投資家の本棚

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【エコノミストのエミン・ユルマズさん】伝説の投資家が“株は普段の生活から選ぶ”と教えてくれた『ピーター・リンチの株で勝つ』

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投資家としての一面も持つ各界のトップランナーに、投資への想いとオススメの本を訊くこちらの企画。今回登場するのは、エコノミストのエミン・ユルマズさんです。

実はかなり珍しい経歴を持つエミンさん。トルコ・イスタンブールの出身で、16歳のときには国際生物学オリンピックの世界チャンピオンに。その後来日すると、東京大学工学部を卒業し、同大学修士課程を修了。野村證券に入社し、投資の世界に飛び込みました。2014年に退社してからは、投資家を育成する「複眼経済塾」を立ち上げて、現在に至ります。

そんなエミンさんが紹介する書籍は、ウォーレン・バフェットと並んで“世界最高の投資家”といわれるピーター・リンチの一冊。いまでは当たり前のように聞く「テンバガー(株価が10倍以上に成長する銘柄のこと)」という言葉を作り出した人物であり、彼の哲学がこの本に詰まっているとのこと。

ただし、内容は決して難しくありません。むしろ「いますぐ投資したくなる銘柄を見つける方法が書かれていますよ」とエミンさん。詳しく聞いてみました。

彼がもっとも利益を上げた企業への投資は「妻の買い物」がヒント

――今回ご紹介いただく書籍は『ピーター・リンチの株で勝つ〜アマの知恵でプロを出し抜け〜』(ピーター・リンチ他:著、三原淳雄、土屋安衛:訳/ダイヤモンド社)です。どんな内容なのでしょうか?

エミン:これから投資を始める方に読んでいただきたい、バイブル的な本ですね。ピーター・リンチは、凄まじい投資成績を残してきた人物です。たとえば彼が運用した投資ファンド「マゼラン・ファンド」は、1977年から1990年までの13年間で年平均29.2%のリターンを得ていたのです。1800万ドルからスタートした資金が、13年で140億ドルまで膨らんだんですね。

――すごいですね……。

エミン:伝説的な投資家といえばウォーレン・バフェットが有名ですが、彼が狙うのはどちらかというと伝統的でビジネスも長年安定している企業、それでいて株価が割安な「バリュー株」が多い。

対するリンチは、むしろこれから大きく成長しそうな企業に投資するスタイルでした。テンバガーという言葉を流行らせたのも、この人なんですよ。

――将来の大企業を早いうちに見つけるのが、リンチの投資スタイルなんですね。この本には、そのノウハウが書かれているということでしょうか。

エミン:そうですね。特に読んでもらいたいのが、彼の銘柄選びにおける考え方です。おそらく皆さんは、すごく理論的で難しい内容だと思うでしょう?(笑)。そんなことはまったくありません。むしろ株式投資はシンプルなものであり、銘柄を選ぶにも「自分の身の回りの生活から考えればいい」と言っているんです。

――身の回りの生活から、選ぶ銘柄を考える……

エミン:普段よく使っている製品やサービスの中から、投資先を見つけましょうということですね。本の中におもしろい事例があります。リンチの父は昔から投資をしていて、いろいろな情報を調べるうちにある先進技術を持つ企業に投資した。息子にもそれを自慢していたようです。

一方、リンチの妻は、当時専門店でしか売っていなかったストッキングが、自分の愛用メーカーだけはコンビニや小さな駅の売店に並び始めていることに気づいた。買い物をする中で。

実はこのメーカーが、リンチの投資においてもっとも儲かった企業の1つになったのです。父のような情報収集よりも、身近な生活にヒントがあった。消費者だからこそ、ストッキングのビジネスモデルが変わり始めていたことに、いち早く気づいたのです。

――なるほど。

エミン:いつも使っているとわかることはたくさんあります。たとえばリーマンショックの後にネットフリックスとドミノ・ピザの株価は大きく上がりました。理屈はシンプルです。失業者の増加や景気が悪くなって家にいてピザを食べながら映画を観る人が増えた。

でもドミノ・ピザについては、もう1つ理由がありました。この時期に社長が代わり、味を大きく改善していたんです。使うチーズやオリーブなど、細かいところまで。こうした変化は、普段から食べている人なら気づきますよね。

――その気づきを活かして銘柄を選ぶということですか。

エミン:難しい理論を勉強するより、ましてや世の中に出回っている「おすすめ銘柄」のような情報を信じるより、普段の生活で使っているものの方がよっぽど詳しくその製品や企業を理解しているし、自分で変化も感じられます。「前より便利になった」とか「美味しくなった」とか。

その感覚をもとに株を買うところからスタートしたらいいと。もちろん理論を学ぶのも大事ですが、自分の中にある狭くて深い知識、ローカルナレッジを活用しようというのが、リンチの考え方なんです。

生活にはたくさんの上場会社が関わる。気になったらAIで調べてみて

――とはいえ、自分が普段使っているものの中から、そんなにうまく銘柄を探せるものでしょうか。

エミン:いくらでも探せますよ。皆さんが使うスマホはアップルやGoogleが関わっていますし、その中の半導体やマイクロプロセッサーに携わる上場会社もたくさんある。会社に来ていくスーツや革靴を買ったお店、通勤中に立ち寄るコンビニ、牛丼やファストフードのお店、日々乗っている電車。みんな上場会社が関係しています。生活で関わっていない人なんていないんです。

――その中から銘柄を見つけてみると。

エミン:このお店いいな、このサービスいいなと思ったら、その会社が上場しているか検索してみてください。いまならAIに聞けばすぐ教えてくれます。

――やってみたいと思います。ちなみに最近は、いまおっしゃったAIやインターネットでの情報収集が一般的になっていますが、あえて本で投資を学ぶ意味はどこにあるのでしょうか?

エミン:裏側の仕組みがわかることです。確かにAIやインターネットなら、わからないことがあったとき、すぐ答えにたどり着けます。でもそれでは、この答えに至った理由、背景まで深く理解できない。本を一冊読めば、1つのテーマでも歴史や成り立ちなど、裏側を学べます。

 いろいろなお寿司をひたすら食べ比べるより、握り方を知ってから味わうと、それまで見えなかった“差”に気づけるかもしれません。株も同じです。表面的な情報だけでなく、なぜそうなるのか、なぜこの時期にこの銘柄が上がるのか。裏側を理解すると、もっと楽しくなると思いますよ。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2023年7月現在の情報です

著者/ライター
有井 太郎
ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。
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