できる教科書

本書の良いところは、「これ一冊をしっかり読み込めば、ほとんどの経済学の基礎知識は網羅できるところ」。

たとえば世の中には、「とにかく分かりやすい」「すごく読みやすい」入門のハードルを下げてくれる本も存在する。経済用語に取っつきづらさを覚えている、そもそも経済を勉強するモチベーションを上げてほしい……そう感じている人は、本書ではなく、もう少し簡単な入門書を読んだほうがいいだろう。あくまで本書は「金融教育最先端のアメリカで、高校生に教える経済学の知識」をまとめた本だから。

しかしちゃんと経済のことを理解したい、そして経済のニュースに対して「?」と首を傾げたくない。そういったモチベーションが既にある人には、ぜひとも本書をおすすめしたい。入門書ではなく、経済学の基礎知識を一冊にまとめてくれた良書として。

日々忙しい私たちにとって、何冊も本を読んで基礎を固めることはなかなかできない。だからこそ本書のような「とにかくこの本に書かれてあることが理解できれば、知識を網羅できる」教科書は必要なのだ。

たくさん勉強しなくてはいけない高校生にも、あるいは仕事で忙しいサラリーマンにも、家事や育児に追われる人々にも、「とにかくこの一冊」としておすすめしたいのが、本書となっている。

経済の参考書としても使える!

そして本書は、本気で経済の教養を身に着けたい人にもちゃんと応えている。というのも、最後の数ページに「知っておきたい経済用語集&索引」が掲載されている。つまり五十音順で、経済用語の索引とその説明が簡単に記載されているのだ。これ、本気で経済の勉強をしたい人にとっては、かなり使えるのではないだろうか。

たとえば「金融セクター」という用語を見る。そして自分がその言葉の意味をすらすら答えられないな、と気づく。そうしたら「金融セクター」の用語説明を読む。そしてさらに意味がわからなければ、説明されているページの箇所に飛んで(詳しい説明が書かれてあるページ数が記載されているのだ)、ちゃんと意味を理解できるようにする……。そんな勉強法が可能になっている。

もちろん、ここまで本気で経済用語を覚えようとする人は少ないかもしれない。しかしやろうと思えばそこまでできるというのは、すごく良い本だなあ、と思う。一家に一冊置いておきたい、経済の辞書として使いたい、という気にもなる。

なんとなく聞いたことがある単語であっても、いざ意味を説明せよと言われると詰まってしまう。しかしこの経済用語集があれば、「とりあえずここに載っている用語はだいたい分かるぞ」という水準まで自分を高めることができるのだ……。もはやここまでくると、教科書というより、参考書の域ではあるが。

日本では考えられないほど、高水準で、大人もじゅうぶんに使える「経済の教科書」。本書を使って、この夏は、経済ニュースで意味の分からない箇所がないようにすることを目標とする……のも一興ではないだろうか? もちろん経済学を学びたいと考えている日本の現役高校生にもおすすめしたい。参考書としても、教科書としても、使えるであろう一冊なのだ。

著者/ライター
三宅 香帆
京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程退学。会社員生活を経て、現在は文筆家・書評家として活動中。 著書に『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』などがある。近著『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない 自分の言葉でつくるオタク文章術』が23年6月発売。今年フリーランスになったことをきっかけに、お金の勉強を始めている。

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