本から開く金融入門

【三宅香帆の本から開く金融入門】

10代のための「経営」入門におすすめ『13歳からの経営の教科書』

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10代のマネー教育は、どこから始めるべき?

この記事を読んでくれている方のなかには、学生さんで、夏休みを謳歌している方もいるかもしれない。あるいは、夏休み中の子どもが家で過ごしている、という方もいるかもしれない。そんな方々におすすめしたい本がある。

それは、『13歳からの経営の教科書 「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語』(岩尾俊兵/KADOKAWA)。

なんとタイトル通り13歳でも読める、「経営」の教科書だ。

えっ、13歳に経営? 早くない? と驚かれるかもしれない。だが全然早くはないのだ。

この連載の初回で見た通り、現代でマネー教育は小中学生のカリキュラムに取り入れられつつある。経済に関する知識について学ぶことは、決して早すぎる勉強ではない。むしろ昔よりずっと、学生時代からどんどん知識を得ていくべき分野なのだろう。

とはいえ、10代の子どもたちに「じゃあ、経済って、何から学べばいいの?」と問われても、答えに詰まってしまう。何から学べばいいんだろう。

私は本書を読んで、「経済のなかでも『経営』の考え方を最初に学ぶのって、経営しようと思っていなくても、すごくいいな」と思ったのだ。

そう、10代の子どもたちにまずは本書をおすすめしたい。

「お金や社会の仕組みに興味を持ったら、まずは『経営』を勉強してみたらどうだろう!」と。

「経営」の知識は、人生の役にたつ

本書の著者は、その執筆経緯を「自分の人生を経営に助けられてきたから、日本の沢山の人にその知識を普及させたい」と語る。

私は、これまで何度も「経営」に助けられてきた。
それどころか、いまの私があるのはすべて「経営」のおかげだといっても過言ではない。その意味で、私が幼少期から経営の極意を父に叩き込まれたのは、これ以上ない幸運だったといえる。私の父は「目の前の人を幸せにするのが経営だ」「人間は誰しも自分の人生の経営者だ」というメッセージを私に繰り返し伝えた。
(中略)
いつの間にか、「自分の人生は自分で経営する」が私の信条になった。
それとともに、この経営の心と知を、自分が独占してしまうのは間違いである、それは悪徳である、という意識が私の中で次第に大きくなっていった。
(『13歳からの経営の教科書』)

著者は医療用ITや経営学習ボードゲームの分野で起業し、現在は経営学の大学教授となっている。しかしその知識は、経営者であった父から譲り受けたものだという。基本的に資本家の子どもたち――つまり経営者の子どもたちの多くは、「経営」の知識を親から学ぶ。しかしそうでない子は? もっとたくさんの人に経営教育を届けるにはどうしたらいいのか? そんな思いから著者が生み出したのが、本書だったのだ。

「経営の心と知は、誰にとっても有益だ」と語る著者は、本書をただの経営入門書で終わらせない。というのも、本書は「物語」と「教科書」の二部構成となっているところが特徴的なのだ。

「会社」の仕組みと成り立ちを教えてくれる

【物語】パートの主人公となるのは、中学生たちだ。一年一組のヒロト、リン、ユウマ、アオイはそれぞれ趣味も性格も異なるが、ひょんなことから一緒に「経営」を実践することになる。

それは、ヒロトがある日『みんなの経営の教科書』という本を見つけた時から、始まった。

ヒロトはその本を読み、学校で育てている野菜を売るビジネスを思いつく。リンの家の店の一角を借り、彼らはかなり安い値段で野菜を売ることに成功する。

そしてヒロトたちは、教室で「放課後にいろんなものを売る」株式会社を立ち上げるというアイデアを実践しようとする。そう、クラスメイトのなかで、株式の仕組みを生み出そうとするのだった。しかしそれが先生にばれてしまい、ヒロトたちのビジネスは暗礁に乗り上げてしまう……。

このように、中学一年生たちが、あくまで自分たちの身近な範囲で「経営」をしてみるとどうなるのか? という物語を描いたのが、このパートになっている。児童小説風に語られる物語は、「株式」「マーケティング」「合併」などの本格的な経営用語を噛み砕いて私たちに手渡してくれる。

一方で【教科書】パートでは、ヒロトたちが読んだ『みんなの経営の教科書』を、私たち読者も実際に読むことができる。

「基礎編」では事業や起業、需要と供給、販売と広告について。「中級編」では「製品開発」「マーケティング」「ロイヤルティ」といった用語、そして「応用編」では「セグメンテーション」「費用とコスト」「ポジショニング」といった用語についての説明がなされている。

そもそも株式会社とはどのような仕組みなのか?

こうして【物語】と【教科書】の両面から、本書は「経営」に必要な知識と心構えを教えてくれるのだ。

人生は「経営」していくもの、という感覚

著者は「経営」について以下のように綴る。

ちなみに経営は株式会社だけのものではない。経営はすべての「組織」に必要なもので、その組織の中には株式会社もあれば学校や役所などもある。そうしたすべての組織に経営が必要なのだ。
それに、人は誰だって自分の人生を経営している。やりたいことがあったら、目標を立てて、計画をして、誰かの力を借りながら、経営していかなければ実現できない。だから、すべての人にとって経営は必要不可欠だ。
(『13歳からの経営の教科書』)

正しい答えなんてない。自分で答えのない問題を考え続けなくてはいけない。そういう意味で、この「経営」の知識は、きっと人生の役に立つ。そう本書は伝え続けている。

正直、経営の知識の入門書だけならほかにもある。マーケティングやコストについて学ぶことのできる本はたくさんあるだろう。だが、本書は一貫して「みんな人生を経営しているということを自覚すべきだ」「主体的に人生を変えていくという意識を持つべきだ」と主張している。

嫌なことや失敗があったとしても、それも踏まえて、やりたいことをやるために試行錯誤する。その意識が必要なのだと、本書は繰り返し説く。

きっと13歳から読める本だからこそ、こういう心構えや価値観の部分を多めに本書は伝えている。
「人生には、主体性が必要な場面がたくさんあるし、主体性をもって人生を動かしていけばもっと楽しい人生になる」と言ってくれる大人がいる……そのこと自体に励まされる子どもたちもいるのではないだろうか? 「仕事が辛いと嘆く大人は多いかもしれないが、世の中には、起業や経営というものを通して、いきいきと人生を楽しんでいる人もいるのだ」と本書は暗に説いているのだ。

物語に描かれているビジネスや、経営用語は、もしかすると中学生にとっては、遠い世界の話に思えるかもしれない。しかしその根幹にある「人生も経営する意識で動かしていくと、もっと主体的に楽しめるようになる」という考え方は、10代のうちに読んでおけば、きっと役に立つ人が多いのではないだろうか。10代の子にまずは勧めたい、「経営」入門の一冊である。

著者/ライター
三宅 香帆
京都大学大学院人間・環境学研究科卒。会社員生活を経て、現在は文筆家・書評家として活動中。 著書に『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』などがある。フリーランスになったことをきっかけに、お金の勉強を始めている。

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